疲労、だるさ、頭痛、首・肩こり、睡眠の乱れ、動悸(どうき)、胃痛、不安感……。いずれも多くの現代人にみられる不調だが、原因は「自律神経の乱れ」にあるかもしれない。

 自律神経が乱れる原因としてよく挙げられるのは、「精神的ストレス」や「不規則な生活」だ。しかし、NHK『ニュース7』やテレビ朝日系『報道ステーション』、フジテレビ系『直撃LIVE グッディ!』などメディア出演も多い内科医・脳神経内科医で、『最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方』著者の久手堅司氏は、「さらに注目すべき重要なポイントは、実は『骨格』にある」と言う。

 自律神経を乱し不調を引き起こす意外な原因と、その簡単な対処法を、久手堅氏に教えてもらった。

自律神経はあらゆる生命活動に影響する

 そもそも自律神経とは何かというと、「内臓や血管などの働きを自動的に調節する神経」のことです。この神経は眼球・唾液腺・心臓・肺・胃・肝臓など、全身の器官に張り巡らされていて、あらゆる生命活動に影響しています。

 自律神経の最大の特徴は、「持ち主の意思に関係なく、自動的に働く」ということです。その名のとおり、「神経が自ら律している」神経なのです。意識しなくても呼吸が続いたり、心臓が動いたり、汗をかいたり、体温が変化したり、胃腸が消化活動を行ったりするのは、すべて自律神経の働きによるものです。

 そのため、自律神経が正常に機能していないと、全身にさまざまな不調が起きてしまうことになります。

現代人の9割は自律神経が乱れている!?

 残念なことに、「現代人の9割は自律神経が乱れている」と言っても過言ではありません。

 自律神経は、「ストレス」の影響を大きく受けるものです。現代のライフスタイルでは、ビジネスやプライベートにおける「精神的なストレス」はもちろん、パソコンやスマホの使用、夜遅くまでの残業、運動不足、睡眠不足などの「身体的なストレス」、さらに季節ごとの天候の変化や異常気象による気圧差・寒暖差など、「環境的なストレス」までもが常につきまとってきます。

 このような状況では、自律神経が安定しないのが当たり前。もはや自律神経が乱れていないことの方が珍しいのです。

 一般に、ストレスというと、「精神的な負荷」を意味すると認識されています。しかし、ストレスといっても精神的なものだけではありません。「身体的なストレス」、「環境的なストレス」も立派なストレスなのです。

原因は「精神的ストレス」だけではない

 医学・心理学においては、心と体にかかる外部からの刺激を「ストレッサー」と呼びます。そして、ストレッサーに適応しようとした結果、心身に生じるさまざまな反応を「ストレス反応」と呼びます。

 ストレッサーには、次の4つがあります。

・物理的ストレッサー(暑さ・寒さ、騒音、混雑、悪臭など)
・化学的ストレッサー(酸素の欠乏・過剰、公害物質、薬物など)
・生物的ストレッサー(炎症、細菌・ウイルスの感染、睡眠不足など)
・心理・社会的ストレッサー(人間関係や社会生活上の問題など)

 「ストレス」と聞くと、「心理・社会的ストレッサー」が真っ先に思い浮かぶ方が多いと思います。しかし、実際には、暑さ・寒さなどの環境的要因や、ウイルス感染や睡眠不足などの肉体的要因によるストレスも含まれるわけです。

 確かに精神的なストレスで自律神経が乱れることはよくあります。一方で、身体的・環境的なストレスで自律神経が乱れることもよくあるのです。心・体・環境、トータルで考えてみてください。

意外な原因は「骨格」にあり

 自律神経に影響を与えるさまざまな要因の中で、私が特に重視しているのは、「骨格」のゆがみです。「えっ、そんなものが影響しているの?」と思われたかもしれません。

 「骨格」のゆがみとはどういうことかというと、骨格が本来あるべき状態ではなくなっていることを指します。代表的な状態は、「姿勢の悪さ」です。

 私のクリニックには「自律神経失調症外来」という専門外来があります。こちらの受診を希望される方々は、姿勢が悪いことが大半です。診察室に入ってきて数歩で、骨格のゆがみに気がつきます。

 ではなぜ、骨格がゆがんでいると、自律神経は乱れてしまうのでしょうか?

骨格がゆがむと自律神経が乱れる理由

 まず、「脊髄」の問題があります。図1〈別画像〉を見てください。自律神経は、脳の視床下部から始まり、「脊椎」の中の脊髄を通って、全身の各器官につながっています。

図1 全身へとつながる自律神経(『最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方』より/以下同)

 脊髄は脳と体をつないでいる神経の束であり、「首から腰までつながっているケーブル」とたとえることができます。人が生きるために欠かせない重要なもので、これが損傷してしまうと、体を動かせなくなったり感覚がなくなったりしてしまいます。脊髄は「脊椎」という骨のトンネル(背骨)を通っているおかげで、損傷から守られているのです。

 脊椎のトンネルは、通常S字に近いカーブを保っています。これは脊髄をしっかり守り、人間の体を効率よく維持するために理想的なカーブです。しかし、このカーブが変形したり、ずれてしまったりすると、中のケーブルは圧迫され、正常な働きをしづらくなってしまうと考えられます。

浅く短い呼吸は交感神経を優位にする

 さらに、「呼吸」の問題もあります。

 骨格がゆがみ姿勢が悪くなっていると、肺がつぶされ、呼吸が浅く短くなってしまいます。体に十分な酸素が行き渡らないことは、それだけで化学的ストレッサーによるストレス要因となります。

 また、浅く短い呼吸をしているときは交感神経が優位になっている状態です。日常的に浅く短い呼吸をつづけていると、常に交感神経優位の状態になってしまい、自律神経のバランスが乱れる原因になってしまうのです。

 「自律神経が乱れている」と言われると、多くの方は精神的なストレスのせいだと考えがちです。しかし実際には、先に骨格がゆがんでいて、自律神経のバランスを失っている・失いかけている状態であることが多いと思ってください。そこに、精神的ストレスや環境的ストレス、その他の身体的ストレスの問題が絡み合って、より自律神経の乱れがひどくなってしまうと考えられます。

「気づかない乱れ」が一番怖い

 自律神経が乱れているという自覚や、骨格がゆがんでいるという自覚がある方は、これから改善していけばいいので、まだ大丈夫です。

 実は、一番怖いのは、自分のゆがみに気づいていないことなのです。

 電車の中の風景を思い浮かべてみてください。一車両にいる人たちの何%が、スマートフォンを使用しているでしょうか? おそらく、およそ80%以上の方が使用しているのではないかと思います。そのときの姿勢を思い出してください。下を向いている状態の方がほとんどだと思います。

 下を向けば向くほど、脊椎のトンネルは頭の重さに耐えないといけなくなります。人間がスマートフォンでネットやゲームを楽しんでいるあいだ、首や肩は文句も言わずに耐えているのです。当然、こりや痛みの原因になります。しかし、慢性的にその状態なので、首や肩がこっているということにすら気がついていないことが多いのです。

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重度の首・肩こりはもはや「感じない」?

 実際に、自律神経の乱れで私のクリニックを受診される方で、首や肩、背中を触ってみると、すごくこっていて、すぐにでも治療すべき状態であるにもかかわらず、そのことに気づいていないことも多くあります。これは、次のような3段階を経て進行していきます。

(1)こりや痛みがない
(2)こりや痛みを感じる
(3)実際にこっているのに感じないか、触っていることすら感じない

 私のところに来られる患者さんは、(2)か(3)の方がほとんどです。自律神経がひどく乱れている方は、(3)の状態がより強い傾向にあります。

 パソコンやスマホの使用が日常的になった現代、ゆがみがまったくないほうが珍しいのです。「自分は大丈夫」と思っている方も注意してください。

 また、「特になにもしていないのに、以前はひどかったこりを最近感じなくなった」という方や、マッサージなどに行って「すごくこっていますね」と驚かれるのに自覚がないような方は、特に要注意です。

簡単にできる骨格「首周りリセット」

 骨格のゆがみを治すには、普段の姿勢に気をつけるのはもちろん、ちょっとしたストレッチでこまめにゆがみをリセットすることが有効です。その場ですぐにできる簡単な方法を1つ、ご紹介しましょう。図2〈別画像〉をご覧ください。これは、特に首周りのゆがみやこりに効果があります。

図2 その場でできる「首周りリセット」のストレッチ

 鼻先から1メートルぐらい先を水平に見て、息を吸いながらゆっくり上を向く(天井を向いて90度くらいまで)。首に痛みがあるときは、無理をしないこと。息を吐きながらゆっくりと戻す。

 勢いよく動かしたり無理な角度まで動かしたりはせず、ゆっくり丁寧に行ってください。「1日何回行う」などの決まりはありません。仕事中、ちょっとこりが気になったときなど、気がついたときにパッと行う「クセ」にするのがおすすめです。

 

■ 久手堅 司(くでけん・つかさ)
 せたがや内科・神経内科クリニック院長。医学博士。日本内科学会・総合内科専門医、日本神経学会・脳神経内科専門医、日本頭痛学会・頭痛専門医、日本脳卒中学会・脳卒中専門医。1996年北九州大学法学部卒業、2003年東邦大学医学部卒業。2013年開業のクリニックでは「自律神経失調症外来」「頭痛外来」など複数の特殊外来を開設し、中でも「気象病・天気病外来」「寒暖差疲労外来」はメディアでも話題。

久手堅氏の著書:
最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方

久手堅 司