ステルス値上げに気付く人が増えている

食品メーカーで、価格はそのままで内容量を減らす動きが進んでいます。実質的な値上げですが、こっそり値上げすることから、「ステルス値上げ」などとも呼ばれます。

「ステルス (stealth)」とは、英語で「隠れること」を意味し、レーダーに感知されない戦闘機や、アンチウイルスソフトの検出を逃れるウイルスなどにも使われる言葉です。

ここ数年、チョコレートやスナック菓子、ビスケットや米菓、ヨーグルトやチーズなどの乳製品、缶詰、レトルト食品、冷凍食品、ドレッシングなど、さまざまな食品で容量が減っています。TwitterなどのSNSでは「#くいもんみんな小さくなってませんか日本」というハッシュタグも登場し、「ビフォー・アフター」の写真などとともに紹介されています。

「ステルス値上げ」について、以前は「気のせい?」「自分が大人になったから?」などという声もありましたが、最近では「明らかに少なくなっている」と、むしろ気付いている人のほうが多いようです。

独立系投資運用会社のスパークス・アセット・マネジメントが2018年6月29日に発表した「ビジネスパーソンの『マネ活』に関する調査 2018」によれば、調査対象となった全国の 20歳~59歳のビジネスパーソン1,000人のうち、ステルス値上げを「実感している」と回答した人は63.6%にも達しています。

また、具体的にステルス値上げを感じたことがあるものとして、「スナック菓子(ポテトチップスなど)」が62.6%でダントツ。以降、「チョコレート」が 41.0%、「ヨーグルト」が26.3%、「米菓(せんべいなど)」が23.9%、「冷凍食品」と「ウインナー・ハム」が22.8%となっています。

デフレに慣れた消費者のマインドは変わるのか

ステルス値上げは日本特有のものではありません。欧米でも「シュリンクフレーション(shrinkflation)」という言葉があります。「シュリンク(shrink)」とは「収縮する」という意味で、価格は据え置きで内容量が減っていくことを表しています。特に英国ではここ数年、食品を中心に、さまざまな商品のシュリンクフレーションが進んでいるようです。

前述した「ビジネスパーソンの『マネ活』に関する調査 2018」によれば、ステルス値上げでガッカリした経験があるか聞いたところ、「ある」は87.6%で、9割近くの人がガッカリした経験があることがわかりました。それにもかかわらず、ステルス値上げをせざるを得ないのは、食品メーカーが、価格を上げることに対する消費者の抵抗が大きいと考えているためです。

実際に、多くの消費者がデフレに慣れており、高い商品には手を出さなくなっています。大手スーパーなどでも、メーカーに対する価格抑制の要求があります。

一方で、食品メーカーにとっては、原材料、製造の人件費、物流コストなどが年々上昇しています。これらを価格に転嫁できなければ、内容量を減らし続けるしかなくなります。円安傾向や労働力不足が続く中、食品メーカーにとっては、ますます商品作りが厳しくなります。これを「企業努力で価格を抑えるべき」と突き放すのも酷でしょう。

食品業界ではありませんが、ヤマト運輸は2017年、宅配便の運賃を27年ぶりに値上げしました。法人顧客の中には同社との取引を解消したところもありましたが、多くの法人が値上げを理解したそうです。食品についても、ある程度の価格への転嫁を消費者が認めることも必要かもしれません。

ただし、日本には食品メーカーの数が多く、また、各社で似たような商品が多いとも言われます。独自の味や機能、ブランド力を発揮できない商品や企業は淘汰されることになるかもしれません。

上山 光一