加速する経済成長力:中国グレーターベイエリア(大湾区)の大きな可能性<HSBCレポート>

かつて地方の片田舎だった珠江の河口周辺地域が、今や世界の工場に発展しています。この地域はすでに中国経済の中軸をハイテクと革新的な製造業とサービス業へ移行させる力の発生源であり、中国国内で最も経済的な活気に溢れています。

この珠江デルタ地域はすでに40年にわたる発展を続けてきました。そして現在はグレーターベイエリア(大湾区)として新たな発展段階に入っています。

2月に中国政府が発表した珠江デルタ地域の発展計画は野心的かつ包括的な内容であり、域内9都市だけでなく、隣接する香港とマカオといった司法や規制、金融に独自制度を有する特別行政区も対象にしています。政府当局はこれらの地域間の経済的連携を強める計画を提示し、すでに経済活力の源となっている地域を一段と強化することを目指しています。

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この計画は、対象となる地域の広大さからも世界的に見て最も重要な経済統合構想の一つと言えるものです。これら地域を合わせると経済規模ではすでにカナダ一国にほぼ匹敵します。珠江デルタ地域だけで2017年のGDPは1兆1,000億米ドルに達し、さらに香港とマカオを加えると1兆5,000億米ドルにまで拡大します。大湾区全体の人口は約7,000万人と英国を上回っています。また1人当たりGDPは中国全体の平均を優に上回り、相対的に裕福であることから巨大な消費者市場となっています。

このため、世界中の企業が大湾区に注目していくものと思われます。ドイツの自動車部品メーカーも、日本の小売企業も、そしてスイス、マレーシア、インドネシア、メキシコの企業も、中国国内での仕入れや販売、製造を検討するのであれば、自社や自社のサプライヤー、事業パートナーがすでに直接的あるいは間接的に大湾区経済に結びついていると考えられます。

4月には東京で、世界的規模の新たな湾岸地域としての大湾区に関するシンポジウムが開催され、政財界から1,000人を超す参加者が集まりました。大湾区は中国市場の発展と開放のために戦略的に重要であり、日本企業が事業機会を見出す際の理想的な地理的条件を提供しています。シンポジウムでは、技術革新やテクノロジー、また最先端技術の医療サービスを高度化するスマートヘルスなどに関する議論が交わされました。これらのテーマは中国関連事業に関わる日本企業にとってはいずれも重要なものです。

今後は新たな大湾区発展計画の柱である地域的繋がりの強化や規制面の調整を通じ、事業運営や新規の事業機会獲得が円滑化されることが予想されます。

その取り組みにおけるさまざまな法的判断を通じて、たとえば労働市場や居住政策、環境保護、規制基準、査証要件などに関する問題が改善され始めています。またインフラネットワーク構成やスマートシティ開発のための方策が研究されています。

すでに税制の分野では進展が見られ、広東省では香港在住の専門家の一部に対して租税補助金が交付されています。また対象を絞った資本取引の自由化が進んでおり、香港在住の市民による中国本土での銀行口座開設や家計支出の支払いが一段と容易になっています。こうした政策を背景に大湾区全域における資金の移動は一段と円滑になると予想されます。

大湾区は特別な地域です。ハイテク製造業の能力がこれほど急速に進歩することを可能にし、また巨大な消費者市場、優秀な人材、国際金融、国際物流がこれほど近接し集積しながら大きく発展している地域はおそらく世界に類を見ないでしょう。

かつては輸出向けの低価格の衣料品あるいは玩具の製造拠点として知られていた深セン市や広州市、そして他の珠江デルタ都市では、急速な産業転換が進み、現在は先進のエレクトロニクス製品やクリーンエネルギーシステム、さらにはバッテリー技術およびドローンなどを製造する最先端工場やデザインセンターが主役になろうとしています。

マカオは国際的な観光とレジャーの中心地に成長し、またポルトガル語を母国語とするブラジルなどの国々との貿易拠点としての役割を果たしています。

香港は資本、教育、調査、起業のノウハウを地域に提供し、また隣接する中国本土の企業にとって極めて重要な国際的中継地としての役割を担いつつ、エリア内の相乗効果に貢献しています。また世界的な金融センターとして、企業経営やイノベーション、起業精神、さらには香港以外の域内都市での生活の質に至るまで、国際標準の導入を支援しています。

香港は企業や投資家が世界から中国本土を目指す際の入り口としても定評があります。香港の株式市場は深セン市場と上海市場にストックコネクト制度で繋がっています。貿易と投資における中国通貨の利用が世界に一段と広まる中で、香港と大湾区は中国本土と世界との資本移動の一段の自由化に向けて最も先進的な役割を果たしていくことになるでしょう。

大湾区構想は長期的なものであり、一夜にして変化が生じることはないでしょう。計画の内容は2022年までに域内の統合を十分に進め、さらに2035年までに国際的競争力を備えた効率的かつ革新的な経済の中心地に発展させようというものです。

過去数十年にわたって各都市それぞれが相互補完的な強みを生かしながら域内関係を構築してきたため、大湾区計画には強固な基盤があります。

域内の事業にはすでに将来的な可能性が見出されています。HSBC、KPMG、香港総商会が昨年実施した調査では域内で事業を行う企業経営者の8割近くが、大湾区が中国の他の地域よりも今後3年にわたってより大きく成長すると予想しています。

まだ域内に参入していない企業も、大湾区についてより詳しく知りたいと考えているかもしれません。

HSBCグループ 香港上海銀行 副会長 兼 チーフ・エグゼクティブ / HSBCグループ マネージング・ダイレクター
ピーター・ウォン(Peter Wong)

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香港上海銀行 副会長 兼 チーフ・エグゼクティブ/HSBCグループ マネジング・ダイレクター

約40年にわたる国際的な金融業務経験を有する。2010年2月に香港上海銀行チーフ・エグゼクティブに、2013年に同行の副会長に就任。HSBCグループのボードメンバー(マネジング・ダイレクター)も兼任。

その他、HSBC銀行(中国)有限公司の会長兼社外取締役、また香港の恒生銀行社外取締役の他、中国の交通銀行の非常勤副会長を務める。