「超高齢社会」と呼ばれるほど高齢者の多い日本において、介護サービスはなくてはならない存在です。ご家族が介護施設に入っていたり、訪問サービスを受けていたりするという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

その介護業界で、近年「サービス利用者からのハラスメント問題」が深刻化しています。

介護職員に対するハラスメント

厚生労働省の実施した委託調査によると、訪問介護職員の約50%が、サービス利用者からのハラスメント被害を受けた経験があるそうです。

また、全国の介護職員らで組織されている労働組合が2018年に行ったアンケート調査では、介護現場で働く人の7割以上が、「高齢者やその家族からハラスメントを受けた経験がある」と回答しました。

介護業界において、職員がハラスメント行為を受けることは、私たちが思っている以上にあるのかもしれません。

なぜ起きるのか?

介護現場で起きているハラスメント問題には、主に暴力や暴言、セクハラなどが多いといわれます。

高齢者が介護従事者に対して、そうしたハラスメント行為に及んでしまう理由は、場合によってさまざまですが、そのうちの一つに「認知症の進行」があります。認知症の症状のせいで「これから何が起こるのか」「周りの人間が誰なのか」がわからなくなり、不安になって暴力をふるってしまうケースが多いというのです。また、風呂やトイレの介助の際に高齢者の自尊心が傷つけられ、暴力に至るというケースも多いようです。

また介護従事者には女性が多く、男性利用者からのセクハラ被害も多く聞かれます。とくに介護職員が高齢者の自宅に一人で向かう形の訪問介護では、密室性が高いため、ハラスメントが起きやすいという事情もあるとのことです。

介護従事者の声

介護従事者にとって高齢者やその家族は「お客様」にあたるため、暴力やハラスメントの被害を受けても強く拒否しづらいという事情が、ハラスメントをエスカレートさせてしまうことにつながっているといわれます。また誰かに相談したり被害を訴えたりすることが難しく、表面化しづらいという面もあります。

介護従事者からは、

「暴力は現場では日常的によくあること。もうあきらめてる」
「利用者さんに怪我させてしまった時などは、事故報告書を市町村に提出する義務があるのに、介護職員が利用者さんから暴力を振るわれて怪我をした場合の報告書の提出義務が無いのはおかしい」
「介護士が虐待した事件はすぐ世間に広めるのに、介護士が理不尽な暴言暴力に我慢しながら、低賃金で働いている事は全然取り上げてくれない」

などといった声が上がっています。

また、そういった介護従事者の声に対して、介護サービスを利用する高齢者の家族から、

「うちの父もヘルパーさんに暴力を振るっていたことがある。本当に申し訳ない」

といった反応も見られました。

介護職員から高齢者への虐待も

一方で、介護現場では逆に「介護職員が高齢者に」暴力を振るうという事件も起こっています。

2016年度の厚生労働省の調査では、介護職員による高齢者への虐待は452件にのぼり、10年連続で過去最多を更新し続けているといいます。

ただ、こちらのケースは、先ほど紹介した介護従事者の声にもあったように、比較的表面化されやすく、虐待行為が認められた職員が逮捕され、全国的なニュースとして取り上げられることも多いようです。

介護現場のハラスメント被害者を減らすには

このように、介護現場における暴力行為などのハラスメントは、介護従事者に対しても、高齢者に対しても、両方に生じています。これらはもちろんどちらも改善されるべき問題です。

しかし、前述の通り、通報・報道されやすい介護従事者からの暴力行為は罰されますが、一方で「社会的弱者」とされる高齢者からの暴力行為は、ある程度は「仕方がない」と言われたり、表面化しづらかったりという現状があります。介護従事者は、さらなる超高齢社会へ歩みを進める日本を支えていくために欠かせない、貴重な人材です。ただでさえ人手不足といわれる状況で、このまま介護従事者が守られず、勤務環境のよくない状態が続けば、そこで働く人が増えていかず、必要とされている介護サービスがうまく機能しなくなってしまうかもしれません。

そして、介護の現場で繰り返されている暴力やハラスメント行為は、決して他人事ではなく、身近でも十分に起こりうるトラブルです。身近な人がハラスメントの加害者や被害者になってしまうことを防ぐために、私たちも介護現場に対する意識を変えていくことが必要なのではないでしょうか。

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