5. 公的年金の増額は物価上昇には追いつかない

公的年金は、物価や賃金の変動に合わせて毎年度その支給額が見直されます。直近では2023年度(2.2%増)、2024年度(2.7%増)に続き、2025年度(令和7年度)も1.9%の増額となり、3年連続のプラス改定となりました。

しかし、この「増額」を手放しで喜ぶことはできません。注意すべきは、年金の増額率が物価上昇率を下回っているという点です。

例えば、2025年度の改定を指標で見ると、その差は一目瞭然です。

  • 物価変動率: +2.7%
  • 年金額の改定率: +1.9%

このように、物価の伸びに対して年金の伸びが追いつかない現象が起きています。これは、年金制度の持続性を高めるための調整機能(マクロ経済スライド)が働くためです。

具体的に考えれば、年金額が月1000円増えたとしても、食料品や光熱費などの生活コストが月3000円値上がりしていれば、家計全体では「実質2000円のマイナス」になります。数字の上では増えていても、「買い物のしやすさ(購買力)」はむしろ低下しているのが実態です。

老後の生活設計を立てる際には、額面の増減に一喜一憂せず、こうしたインフレによる「実質的な目減り」を想定した資産運用や生活防衛策を検討しておくことが重要です。

参考資料

和田 直子