米国で「財政赤字は問題ない」という新理論が話題になっていますが、積極財政論者で財政赤字に楽観的な久留米大学商学部の塚崎公義教授でさえも、「やはりMMTは危険だ」と説いています。

「財政赤字は問題ない」という新理論が米国で話題に

米国でMMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)と呼ばれる理論が話題となっています。民主党左派が財政支出拡大を求める際の理論的根拠として支持しているようです。

一言で言えば「政府は無限に借金することができる」というのです。現代金融理論という名前の通り、伝統的な経済学や金融理論とは全く異なったものであり、当然のことながら、主流派の経済学者等々からは批判されています。

まあ、主流派の重鎮でさえも無視できずに批判せざるを得ない程度には、MMTが広まって来たのだろう、という具合に考えると良いのかもしれませんが(笑)。

「自国通貨で借金している限り、借金が返済できなくなることはあり得ないのだから、インフレにならない限り財政赤字は問題ないのだ」「失業が心配な時には借金をして景気対策をし、インフレが心配な時には増税をして借金を返せば良いのだ」ということのようです。

彼らの理論を単純化すると「借金が増えると金利が上昇するかもしれない。そうなったら中央銀行に紙幣を印刷させて財政支出を行えば良い。それでインフレになりかけたら、増税すれば良い。増税すれば景気が冷えてインフレが収まり、借金も返済できて一石二鳥だ」ということだとして、大丈夫なのか考えて見ましょう。

インフレ、高金利を招く可能性あり

「財政赤字が10%増えると金利が1%上がる」「日銀が持っている国債の量が10%増えるとインフレ率が1%上がる」といった関係があるならば、話は簡単です。金利やインフレ率が高くなりすぎないように注意しながら少しずつ財政赤字を増やしていけば良いからです。

万が一金利やインフレ率が高くなりすぎてしまっても、小幅に増税することで財政赤字を減らし、景気を小幅に後退させてインフレを抑え込むことが可能でしょう。

しかし、問題は、金利や物価の上昇がある日突然やってくる可能性がある、ということです。財政赤字が膨らんでも、表面的には何事も起こらず、地震のエネルギーのように地下深くで溜まっていった後、何らかの契機で一気に溜まっていたエネルギーが放出されるわけです。こちらは地震とはメカニズムが異なり、人々の心理が影響するわけですが。

政府の借金が増えても、政府が破産すると人々が思わなければ、政府は低い金利で借金をすることができるでしょうが、ある日突然人々が「政府は破産するかもしれない」と思うようになると、政府に対して「高い金利を払わないと貸してあげない」と言い始めます。

政府が高い金利で借金をするようになると、「そんなに高い金利で借金をしたら、金利が払えずに破産するのではないか」と考える人が増えて、ますます政府は借金をしにくくなります。

そのうち、「返してほしい」という人が増えてくると、人々は一層心配になり、一斉に政府に借金の返済を求めることになります。破産が噂される銀行で発生するのと同様の「取り付け騒ぎ」ですね。

実際には、政府は中央銀行に紙幣を印刷させて借金を返済し、費用を賄えば良いので、本当に破産することはありませんが、そうなると世の中に大量の紙幣が出回ることになります。

今の日本のように、大量の紙幣を受け取った銀行がそれを日銀に準備預金するのであれば良いのですが、人々が一斉に預金を引き出して物を買うようになると、銀行が準備預金を引き出して預金者に現金を渡すため、文字通り大量の現金が世の中に出回り、それを使って人々が物を買うので激しいインフレとなりかねません。

人々が突然物を買い始める契機としては、「政府が破産しそうだから、政府の子会社である中央銀行の発行した紙幣が紙切れになる前に使ってしまおう」と人々が考える場合もあるでしょうし、石油ショックのような出来事でインフレが発生し、人々が「値上がり前に急いで買おう」と一斉に買い物に出かける場合もあるでしょう。

そして、物価が上昇しはじめると、一層多くの人が「値上がり前に急いで買おう」と考えて預金を引き出すので、巨額の準備預金があっという間に引き出されて買い物に使われ、それがさらなる買い急ぎを誘ってインフレが加速し続ける、といったことになりかねません。

もちろん、先進国の政府や中央銀行は、適切に利上げや増税や預金準備率の引き上げ等々を行うでしょうから、本当のハイパーインフレが来ることはないのでしょうが、経済に相当大きなダメージが加わることは間違いないでしょう。

緊縮財政のリスクとの兼ね合いが重要