「これくらい普通だろう」「自分は正しい指導をしているだけ」——

そうした思い込みが、気づかぬうちにハラスメントを生んでしまうことがあります。職場で起こるハラスメントは、悪意や意図的な攻撃だけでなく、「良かれと思って」「昔はこうだったから」という認識のズレから発生するケースも少なくありません。

本記事では、社会保険労務士・村井真子さんの著書『職場問題ハラスメントのトリセツ』(アルク)より、「自分を客観視する力が弱い人」が加害者になってしまうケースを紹介します。

次から早速内容を見ていきましょう。

1. 【職場のハラスメント】ハラスメント加害をしやすい人とは?

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『職場問題ハラスメントのトリセツ』

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職場のハラスメントについて、相談や当事者のヒアリングをしていると、加害者側の立場に立つ人にはいくつか定まったパターンがあるように思います。

ハラスメントに関する理解を深めるため、ここでは過去の事例や知見をもとに、加害行為に至る傾向をいくつかの類型として整理しています。

  • ①自分を客観視する力が弱い人
  • ②アンコンシャス・バイアスが強い人
  • ③感情のコントロールが下手な人
  • ④過去に自分が被害者となった経験がある人
  • ⑤過去の経験にとらわれやすい人
  • ⑥自己中心的な考え方をする人
  • ⑦コミュニケーションに癖がある人

もちろん、こうした類型化には「特定の人物を決めつけてしまう」「レッテルを貼ってしまう」といったリスクも伴います。同じような特徴を持つ人がすべてハラスメント行為を行うわけではありませんし、状況や背景によって意味合いも大きく変わってきます。

そのため、ここで示す内容は、あくまで理解の一助として捉えていただき、個人を断定的に評価するものではないことをご理解ください。

2. 【職場のハラスメント】ハラスメント加害をしやすい人の類型①「自分を客観視する力が弱い人」

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『職場問題ハラスメントのトリセツ』

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自分を客観視する力、いわゆる「メタ認知」の力が弱い人は、職場での自分の言動が適切であるかを検証する力が不足しています。

周囲の自分に対する評価も感じにくいため、状況を考えずに、良かれと思って自分の成功体験を他者に押し付けたりします。相手が明らかに嫌がっているのに、それがわからないで繰り返すなどの行為に及びがちです。

また、周囲から明確な評価を与えられ、それが自分の認識とかけ離れていると受け入れられません。評価者を攻撃したり、過剰に重く受け止めて傷つくということもあります。

典型的な行動例

  • 自分の言動が正しいと思っていて、他者から誤りを指摘されると激怒する。
  • 自分の定めたルールや基準を他人に押し付けがちである。
  • 自己反省が不得意なので、同じパターンでのハラスメントを繰り返す。

3. 【職場のハラスメント】ケース1「自分のやり方が正しい」と思い込んで指導を行う上司

私は従業員数300人ほどの人材サービス会社の営業職として一年前に転職しました。その転職先の上司のマネジメント方法に疑問があります。部下を評価するとき、行動量と労働時間の長さを重視しているようなんです。私は保育園に通う子どもがいるので、業務時間は独身社員に比べれば短くなります。でも、前職の経験を生かして提案資料を工夫したり、会社が推奨する電話ではないものの、メールでのフォロー案内を行っていて、他の社員と比べても受注率は決して悪くないと思います。なのに、上司は架電量や訪問量などのKPIが未達という理由で、私に細かく業務指示をしたり、微細なことにも報告を求めるようになりました。そのため業務の予定が狂い、急に残業を命じられることも増えました。残業はできないと最初から伝えているのに……。最近、社内SNSで私を揶揄する発言もあり、出勤するのが苦痛です。これはパワハラではないのでしょうか? サトミ(30代・女性)

サトミさんが転職したA社の営業部は三つのチームに分かれていて、チームで月次KPIの達成を競い合う風土があります。

個人成績を上げることでチームの評価を高めるという雰囲気があり、数字をつくれる社員が評価される文化がありました。

サトミさんが配属されたチームのリーダー(課長級)であるアベさんは、いわゆるプレイングマネージャーで、営業畑一筋で目覚ましい成績を上げてきた実力者です。しかし、管理職としての研修受講や部下育成の経験は乏しく、自分がプレイヤーとして成功した手法をそのまま部下に押し付ける傾向がありました。

サトミさんも成果を出すには一定の行動量がいることは理解していて、営業行為を惜しむつもりはありません。しかし、未就学児を抱える中、電話をかける回数や企業訪問量という指標では周囲に劣るところがありました。

サトミさんは、次第に上司のアベさんから毎日予定を報告させられ、細かな業務指示や確認、進捗共有を求められるようになりました。その結果、残業が必要になることが増えました。

サトミさんが保育園の送迎を理由に残業を断ると、アベさんは「全員で貢献すべきなのに、足を引っ張っている人がいる」「自分の能力不足を子どものせいにしてはいけない」など、チーム全体のグループチャットで揶揄するような発言をするようになりました。

名指しされたわけではありませんが、チーム内で子育て中の社員は自分だけです。サトミさんは次第に追い詰められていきました。

やがて、サトミさんは転職をする覚悟で人事部に状況を伝え、マネジメントの改善を求めることにしました。

相談を受けた人事部が、サトミさんとアベさん双方へのヒアリングを行うと、次のような事実が確認できました。

  • チーム全体のオープンチャットで複数回、おおむね週に一回程度の割合で、アベさんが匿名の誰かを揶揄するような発言をしている。
  • 二人のダイレクトチャットでは、アベさんがサトミさんに「もっと訪問先を増やせないのか」と問い、そのたびにサトミさんが謝罪をしているやりとりが、入社一カ月経過後から始まった。「言い訳をしないでほしい。あなただけが大変なわけではない」といったやり取りが週に一、二回程度発生している。また、他の社員に比べ、二人の直近一カ月間のメッセージの頻度・回数は五倍ほど多い。
  • 入社からの期間が短いため、サトミさんの行動について、実際に人事評価に反映された実績はない。

人事部は、確認できた事実に基づき、オープンチャットでのアベさんの言動は「パワハラとまでは言えない」と判断しました。

よって、懲戒処分を科すことはしませんでしたが、「サトミさんへの揶揄と取れる発言を慎むこと」を誓約する文書の提出を、アベさんに求めました。また、チームメンバー全員に対して品位ある言動をするよう注意しました。

一方で、サトミさんにもアベさんの指導方法を否定せず、謙虚に受け入れる姿勢を示すこと、また、育児介護休業法に定める「時間外労働の制限」を正式に申し出てもらうようにしました。

そして、一カ月について二四時間、一年について150時間の範囲内での残業には協力するよう求めました。

4. 【職場のハラスメント】具体的な事例を通じて「初動対応の重要性」を考える

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『職場問題ハラスメントのトリセツ』

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以上、『職場問題ハラスメントのトリセツ』より、ハラスメント加害をしやすい人の類型①「自分を客観視する力が弱い人」のケース1「自分のやり方が正しい」と思い込んで指導を行う上司」の例をご紹介しました。

本人に悪気がないからこそ、被害者は声を上げづらく、周囲も対応に迷いがちです。では、このような状況に直面したとき、企業や当事者はどのように考え、どんな行動を取るべきなのでしょうか。

本書では、このような具体的な事例を通して、ハラスメントの境界線と、初動対応の重要性を考えます。

4.1 書籍概要

5. 著者プロフィール

村井真子(むらい・まさこ)

社会保険労務士、キャリアコンサルタント。経営学修士(MBA)。家業である総合士業事務所で経験を積み、2014 年、愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。

地方中小企業の企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築、ハラスメント対応に従事。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイングを追求するとともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問として活動している。

著作に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)、漫画原作に『御社のモメゴト それ社員に訴えられますよ?』(KADOKAWA)、監訳に『経営心理学 第2 版』(プロセス・コンサルテーション)ほか。

村井 真子