本記事の3つのポイント
- 韓国半導体大手のSKハイニックスは中国・無錫での新工場の竣工式を開催。製造装置は一部搬入済みで、すでに初期量産を開始した
- 3月には、新たな半導体工場の拠点として龍仁(ヨンイン)を選定、22年から建設を開始する
- マグナチップの買収計画も浮上。国家レベルで非メモリー分野の育成に力を入れるなかでの動きともみられている
SKハイニックスは4月18日、中国無錫(江蘇省)半導体工場に対する追加投資を一部完了し、本格的な量産体制の準備を整えた。半導体装置を除いた生産スペースの確保だけで9500億ウォン(約950億円)を投入した新工場は今後、半導体景気が復活する時を見据えた先行投資とみられる。
だが、すでに同社は、韓国龍仁(京畿道)に2022年からの10年間で120兆ウォン(約12兆円)という大規模な半導体クラスターを構築する計画について韓国政府から承認を獲得しているだけに、過剰投資になるのではないかという懸念も燻っている。
中国無錫C2Fの一部を本格量産へ
SKハイニックスは4月18日、無錫工場で既存のDRAMラインであるC2に追加投資した拡張ファブ(C2F)の竣工式を開催した。C2Fにおける一部のクリーンルーム工事を終えて、装置搬入とともにDRAMの生産を開始している。現状では初期量産向けの装置だけが搬入された状態であり、今後、半導体市況などを見極めながら段階的に装置投資を進める計画だ。
C2Fは、微細工程の転換に伴う生産スペースの不足問題を解決するため、16年にラインの拡張方針を決めて、17年6月に着工した工場である。建築面積5万8000㎡(長さ316m×幅180m×高さ51m)の1階建てファブで、既存のC2工場と同じ規模。無錫工場では10nm後半および20nm台のプロセス製品を生産しているが、このうち、C2Fは10nm後半製品に対する生産補助の役割を担う。
今後、追加の装置搬入が完了し、フル稼働になった場合、無錫工場のDRAM生産キャパシティーは月産最大13万枚から18万枚規模に増設される。つまり、C2Fが完全に稼働した場合、SKハイニックスのDRAM生産量の半分程度を無錫工場から出荷することになる。
サムスン電子に次ぐ世界第2位のDRAMメーカーであるSKハイニックスは、今回のC2F稼働を通して、グローバル半導体市場における「規模の経済」を確保しつつ、後を追う米マイクロンとの格差をさらに広げる狙いだ。
しかし、韓国半導体業界の専門家らは、最近のDRAM価格が供給過剰によって激しく下がり続けていることを考えると、SKハイニックスは投資のペース調整に踏み切る可能性が高いという。19年4~6月期までは投資を見送り、それ以降の半導体市況によって弾力的に対応する戦略を取るとみられている。
市場調査機関のDRAMeXchangeによれば、19年3月、DDR4 8Gb基準のDRAM固定取引価格は4.56ドルとなり、前月比で11.1%下落した。DRAM価格の暴落を受けて、米マイクロンはDRAMとNANDフラッシュの減産を決めている。
SKハイニックスは、06年から無錫に半導体工場を建設し、DRAM生産を継続している。当時建設したC2は、SKハイニックス初の300mmラインで、同社の成長に大きく貢献している。
半導体クラスター構築に120兆ウォン投資
3月28日には、SKハイニックスの半導体クラスターの立地が韓国龍仁(ヨンイン)に最終確定した。韓国政府は経済活性化の一環として首都圏規制(ソウルおよび京畿道に製造工場を建てない規制)を緩和し、半導体クラスター構築を許可した。
韓国産業通商資源部(日本の経済産業省)は3月27日、龍仁に半導体クラスターを構築するため、産業団地の敷地を追加で供給する要請について、首都圏整備委員会の審議を通過したと発表。文在寅政権に入って初の首都圏規制緩和事例となった。
18年12月からSKハイニックス代表取締役社長に就任した李錫熙(イ・ソッキ)氏は「2022年から4棟の半導体ファブを建設する計画だ」とし、「50社余りの半導体装置・材料の協力メーカーとともに、さらなる半導体コリアの位置づけを高めたい」と意気込んでいる。「4棟のファブが完成すれば、月産80万枚強のキャパシティーを確保するほか、1万5000人以上の直接雇用ができる」(SKハイニックス)という。
龍仁に半導体クラスターが完成すれば、器興・華城(サムスン電子工場)、利川(SKハイニックス工場)一帯は世界最大規模の半導体生産拠点になる。同エリアでサムスン電子とSKハイニックスが稼働している半導体ラインは20棟を超える。サムスン電子は1984年から近年まで器興(キフン)と華城(ファスン)の合計17棟でDRAMとNANDフラッシュなどを生産している。また、SKハイニックスも利川(イチョン)にDRAMなどを生産する2棟を運営している。
とりわけ、同エリアには半導体関連の500社余りの協力メーカーが密集していることから、いわば「韓国半導体王国の都」といえよう。
マグナチップの買収合戦に参画か
また一方で、SKハイニックスは04年に構造調整の過程で手放したマグナチップ半導体のファンドリー事業を買収するという観測が、ソウル証券街でキャッチされている。
これについてSKハイニックスは「マグナチップのファンドリー事業には関心を持っているものの、具体的な意向は決まっていない」とコメントし、マグナチップ買収の入札に参加する可能性を完全に排除していないことを匂わせている。
マグナチップのファンドリーファブは、SKハイニックスのファンドリー子会社である「SKハイニックスIC」清州工場(韓国忠清北道)の敷地内に位置する。SKハイニックスICの中国移転を進めている最中、マグナチップのファンドリー事業を買収すると、韓国国内市場における空白を埋めることができる。文政権も非メモリー半導体の育成を国家レベルで強く後押ししているだけに、SKハイニックスがマグナチップの特許とノウハウを活用すれば、大きなシナジー効果が期待される。
だが、19年1~3月期の業績は、売上高と営業利益が前四半期比でそれぞれマイナス32%、69%と急降下している。半導体景気の不調が長引くようであれば、無錫C2Fのフル稼働に向けた追加投資をはじめ、龍仁半導体クラスター構築やマグナチップ買収など、SKハイニックスの一連の積極的な取り組みと投資戦略は、大幅な修正を余儀なくされる可能性もある。
電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢
まとめにかえて
DRAM市況が急速に悪化するなか、中国・無錫の新棟稼働の是非は見方が分かれるところです。ただ、業界内では現在の価格下落のペースで競争力を維持するには、微細化が1つの手立てと見られており、新棟を予定どおり稼働させたのは、こうした価格下落に対抗する競争力維持という見方もあります。
電子デバイス産業新聞