アベノミクスの第一段階は、上記のように不思議な回復でしたが、最近になってようやく回復の第二段階にギアアップがなされているようです。回復の質的な変化が生じ始めているのです。

氷に熱を加えても、温度は上がりません。そこで、「氷に熱を加えても温度は永遠に上がらないのだ」と誤解する人も出てくるわけです。しかし、温度はある時点から突然上がり出します。氷が溶け終わった時点ですね。それに似たことが、アベノミクス開始6年を前に、次々と起きているのです。

不況期には労働者が余っていますから、企業は省力化投資をしません。飲食店は自動食器洗い機を買わないのです。客が増えてくると、飲食店は店内で「遊んでいる」社員を忙しく働かせ、それで足りなくなっても、安いアルバイトを好きなだけ雇って皿を洗わせることができますから。

労働力不足が深刻化しても、企業はしばらく省力化投資をしません。デフレマインドに染まりきっている経営者は「どうせ遠からず景気が悪化し、労働力不足は解消するだろうから、それまで忙しいのを我慢すれば良い。省力化投資は不要だ」と考えるからです。

それが、最近になって省力化投資が増えているのです。今年度の経済指標の中で、かなり目立つのが設備投資の好調です。ようやく設備投資に点火した、といったところでしょうか。

好景気の長期化によって経営者の「どうせ遠からず不況になる」というデフレマインドが緩んだこともあるでしょうし、「少子高齢化が続けば、景気が悪化しても労働力不足が続くかも知れない」と考える経営者も増えてきたのかもしれません。

賃金についても、非正規労働者の時給は相変わらず労働力需給の逼迫を反映して上昇を続けていますし、労働者を囲い込むために正社員に登用する動きも広がりつつあります。こうした動きが広がれば、遠からず値上げせざるを得ない企業も増えてきて、本格的なデフレ脱却も見えてくるかもしれません。

昨年、宅配便業界が概ね一斉に値上げをしたため、各社とも顧客を失わずに増益となりました。こうした動きが他の業界に広がるには、今少し時間がかかるかもしれませんが、いずれにしても時間の問題でしょう。

現在は、価格表示を変更するのではなく、サービス時間を短縮する動きが目立っていますが、これも実質的な値上げだと考えて良いでしょう。たとえば日本郵便が週末の配達をやめるということは、「急ぐ人は速達料金をお支払いください」ということになるわけですから。

輸出についても、これだけ円安が続くと「遠からず円高に戻ると思っていたが、もしかすると戻らないかもしれないから、海外現地生産を減らして日本からの輸出に振り替えようか」と考える企業も増えそうです。実際、輸出数量は少しずつですが、昨年あたりから増え始めています。

要するに、凍り付いていた人々の「デフレマインド」が好況の長期化によって少しずつ緩やかに融けつつある、ということがアベノミクス景気を第二段階にギアアップしている、というわけです。それは、素晴らしいことです。「景気は気から」ですから、人々の気分が少しでも明るい方に変化しつつあるのなら、来年の景気にはかなり期待して良さそうですね。

直近の経済指標は災害等の影響で弱いものも見られますし、米中貿易戦争(または冷戦)の影響を懸念して景気に関して暗い見通しも多く聞かれる昨今ですが、少なくとも国内景気の大きな流れは順調である、ということはしっかり認識しておきたいものです。

本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義