昨年から明らかになった個人向け過剰融資問題が示す通り、長引く低金利を背景に銀行の収益環境が悪化する中、個人向けローンは数少ない高収益事業です。そのため、住宅ローン設定時の金融機関は、“お客様は神様です”のような手厚い対応を取ります。

しかし、金融機関にとって焦げ付きは絶対に避けなければならないのは今も昔も同じです。実際、住宅ローン返済が困難になった場合、残額の一括返済、しかも高額な遅延損害金を付加して請求してきます。

この一括返済請求の基準は、債務者の収入や金融機関により異なりますが、概ね1~2カ月滞納でイエローカード、3~4カ月滞納でレッドカードというところでしょうか。しかしながら、現実的には、月々の返済ができずに窮地に陥っている人が残額の一括返済などできるはずがありません。

その場合、居住している住宅を売却して返済資金を捻出することになりますが、一部の例外(高級物件など)を除くとローン残高が売却金額を上回るケースがほとんどです。つまり完済できないまま、その後に住宅から退去することになるのです。

では、その売却手続きが上手くいかない時はどうなるのでしょうか? その場合、金融機関から不動産競売に掛けられます。そして、裁判所による手続きを経た後、住宅から強制退去させられます。

金融機関は融資金額が焦げ付く懸念が高まると、債権回収のためにありとあらゆる手段を講じてきます。“昔のサラ金じゃあるまいし、いくら何でも金融機関がそこまではしないだろう”という考えは甘過ぎると言わざるを得ません。

改めて聞きたい、「その住宅ローン、本当に返済できますか?」

住宅ローン破綻に陥らないためのキーワードは「借りられる額」と「返済できる額」は違うということでしょう。特に、低金利の現在は、融資額そのものが膨張する傾向にあります。10月に予定されている消費増税前には、新規住宅ローンの駆け込みが見込まれます。十分過ぎるほどの注意が必要でしょう。

さて、この記事を最後まで読んでいただいた方で、既に住宅ローンを抱えている人、そして、これから新たに住宅ローンを組もうとしている人へ、金融機関の勤務経験がある筆者から真剣にお尋ねしたいと思います。「その住宅ローン、本当に返済できますか?」。

葛西 裕一