日本人は税金と行政サービスを別々の物と考えている、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は嘆きます。

歳出増は税金増につながることを認識しよう

かわいそうな人を見ると、「政府が助けてやれ」という人は多いのですが、「政府が助けてやれ。そのための費用は我々が喜んで負担するから」という人は少ないですね。日本人は「税金はお上に召し上げられるもの、行政サービスはお上が民に施すもの」と分けて考えていて、両者がつながっているという認識が薄い人が多いのでしょう。

米国では、「自分たちは納税者として政府の歳出を厳しくチェックしよう」という人が大勢います。何と言っても「代表なくして課税なし」が独立戦争のスローガンだった国ですから。

日本でも、「歳出の無駄をなくそう」という人は少なくありません。民主党政権は「事業仕分け」を行ない、国民の多くはその趣旨に賛同したと記憶しています。具体的な方法や結果に満足している人が多いか否かは知りませんが(笑)。

しかし、無駄でないものは実施すべきだ、ということになると、歳出は無限に膨らみます。本当に無駄な歳出など、滅多にありませんから。

100歳の難病患者の延命に1日1億円必要だったらどうする?

「人命は地球より重い」という言葉があります。言葉通りに受け止めるとすれば、「100歳の難病患者の延命に1日1億円必要だとしても、払うべきだ」ということになります。本当にそうでしょうか。

まずは、世の中には100万円あれば救える命が多数ある、というのが現実です。途上国へ行けば1万円で救える命も多いでしょう。「もちろん、そうした命も全部救え」という主張も可能でしょうが、それには何円かかるのか、その費用を誰がどのように負担するのか、ということを考える必要があります。行政サービスは無料ではないのですから。

国民全体で考えると、日本人の大人(20歳以上)は約1億人いますから、1億円の行政サービスを要求しても、自分の負担は1円です。そう思って気楽に要求だけする人もいるでしょう。「無駄な歳出を削って」という人もいるでしょうが、それほど無駄な歳出が多くないことは、民主党政権時代の事業仕分けで人々の知るところとなったはずです。「足りなければ国債を発行すれば良い」というのも安易でしょう。

そうした「無責任な」人に対しては、「100歳の難病患者が1万人いて、彼らを100日延命させるためには1億円の100万倍の費用がかかります。大人1人あたり100万円ですが、あなたは喜んで払いますか?」と聞きましょう。

地方自治で「行政サービスと負担の関係」を考えよう

地方自治体ならば、大人の数が少ないですから、誰かに対する行政サービスを増やせば、誰かの税金が増えるか誰かが受ける行政サービスが減ります。そうなれば、嫌でも「やるべきこと」「やった方が良いこと」「コストに見合わないこと」の分別を行わざるを得ないでしょう。

「山奥の寒村と街を結ぶバス路線から民間バス会社が撤退したら、行政がバスを運行すべきでしょうか」という問いは、正しくありません。「バスを運行するためには何円かかるのか。それを増税するのか、街の図書館を閉鎖してコストを捻出するのか」といった具体的な数字や案を住民に示して、選んでもらう必要があります。地方自治ですから。

雪国の山奥の寒村に高齢者が5人だけ暮らしているとします。道路や水道を維持するためには費用がかかるので、「5人に山を降りて街に引っ越してもらう」という案を検討するとします。

強制的に移住させるわけには行きませんが、「道路の雪かきはしません。道路の維持補修は困難です。水道管が破裂したら、復旧せずに給水車を派遣します」「街に引っ越してくださったら、お礼として十分な生活費をお支払いします」といった「アメとムチ」政策は選択肢でしょう。

これも、寒村を維持する費用(雪かき、道路補修、水道管補修等々)を明らかにした上で、街の住民に決めてもらうのでしょうね。民主主義ですから。もちろん、「数の暴力」にならないような配慮は必要でしょうが。

労働力不足時代にふさわしい弱者保護のあり方も、要検討

筆者は、数年前までは寒村の維持に賛成でした。「雪かき等をやめると、現在雪かき等に従事している人が失業してしまう。雪かき等は失業対策なのだから、続けるべきだ」と考えていたわけです。

しかし、アベノミクスで労働力不足となり、今後も中長期的に少子高齢化による労働力不足が続きそうだ、ということになると、話は変わって来ます。「雪かきをやめて、雪かきで働いている人には街で介護に従事してもらおう」ということになるわけです。

こうしたことも総合的に考えて、地方自治ですから街の人々に決めてもらいましょう。もちろん、国政レベルでも、考え方は同じわけですが。

本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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塚崎 公義