日本の半導体産業の国際的なシェアの低下がいよいよ問題になっている。1988年に世界最強のニッポン半導体はマーケットシェア50.3%を占有し、米国の36.8%を大きく凌いでいた。その時点ではアジアはわずか3.3%であった。しかし2016年には、日本のシェアは88年比で1/5にシュリンクして10.6%となり、まるで存在感が薄れた国となってしまった。「強いアメリカ」は復活し、世界シェア51.8%を占有、そしてまた台頭するアジアのシェアは28.0%となり、日本の約3倍というありさまである。
もちろん日本のすべてが弱いわけではない。NANDフラッシュメモリーにおいて東芝メモリの世界シェアは20%であり、韓国サムスンに次ぐ2位の座にある。共闘するウエスタンデジタルの量まで合わせれば、東芝メモリ・四日市工場から出荷するフラッシュの量は世界の35%に上る。CMOSイメージセンサーについては、ソニーがぶっちぎりの世界シェア52%を持ち、さらに上昇している。ルネサス エレクトロニクスは得意とするマイコン(MCU)が車載向けに伸びており、世界シェア20%を占有し、世界1位となっている。
それにしても、かつてのお家芸であるDRAMをすべて失い、勝負を賭けたシステムLSIについてもスマホ向けで惨敗し、クアルコム、ブロードコム、エヌビディアに叩きのめされてしまった。いくら何でも、これ以上の日本半導体産業の後退はあり得ないとの判断から、経産省は次世代AI向け半導体で日本が先行すべく様々な施策を講じている。
2018年から10年間で1000億円を投入
「ゲームチェンジのチャンスがやってきた。ムーアの法則は終焉し、IT技術は非連続的な革新期に突入した。数々のデバイスがつながるコネクテッドの世界ではロングテールの需要が増加する。AI革命時代に最適な半導体チップで日本が先行できれば、ビッグチャンスが来る」
こう語るのは経済産業省・商務情報政策局でデバイス・情報家電戦略室長を務める田中伸彦氏である。2018年11月28日のトランジスタ生誕メモリアルカンファレンスにおける講演(主催:産業タイムズ社)の談話であるが、田中氏はかなりの力の入れようでAIチップ開発事業を徹底サポートすると言い切ったのだ。
IoT時代におけるエッジコンピューティング実現のためには、省エネルギーかつ高効率の半導体チップが必要になる。政府は2018年度から10年間にわたり1000億円を投入し、AIチップ開発加速を打ち出しており、経産省は2019年度については107億8000万円の概算要求を行っている。民間企業に呼びかけ、AIチップに関するアイディアを実用化、AIチップ開発に必要な環境整備、共通基盤技術の開発に注力する姿勢を強く打ち出しているのだ。
「IoT向け半導体は少量多品種であることが特徴だ。FA、ロボット、医療、ヘルスケア、自動車などカスタマイズされた半導体の世界が広がる。こうなれば我が国の出番だ。多種多様なアプリに対応できるAIチップを開発し、世界に先行し、もう一度半導体マーケットシェアを上げていくことを支援したい」(田中氏)
AIチップ開発のための人材発掘については産総研、東京大学、UCバークレーなどからの支援を受けるとしており、ベンチャー企業の起業化などにも注力していく考えだ。AIチップの中には日本が最も期待する次世代メモリー、MRAMも含まれており、ここはひとつ、気概を見せた経産省の尽力に期待してみたい。
産業タイムズ社 社長 泉谷 渉