世界経済は2019年後半に再加速するか? 米中交渉は最終段階で波乱含み

IMFの「世界経済見通し」は目先厳しい見通しも

IMFが4月に発表した「世界経済見通し(WEO)」によると、2019年前半は世界経済の伸び悩みが続き、世界経済の70%を占める国々で成長率が落ち込むと予測されています。

世界経済は2017年に約4%の成長を遂げましたが、2018年には3.6%成長にややペースを緩めました。2018年に成長率が低下した理由としては、米中貿易摩擦の激化や、ドイツ自動車産業の混乱とその影響を受けた欧州経済の減速、中国経済の変革に伴う成長鈍化、アルゼンチンやトルコでのマクロ経済的なストレスが列挙されています。

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そして、2019年には3.3%成長にとどまるとIMFは予測していますが、多くの国で見通しに課題が非常に多く、短期的に大きな不確実性が存在することがクローズアップされています。

米中貿易摩擦は最大の不確実性材料

不確実性の最たる材料としては、やはり米中貿易摩擦が挙げられます。この数カ月ほど、米中両政府は通商協議を継続して来ましたが、いまだに決着を見ていません。

米国のライトハイザー通商代表部(USTR)代表・ムニューシン財務長官と、中国の劉鶴副首相は、相互にワシントンと北京を行き来して、協議を積み重ねてきました。4月には米中両政府が協議の進展に言及し、米中首脳会談の開催を含めて「非常に歴史的」な合意形成が近く、協議は最終段階に来ていると言われていました。

しかし、大詰めの段階で、協議が難航していることを認識させるニュースが出てきました。トランプ大統領は5月5日、「中国との通商協議は続いているが、進展があまりに遅い。中国側が再交渉を企てている」とツイートして、通商協議の進展のペースに不満であることを露わにしています。

さらに、トランプ大統領は、中国からの輸入品2000億ドル(約18兆円)相当に対する関税率を5月10日から現行の10%から25%へと引き上げる措置を採ると警告。それだけにとどまらず、これまで米国の関税の対象になっていなかった中国からの輸入製品3250億ドル(約29兆円)相当も近々、関税の対象にすると言及しました。

トランプ大統領が態度を硬化させた背景には、知的財産権の保護や技術移転の問題解決などに関して、これまでの米中協議の中で合意してきたコミットメントの幾つかを、中国側が反故にするような態度を取ったことがあるようです。

ライトハイザーUSTR代表は、「ここ1週間ほどで中国側のコミットメントに後退がみられた」と述べました。最終合意が近いとされる中で、合意文書の本質的な変更につながる内容の変更を要求するような中国の姿勢を、米国としては受け入れられず、トランプ大統領が不満を爆発させたのでしょう。

ムニューシン財務長官も、中国側が「これまでに交渉した、非常に明確な合意文言を後戻りさせようとしていることが週末にかけて明白になった。この後退によって合意内容が著しく変わる可能性があった」と中国の要求を非難しました。

トランプ大統領の突然の関税発動措置の表明に対し、中国政府が今週ワシントンで開催することが予定されていた第11回米中経済貿易ハイレベル協議に、劉鶴副首相の派遣中止を検討していると一部で報じられました。今回は、先週4月30日から5月1日まで北京で開催された第10回協議に続いての大詰めの協議になると見られ、劉鶴副首相は約100人もの大代表団を率いてワシントン入りする予定でした。

中国政府の公式な反応は今のところ表明されていませんが、第11回ハイレベル協議は、ワシントンで予定通り開催することで準備が進められているようです。

米国経済は堅調に推移。再加速の可能性は十分に有り

足元、米国経済は堅調に推移しています。5月3日に発表された米国雇用統計(4月)は、インフレが抑制された状況の中、雇用市場は安定的に「完全雇用」に近い状態で堅調に推移しているとの見方を支持するものでした。

今年の初めから米国経済の減速を懸念する声は根強いのですが、景気は比較的に安定した成長を続けていることが確認されています。加えて、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策スタンスが、引き締めスタンスから「辛抱強く」見守る姿勢に転換していることは、2018年とは異なる市場への支援材料として認識すべきではないかと筆者は考えています。

IMFも、不安定な中で始まった2019年ではあるものの、後半には経済成長が再加速する可能性を見込んでいます。再加速を見込む理由には、主要国での金融緩和政策が挙げられています。GDPギャップが縮小している環境下にもかかわらずインフレ圧力がないことが、これを可能にしており、米FRBのほか、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行もより緩和的な政策スタンスへと舵を切っていることを指摘しています。

したがって、不安定要因である米中通商交渉の成否は、今年の相場の方向感に大きな影響を与えます。トランプ政権内では、対中貿易政策で妥協をすべきではないとの強硬論を主張するタカ派も一定程度力を持っているため、大詰めの米中協議の行方は予断を許しませんが、筆者は、米中通商協議が軟着陸することを前提に、中国経済の政策発動・リスク回避策が奏功し一旦底打ちし、米国経済も足かせがひとつ取れ、景気腰折れシナリオの回避の可能性が高まることにつながることを予想しています。

米中協議の最終局面で、関税カードを引っ張り出したトランプ大統領の真意は、大統領ならではの交渉術なのか、それとも、やはり両国の間には埋めきれない溝が残っており合意は不可能なのか、今週は、大詰めの米中協議の行方を注意して見守りたいところです。

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長谷川 建一
  • 長谷川 建一
  • ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク
  • 取締役兼CIO (Chief Investment Officer)

京都大学卒、MBA(神戸大学)。 シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。
2004年末、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に移り、リテール部門マーケティング責任者として活躍。2009年からは国際部門でアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク)にてCOOに就き、2017年3月よりCIOを務める。