トランプ政権の内幕を描いた『Fear(恐怖の男)』が発売と同時に全米でのベストセラーに躍り出ています。米国では11月に中間選挙を控えており、政権の混乱を描いた同書の発売は民主党への追い風となっています。最近のロシア疑惑関連報道での支持率低下もあり、”恐怖の男”が世界経済を混乱に陥れるのではないかと心配されています。

初日に100万部を突破したトランプ暴露本

調査報道の草分けとしてしられるボブ・ウッドワード氏の新著『Fear(恐怖の男)』が9月11日に発売されました。同書は即日で100万部以上を売り上げて在庫切れになるなど、大人気を博しています(日本語版は12月14日に刊行予定)。

ニクソン政権を退陣に追い込んだ「ウォーターゲート事件」のスクープで名を馳せたウッドワード氏は、米国で最も権威あるジャーナリズムの賞、ピューリッツァ賞を2回受賞している伝説の記者です。トランプ政権の暴露本はこれまでも数多く出版されていますが、信憑性や注目度において他の暴露本とは一線を画しているといえるでしょう。

コーエン被告とマナフォート被告、相次いで司法取引に合意

同書では、トランプ大統領が弾劾を恐れていることが取り上げられており、最近の動きはこの恐怖心を煽っているといえるでしょう。

2016年の大統領選挙でトランプ陣営の選対本部長を務めたポール・マナフォート被告が14日、ロシア疑惑を捜査するモラー特別検察官との司法取引に応じています。司法取引では、マナフォート被告が資金洗浄や司法妨害について有罪を認める代わりに、他の罪状での起訴が取り下げられる見通しです。

また、8月21日にはトランプ氏の元顧問弁護士マイケル・コーエン被告も司法取引に応じています。コーエン被告は、トランプ氏と性的関係を持ったと主張するポルノ女優への口止め料をトランプ氏の指示で支払ったと証言しています。この口止め料は違法な選挙献金に当たると考えられています。

元側近の陥落で焦点は脱税や司法妨害へ

コーエン被告は選挙資金規制法違反や脱税などの容疑で起訴されており、マナフォート被告もウクライナでのコンサルタント業務に関係する資金洗浄の罪などに問われるなど、彼らの起訴と大統領選挙でのロシアとの共謀を捜査するロシア疑惑とは、ほぼ無関係といえます。

同様に、昨年12月に司法取引に応じた前大統領補佐官(国家安全保障担当)のマイケル・フリン被告は米連邦捜査局(FBI)への虚偽報告、昨年2月に司法取引に応じたマナフォート被告の補佐役、リック・ゲイツ被告も虚偽報告で起訴されており、ロシアとの共謀からは距離があります。

このように、トランプ陣営からの逮捕者は脱税か捜査妨害のいずれかに絡むケースがほとんどですので、今後の捜査もその方向で進むことが予想されます。

トランプ氏は1991年を皮切りに4回破産していますが、時を同じくしてソ連が崩壊しています。金融機関からの信用を失い資金難に陥っていた元不動産王と、国家が破綻し資産を海外に移したいロシアの大富豪との思惑が一致した可能性には以前から疑問が持たれています。

検察側に有力な情報が期待できる場合にしか司法取引は成立しないはずですので、彼らがトランプ大統領に不利な情報を提供する公算は大きいといえるでしょう。特に、コーエン被告は長年トランプ氏の「問題処理係」を担当してきたことから、さまざま情報を握っているとみられています。

経営破たんで借金が膨らみ、「世界一貧乏な男」と称されたトランプ氏がなぜ復活できたのかは今でも謎のままですが、マナフォート被告とコーエン被告の司法取引はトランプ氏の資金の流れを追うために重要な役割を果たすのかもしれません。

米中貿易戦争、「恐怖」こそ最大のパワー

『恐怖の男』では、トランプ大統領は「恐怖」こそが最も強力なパワーであると信じていると指摘していますが、米中貿易摩擦の進展はまさにこのパワーを行使していることが伺えます。

14日には中国製品に対して新たに2000億ドル規模の追加関税の実施することが伝えられました。既に、500億ドル相当の追加関税が課されており、今回の2000億ドルに加えて、さらに2670億ドルの追加関税も準備中とのことです。すべてが実施されれば、中国からのほぼすべての輸入品に追加関税が課されることになります。

中間選挙を控えていることもあり、中国側が譲歩してトランプ政権に収穫をもたらさないことには収拾が難しくなっているようで、双方に妥協が見られない場合には、出口の見えない報復合戦が続く恐れもありそうです。

中間選挙では下院で民主党が逆転の勢い、弾劾手続き開始へ

コーエン被告やマナフォート被告が司法取引に応じるなど、ロシア疑惑に進展が見られたことでトランプ政権の支持率が低下しており、中間選挙では下院で民主党が逆転する勢いです。

リアル・クリア・ポリティクスによると、下院では民主党が206議席、共和党が190議席を確保したもようで、残りの激戦区の39議席のうち12議席を勝ち取れば民主党が過半数を占める計算となっています。

民主党の多くの議員が大統領の弾劾を公約に掲げていますので、下院で民主党が逆転した場合、弾劾手続きが開始されることは間違いないでしょう。ただ、上院では民主党44議席、共和党47議席、激戦区が9議席となっています。罷免には上院の3分の2以上が必要であることから、罷免の可能性はまだ低いままといえそうです。

とはいえ、トランプ大統領本人が「自分を弾劾すれば市場は暴落する」と述べるなど、最も恐れている弾劾の可能性は無視できなくなっています。

モラー特別検察官はロシアとの共謀に加えて、脱税や資金洗浄、捜査妨害などに関して厳しく追及することが予想されますので、捜査結果の内容によっては身内である共和党内にも弾劾やむなしとの意見が出ることもありうるからです。

『恐怖の男』によるとトランプ大統領はウソがばれても絶対に認めないとのことですので、弾劾手続きが始まっても徹底抗戦することになるでしょう。

同書では、トランプ大統領の行動は小学生並みであり、理解力も同程度との指摘が紹介されています。思考能力が小学生並みと揶揄される大統領が自暴自棄にならないとも限りませんので、11月の中間選挙で共和党が敗北を喫するようだと世界経済も荒れ模様となる恐れがありそうです。

LIMO編集部