7-9月期の米決算発表が本格化しています。ただ、好発進にもかからず株価が反落しており、市場はやや肩透かしとなっています。そこで今回は、米企業決算発のポイントを整理し、問題点を探ってみたいと思います。

米企業決算、3四半期連続で20%超の増益へ

米調査会社ファクトセットの10月19日現在の見通しによると、S&P500採用銘柄の7-9月期の利益は前年同期比19.5%増と予想されています。

予想は低めに見積もられる傾向にあり、過去5年の平均でみると最終的な利益は予想を3%程度上回っていますので、最終的には20%超えることが確実視されているようです。実現すれば1-3月期の24.8%増、4-6月期の25.0%増に続き、3四半期連続での20%超えとなります。

2018年通年でも20.2%増と高い伸びが期待されていますが、10-12月期は16.5%増と過去3四半期に比べると控えめな伸びが予想されています。また、2018年の企業利益は2017年末に成立した減税法案の影響で底上げされており、利益の伸びに直接反映されるのは1年限りとなります。

特殊要因がはく落することもあり、2019年通年での企業利益は10.3%増と2018年からほぼ半減する見通しで、2019年1-3月期は6.8%増、4-6月期は7.0%増と急減速が見込まれています。

1年後の株価は18%上昇の見通し

1年先の利益見通しに基づく株価収益率(PER)は15.9倍と過去5年平均の16.3倍を下回っており、最近の株価急落で割高感は解消されつつあるようです。ただ、過去10年平均の14.5倍は上回っていますので、下値余地はまだ残されているのかもしれません。

1年後のS&P500の予想株価は3259.80と10月18日現在の2768.78を17.7%上回っています。利益見通しに基づくと押し目買いを推奨しているようにも映りますが、問題は期待通りの利益を実際に上げることができるのかどうかになりそうです。

一般消費財、資本財、通信サービスに期待

7-9月期の企業業績をセクター別で見ると、エネルギー(91.9%増)、金融(35.6%増)、素材(24.1%増)が全体平均(19.5%増)を上回るセクターとなっています。

一方、2019年はエネルギー(29.7%増)、一般消費財(12.5%増)、資本財(12.4%増)、通信サービス(10.5%増)が全体(10.3%増)を上回る見通しです。

市況の影響を受けやすいエネルギーは原油価格次第となりそうですが、足元の業績と来年の見通しを天秤にかけて投資先を検討すると、現在平均を上回り、来年は平均を下回る見通しの金融と素材を敬遠し、現在は平均を下回っているものの、来年は平均を上回るであろう一般消費財、資本財、通信サービスに投資魅力があるかもしれません。

セクター変更で情報技術と一般消費財のウェイトが低下、通信は大幅に上昇

米株式市場では9月に過去最大となるセクター分類の変更が実施され、セクター間やセクター内での勢力地図が様変わりしています。

注目度の高い「FANG」ではフェイスブックとアルファベット(グーグル)が情報技術から通信サービスへ、ネットフリックスが一般消費財から通信サービスへと引っ越しました。ただ、アマゾンは一般消費財にとどまっています。

この影響で従来はS&P500に占める割合が2%に過ぎなかった通信サービスが11%にまで急上昇し、その一方で情報技術は26%から20%へ、一般消費財は13%から11%へと割合を低下させることになりそうです。

セクター内に目を向けると、情報技術では従来はアップル16%、アルファベット12%、マイクロソフト13%、フェイスブック7%と並んでいましたが、変更後はアップルが20%、マイクロソフトが16%となり、この2社への依存度が高まることになりそうです。また、ビザやインテルといった情報技術セクター残留組への注目度も高まることになるかもしれません。

また、一般消費財ではアマゾンの占める割合が27%から34%に上昇し、アマゾンの存在感が一段と高まることになりそうです。

16日にはFANGの先頭を切ってネットフリックスの決算が発表され、純利益が前年同期比3倍増となり、引け後の取引では株価が一時15%近く上昇しました。今週は24日にアマゾン、翌25日にはアルファベット(グーグル)が発表され、30日のフェイスブックでFANGが出揃うことになります。また、アップルは11月1日に発表の予定です。

米中貿易戦争と金利上昇で世界経済は減速へ、株価の重しに

決算序盤で注目された米金融機関の業績が軒並み予想を上回るなど、米7-9月期決済は期待通りの好発進となりましたが、株価は反落しています。

サウジアラビアとイタリアでのリスク懸念が好決算を打ち消してしまったからです。

サウジアラビアの反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害事件で米国とサウジアラビアの関係悪化を危惧する声が強まり、原油価格を押し上げています。また、米格付け会社ムーディーズは19日、財政問題と改革の行き詰まりを理由にイタリア国債の格付けを投資適格としては最低水準となる「Baa3」へと1段階引き下げました。

原油高はインフレ懸念、格下げは信用不安を通じて金利の上昇を招く恐れがあります。また、トランプ政権による関税引き上げも物価上昇圧力を高める公算が大きく、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ継続を正当化するとの見方もあるようです。

さらに、米中貿易戦争は長期化の様相を呈しており、このまま平行線が続くようですと米中双方の景気に悪影響が出ることも警戒されます。

国際通貨基金(IMF)は10月9日に公表した最新の世界経済見通しで2018年と2019年の世界経済の成長率をそれぞれ3.7%とし、7月時点の3.9%から引き下げました。米中貿易戦争と金利上昇をリスク要因として挙げています。

足元での企業業績は好調ではあるものの、このように世界経済の雲行きが怪しなっていることが株価の重しとなっているようです。

LIMO編集部