退職金1500万円はなかなか高いハードル
3月、4月は年度末ということもあって1年のうちでも最も退職金の支給される比率の高い時期です。そこで65-79歳1万2000人アンケートから退職金のことを少し考えてみましょう。
皆さんはご自身の退職金の金額を知っていますか?
まずは退職金の実態を見てみます。前述のアンケートでは、退職金制度とその金額の把握の時期・方法に関する設問を用意しました。回答した1万816人の平均金額は1,517.7万円(中央値は1,519.3万円)で、よく言われる退職金の平均金額とあまり変わりませんでした。
しかし、その分布はかなり広いものです。「退職金制度がない」と回答した人は25.5%で、制度があっても「退職金が出なかった」との回答者と合わせると実に31.8%と3割超える人が退職金0円だったのです。
残りの7割の方も受け取った退職金の金額はかなりばらついています。500万円刻みで回答を集計すると、500万円未満が15.5%、500-1,000万円が7.8%など、ほぼどの区分も10%前後の比率に分布しています。ちなみに、平均である1,500万円を超える退職金を受け取ったのは、37.5%で全体の3分の1にとどまっています。
退職が近づくまで退職金の金額を知らないのは美徳ではない
とはいえ、退職金は退職後の生活の大切な資金源です。にもかかわらずその金額を事前に把握している人は少ないように思えます。少し前の世代ならば「退職金は長らく働いてきたことへの報奨」といった意識が強くて、「その金額を確かめることは潔くない」といった考え方があったかもしれません。
また退職金の金額を知ろうとすると「転職や早期の退職を考えているのか」と勘繰られるのが嫌だとか、どこか心理的なものがあって、“自分はいくらもらえるのか”を後回しにしているのかもしれません。
退職金の把握時期をたずねると、「退職金を受け取るまで知らなかった」との回答が31.6%に達し、「定年退職前半年内」と回答した人と合わせると過半数に上ります。覚えていないという人も2割ほどいますから、実際には退職金がいくらかを事前に知って、それを退職後の資産形成の全体像に組み込んでいた人はかなり少なかったといえます。
またその金額を把握した方法について聞くと、7割が「会社からの通知」と答えており、資産形成の必要性を考えるきっかけとして、会社側もできるだけ早い時期から退職金の制度や金額を知らせる必要があるはずです。一方で、15.4%の回答者が「自分自身で計算」と答えており、こうした方法や実際にできるということを広く周知することも必要に思われます。
実際、「定年退職3年以上前に知った」と回答した972名のうち45.1%が「自分で計算した」と答えていますから、早く知るためのもう一つの方法は自分で計算できるようにすることのようです。
退職金は制度の有無やその受け取る金額にかなりばらつきがあることから、まずは自身の退職金の金額を大雑把にでも早い段階から把握して、それを退職後の生活のための資産形成の計画に組み入れることが大切だといえます。
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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史