この記事の読みどころ

ラグビーワールドカップでの日本チームの活躍で「ルーティン」という言葉が知られるようになりました。

ルーティンは、メンタル面で熱くなりすぎないための、自然体でいるための動作であるのと同時に、うまくいかなかった時に、次にうまくいくよう修正するために立ち戻れるところと定義できそうです。

投資行動にはメンタルが大きな影響を与えます。投資行動を行う際には、自分なりのルーティンで、一息置いて冷静になることが大切です。

ラグビーワールドカップで浸透した「ルーティン」

日本チームの活躍で一躍注目を集めたラグビーワールドカップも、ニュージーランド代表・オールブラックスの史上初の連覇で幕を下ろしました。

日本は決勝トーナメント進出こそ逃しましたが、過去7大会で1勝しかできなかったところ、今大会だけで3勝することができました。

その1勝には世界ランキング3位の南アフリカを撃破した大金星もありました。今回を機に、ラグビーの面白さに気づいた人も多いのではないでしょうか。

日本チームの中でも一躍時の人となったのは、何といっても五郎丸歩選手でしょう。

プレースキックで次々に点数を重ねていく頼もしさもさることながら、ゴールに向かってキックをする時の、あの独特なポーズは誰もが知るところとなりました。

あわせて、ルーティン(routine)という言葉も浸透したように思います。

ルーティンは、決まりきった手続き、日課と訳されます。ルーティンワークは決まった仕事という意味になりますが、“つまらない”というニュアンスも含むかもしれません。

ところが、プロのアスリートのこととなると、あのポーズの真似が流行るくらいですから、かっこよさすら出てきます。

ルーティンを行うアスリートは五郎丸選手が最初ではありません。五郎丸選手のポーズは、2003年大会の得点王、イングランドのジョニー・ウィルキンソン選手にならったものと言われています。

ラグビー以外でも、体操では跳馬に挑む前の内村航平選手、野球ではバッターボックスに入る時のイチロー選手などもルーティンを取り入れていると言われています。

五郎丸選手のルーティンを見て気づいたこと

遠くから撮影した映像で初めて五郎丸選手のポーズを見た時、願かけ、または気合いを入れる作業かと思っていました。

しかし、あのポーズをとった後にふっと力が抜けたような表情になったのを見て、体から余計な力みをとり自然体に戻るための動作であり、キックするための理想の体勢に合わせる動作だと感じました。

もう1つ気づいたのは、キックが成功しても失敗しても五郎丸選手の表情がほとんど変わらなかったということです。

キックが成功した時は「いつも通り」という表情でしたし、失敗した時は、次に向けてどこを修正すれば良いかを冷静に分析している表情のように見えました。

ルーティンの効用

五郎丸選手がキックするのは1回限りではありません。成功しても失敗しても、キッカーとして任されている限り試合中に何度もキックをしなくてはなりません。

五郎丸選手にとって大切なのは、目の前のキックの成否に一喜一憂せず、試合中に蹴るキックの総数に対する成功率を上げることのように考えられます。

実際、ワールドカップ前に掲げられた目標は85%の成功率だったそうです。その全体の成功率を上げるために、ルーティンがあるように思います。

ルーティンの効果については様々な考え方がありますが、私なりにはメンタル面で熱くなりすぎない(気負わない)ための、自然体でいるための動作であり、同時にうまくいかなかった時に、次にうまくいくよう修正するために立ち戻れるところ、と考えています。

投資行動にはメンタルが大きく影響

ラグビーの試合を資産運用に置きかえてみます。

ラグビーの試合に勝つこと=資産運用での目標を達成すること、であるならば、五郎丸選手のキックはリターンを得るための投資行動にあたります。

試合中に何度もキックをする機会があるように、資産運用をしていく中で投資行動の機会は何度もあります。

投資行動1回ごとのリターンも大事なことですが、投資行動全体での成功率を上げることが求められる、ということになりそうです。

この投資行動ですが、けっこうメンタルが影響します。

慎重になり過ぎて投資機会を逃してしまうこともあれば、逆に期待が強過ぎて(欲をかきすぎて)過度に強気な投資をしてしまうこともあります。

(冷静に)待つことが大事な局面で、我慢しきれずに稚拙な対応をしてしまうこともあります。失敗する原因は様々ですが、心の持ち様が影響する割合は大きいように思います。

慌てる駆け出しファンドマネージャー

私が日本株のファンドマネージャーでまだ駆け出しだった頃の経験です。株式市場が開いていて株価が動いている間に、急に投資判断を迫られることが時たまあります。

保有している銘柄の会社から予想していない内容の発表があり、保有している株をどうするか決めなくてはならない、といったケースです。

どうしても慌ててしまいます。慌てると、冷静ではなくなり、適切な判断もできなくなります。その結果、予定していない価格帯で売ってしまうなど、いろいろな失敗がありました。

ある銘柄に初めて投資する時、「何でこの銘柄を買う(売る)のか」、「この投資行動でどれだけのリターンを期待しているのか」を必ず考えています。

そのため、急な判断を求められて慌てそうになった時、まずは一呼吸置いて、当初考えていたことを思い出すようにしようと心に決めました。

そこで、初めて投資行動をする時に、銘柄コードを10回唱えるようにし、その後、銘柄コードを忘れていたら、とにかく四季報を開くようにしていました。銘柄コードを覚えていないということは、その時に考えたことを忘れているとみなしてのことです。

結果として、急な投資判断を求められても、(少なくとも)慌てふためくことはかなり減りました。

当時はルーティンという言葉は知りませんでしたが、今から思えば、それが私なりのルーティンだったのかもしれません。

冷静でいられる投資家になるために:投資行動にもルーティンを

先ほど、ルーティンとは熱くなりすぎずに冷静でいられるための作業であり、今回うまくいかなかったとしても、次にうまくいくようにするために立ち戻れるところ、と述べました。

私の場合は、「銘柄コードを唱える、忘れていたら四季報を開く」ということでした。

投資行動をする時は、どのようなことでも、自分なりに良いと思う動作で、一息置いて、余計な力を抜くことはとても大切です。ぜひ、自分なりのルーティンをつくってみてください。

経団連に所属する大手企業の2015年の冬のボーナスは3年連続で上昇し、リーマンショック直後の高い水準になると言われています。

また、11月4日の郵政株上場が好調だったことで、にわかに資金を得られた方もいらっしゃれば、「乗り遅れたくない」と思う方もいらっしゃるでしょう。今年の年末は明るい雰囲気になるかもしれません。

そのため、これから年末にかけて、様々なメディアで「もっと儲けたい」、「乗り遅れたくない」と思う人向けの、煽るような情報を多く見かけることになりそうです。

そのような時こそルーティンの出番です。何のために資産運用をしているのかを忘れない、いつも一歩引いて冷静でいられる、かっこいい投資家でいたいものです。

藤野 敬太