病院「たらい回し」のニュースに潜む深刻すぎる現実

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出先で急に倒れてしまい、まわりの人が救急車を呼んでくれたものの、病院をいくつもたらい回しにされて、なかなか治療を施してもらえない……。みなさんもこんなニュースを聞いたことがあるのではないでしょうか。

こうしたニュースに触れたとき、私たちはついつい病院側を批判してしまいます。ただ、実は病院側にも、「患者をたらい回しにせざるを得ない深刻な事情」がある場合もあることをご存じでしょうか。

救急で運ばれてくる「軽症」患者

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本来、救急の現場は、生死を左右するような重症の患者のためにあります。ですが、近年では、軽症にもかかわらず救急車を呼ぶ患者も多く、医師や救急隊の業務を大きく圧迫しているというのです。

たとえば日本テレビの取材によると、神奈川県の藤沢市民病院・救命救急センターでは、夜間に救急で運ばれてきた患者のうち、実に8割が軽症だったという日もあったようです。これには、

「患者側の配慮が足りない。わざわざ夜に救急を利用しないで昼に受診すればいいのに」
「こんなふざけた患者のせいで本当に重症の人の治療に影響があるんなら最悪」

と、医師たちを擁護する声が多くあります。

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救急車をタクシー代わりに!?

また、救急車の出番も、年々、増加の一途をたどっています。

総務省消防庁のまとめによると、2006年から2016年の間に、救急出動件数は524万件から621万件へと、実に約2割も増加しています。また、救急隊の現場到着までの所要時間も、6.6分から8.5分へと、約3割も増えています。

患者の中には、無料であることにつけ込んで、救急車を「タクシー代わり」にしたり、1人で1年に何十回も呼んだりするなど、非常識な使い方をする人間も増えているといいます。こうした状況に対して、ネット上では、

「悪質な患者には罰金を課したらいい」
「海外では救急車を呼んだら利用料を支払うという国は珍しくない。日本でも、少なくとも軽傷者からはしっかり利用料を取るべき」

といった声が上がっています。

医師の人数が少なすぎる

そもそも、「医師の数が少なすぎて、物理的に対応しきれないため、たらい回しせざるを得ない」という現状もあります。

WHO(世界保健機関)の2017年のデータによると、日本の人口1000人あたりの医師数は約2人で、当時のOECD加盟35カ国の中で30位と、非常に低い値となっていました。

さらに、この現実に追い打ちをかけるように、医療機関にかかることが比較的多い高齢者の人数は今後も増えていくため、医師1人あたりの負担はさらに増えることが予想されます。

都市部への医師の偏り

また、日本の場合は、ただ人数が少ないだけでなく、医師が東京や大阪を中心とした都市部に偏ってしまい、地方の医師が不足してしまっています。

この現状は、2004年に導入された「新臨床研修制度」が要因となっているといわれます。この制度は、出身大学での研修が中心となっていた実情を改めるべく、新卒の研修医が自由に研修先の病院を選べると定めたものです。

もちろん、これによって「臨床研修の自由度が高まった」「封建的で絶大な権力を持っていた大学の医局の力が弱まった」という面はありますが、一方で、都心にある病院が研修先に選ばれることが多くなり、結果的に地方の医師不足が深刻化してしまったといわれているのです。

このままだと本当に危ない?

このほかにも、特に救急救命の現場での医師不足という問題に関しては、

・救急のあまりない専門診療科を選ぶ医師が増えている
・比較的業務が忙しくない開業医を選ぶ人が多い

など、人手が足りないために現場が疲弊していく原因は数多く挙げられます。そして、このままだと、「医師不足」のために救えない重症患者が、今より増えていってしまう危険もあります。

こうした現状に対して、われわれ患者側でできることとしては、何があるでしょうか?

「医療相談ダイヤル」を使う

たとえば119番に電話をする前に、医療相談ダイヤルの「#8000」(子ども向け)や「#7119」(大人向け)を利用して、「本当に救急車を呼ぶ必要があるか相談する」という手段もあります。われわれがこうしたサービスを利用することによって、「本当に必要な人に迅速に救急車や救急医療を手配すること」に貢献できるといいます。

もちろん、このサービスも完璧ではありません。実際の医療相談ダイヤル利用者からは、

「電話に出たのが医者じゃなかったからか要領を得なくてイライラした」
「結局、『電話じゃ判断つかない』って言われて救急車を呼んだ。我慢して電話した時間が無駄だった」

という意見もあります。しかし、ただでさえ切迫した状況で連絡してくる患者の状況を、電話だけで的確に判断するのは、医師でも難しい場合があるといいます。救急医療への負担を軽減するためにも、このサービスについては、精度の向上や一般への周知がいっそう望まれるところです。

これ以外にも、先ほど挙げた意見の中にもあった「救急車の一部有料化」などは、積極的に検討すべきではないでしょうか。少しでも多くの命を救うべく、今こそさまざまな手段が議論され、実行されることが必要だといえます。

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参考記事

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2005年創業。ビジネス書・実用書を中心とした書籍出版や企業出版、メディア・コンテンツ事業、デザイン制作事業などを手がける。

主な刊行書籍に、20万部突破の『誰からも「気がきく」と言われる45の習慣』をはじめ、『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』 『起業家のように企業で働く』 『すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術』 『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』 『自分を変える習慣力』 『鬼速PDCA』など。