政府の財政赤字と日本国の経常収支黒字を混同してはならない、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。
「国の赤字」は「中央政府の赤字」
「国の赤字は巨額で、国の借金も巨額だ」と言われますが、その場合の国というのは「地方公共団体とは異なる中央政府」という意味です。決して日本国という意味ではないので、注意が必要です。
国の収支は「財政収支」と呼ばれます。中央政府の取引を記録したもので、「中央政府の家計簿」です。
日本国と海外との取引を記録したものは国際収支統計と呼ばれていて、その中で「日本国の家計簿」と言えるのが経常収支です(文末の初心者向け解説を参照)。こちらは大幅な黒字となっています。
日本国を中央政府とそれ以外(以下では民間と呼びます)に分けて考えてみましょう。中央政府の家計簿は赤字ですが、民間の家計簿は大幅黒字なので、両者の合計としての日本国の家計簿は黒字だ、ということになります。
父さんは給料以上に消費をして家計簿が赤字なのに、母さんは給料のほとんどを貯めていて家計簿が大幅黒字である、という一家をイメージすれば良いでしょう。夫婦合計の家計簿は黒字でしょう。
きっと、母さんは使い残した金の一部を父さんに貸し、残りを銀行に預金するはずです。
同じことが、国のレベルだと「民間部門の貯蓄超過分の一部が政府への貸出に使われ、残りが対外純資産になっている」というわけですね。
国の赤字は民間の黒字になる
国が税収より多くの支出をしているから財政が赤字なのですね。税収が足りないのに政府が公共投資をするとします。そのための資金を銀行から借ります。借りた資金を建設会社に払います。建設会社は銀行に預金します。これで取引一巡です。
建設会社が材料を購入したり労働者を雇ったりして対価を支払ったとしても、それは民間部門内部の話ですから、特にここでは何も起きなかったという扱いになるわけです。
結果として政府は赤字となり、負債が増えますが、一方で民間部門は黒字となり、資産が増えます。こうして民間部門は中央政府に対して貸出が増えていくわけです。
当然ながら、日本国の外国との間は取引が行われていませんから、経常収支は赤字でも黒字でもありません。
輸出企業の受け取った代金は対外資産となる
輸出企業が外国から外貨を持ち帰ってきたら、銀行で売ります。売って日本円を得て社員の給料や材料の仕入れに使うためです。その外貨を買うのは民間部門の投資家です。投資家は、外貨を買って外国に投資をします。
輸出企業と投資家の間の取引は民間部門内部なので、ここでは特に何も起きなかったという扱いになりますから、結局「輸出代金の分だけ民間部門の対外資産が増えた」という記録が残ります。
投資家が海外から受け取った利子や配当を再度外国に投資した場合や、別の投資家に売って別の投資家が海外に投資した場合にも、同様に民間部門の対外資産が増えます。
これらの取引には政府は登場していませんから、経常収支の黒字分だけ民間部門の対外資産が増えています。
中央政府と海外との取引は少ないでしょうから考えないとすると、上記のような取引の結果、民間部門は中央政府に対しても海外に対しても資産を持つことになるわけです。
経常収支は日本国の家計簿(初心者向け解説)
経常収支は貿易収支、サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計です。これが日本国の「家計簿」だと言える理由を考えてみましょう。