1つは、米国の物価と日本の物価が同じになるような為替レートが「適正」だという考え方です。米国の方が物価が高ければ、日本の輸出が増えて円安が是正されるはずだからです。
今ひとつは、過去に米国はインフレ、日本はデフレだったので、過去と比べて日本製品の輸出競争力が増しているはずなので、貿易黒字が膨らんで円安が是正されるはずだ、という考え方です。
しかし、いずれも説得力に欠けています。適正レートより円安なのに、実際の貿易黒字は減っているのですから。
企業が円安でも輸出を増やさない理由としては、貿易摩擦への対応、為替リスクを避けるため、地産地消で現地のニーズを取り込むため、等々の説明がなされています。筆者自身、納得できない面もありますが、実際に貿易黒字が減っているのですから、何らかの理由があることは間違いないでしょう。
つまり、適正な為替レートを求めること自体は、理論的には正しいけれども、今の日本の状況を考えると意味がない、ということになります。
したがって、「今の為替は円安過ぎるから、短期的にはともかくとして、中長期的には円高になるに違いない」と考えるのは危険だ、ということになりそうです。
今後については労働力不足による工場流出も
そして今後については、今ひとつの重要な要因が加わりそうです。少子高齢化による労働力不足で、国内工場を閉じて海外に工場を移転するという動きです。
極端な話、現役世代が全員で高齢者の介護に従事すれば、製造業の工場はすべて海外に出て行くでしょう。
もちろん、これは極論であって、実際にはそうはなりません。そうなれば極端な円安になり、極端な円安になれば、「高い給料で内需型産業から労働力を奪って来て国内で生産して輸出して大儲けする」という輸出企業が出てくるからです。
しかし、「今後も労働力不足は少子高齢化で厳しくなっていくことが容易に予想できるので、多少の円安程度なら無理をしない」、ということは言えそうですから、適正レートより円安の現状は、もしかするとずっと続くのかもしれませんね。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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塚崎 公義