「財政赤字は問題ない(MMT)」はトンデモ理論? その危険性とは

上記のようなリスクはありますが、政府の破産とか超インフレとかを心配する必要はありません。さすがに先進国政府は、いくら人気取りに熱心だとしても、政府の破産や超インフレが差し迫っている時に増税や金融引き締め等を行う分別はあるでしょうから。

したがって、単純に「財政赤字は怖いので、緊縮財政を採用すべきだ」ということにはなりません。世の中の人が心配するような、緊縮財政で景気が悪化してしまうリスクと見比べながら、適度な財政赤字のあり方を模索する必要があるわけです。

筆者は積極財政論者ですが、だからといって「財政赤字は気にしなくて良い」とまで言うつもりはありません。緊縮財政のリスクを普通の人より大きめに考えているので、「緊縮財政を焦るな」と言っているだけです。

米国には、日本より慎重になってほしい

日本政府が景気を重視して財政赤字を膨らませ、結果としてインフレ等が起きて引き締めが行われたとしても、政策のメリットもデメリットも概ね日本国内で完結します。

しかし、米国が同じことをすると、メリットが概ね国内だけに及ぶ一方で、デメリットは世界中に及びます。米ドルは世界中の貿易や投資や融資などに用いられていますから、米国の金融引き締めは世界的な貿易や投資や融資を激減させかねないのです。

たとえば米国のメリットが100、米国のデメリットの期待値(事件が起きる確率と事件が起きた時の悪影響の積)は50、米国以外のデメリットの期待値が100であった場合、米国はMMTを採用するインセンティブを持つことになります。米国以外の国としては、大変迷惑な話ですが、米国の政策に口を出せる立場にはありませんから、米国が「米国ファースト」を貫かないことを祈っています。

幸か不幸かユーロも人民元も米ドルに代わる新しい基軸通貨にはなりそうもなく、次が見当たらないので、米ドルが基軸通貨の座から滑り落ちることはなさそうですから、基軸通貨の交代に伴う世界経済の混乱までは心配しなくてよさそうですが。

外貨建て負債の多い国は、MMTは厳禁

余談ですが、日本のように対外純資産が巨額である国や米国のように自国通貨で借金ができる国は別として、それ以外の国はMMTを検討すべきではありません。政府自身の借金が自国通貨建てだとしても、民間部門が外国から多額の外貨を借りるのは大変危険なことであるため、外国の銀行や投資家を不安にさせるようなうようなことは厳に慎むべきだからです。

外国の銀行が不安を感じて「返せ」と言ってくると、民間企業は自国通貨を外貨に替えて返済することになります。最初の返済は良いのですが、最初の返済のために外貨を買うと、外貨が値上がりするので、2度目の返済は最初より大変です。

3度目以降も返済のために必要な自国通貨が増え続け、最後に返済要請を受けた民間企業は返済できなくなるリスクがあるからです。したがって、MMTが一般的な経済理論となることはできないでしょうね。

日本や米国でも、人々がインフレや政府の破産を予想するか否かを政府が予想することは、地震の予知と同じくらい難しいでしょうから、「危険なことには手を出すべきではない」ということなのかもしれませんね。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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