サッカー日本代表の活躍で大熱狂だったワールドカップが終わったのも束の間、2年後はいよいよ東京オリンピックですね。自国開催ということで、競技場の建設など、国内ではさまざまな動きが見られます。

オリンピックに向けた動きの一つとして挙げられるのが、実施2年目を迎え、今年は7月9日から行われている東京都の施策「時差Biz」です。都心部に通勤している方には「あ、今年もやるの?」という感覚の人も多いこの施策。関係者にはそれぞれの思惑があるようなのです。

そもそも「時差Biz」って?

「時差Biz」とは、通勤ラッシュ回避のために通勤時間をずらす、広い意味での働き方改革の一つ。2020年の東京オリンピック開催時に予想される駅の混雑緩和も見据えた施策です。

調査会社マクロミルのアンケート調査によると、回答者の95%は、電車による通勤通学で「何らかのストレス」を感じていると回答しており、この改善が社員の生産性向上などに影響を及ぼすといわれています。

利用者の本音「やっても意味ない?」

一見、よい政策に見える「時差Biz」ですが、理想と現実には大きな乖離があるようです。たとえば、ある利用者は、

「政策によって電車の本数を増やしたりしているけど、早い時間の本数が増えただけ。遅い時間も本数を増やせば、より混雑が緩和されるのに」

と、「時差Biz」の実施方法について疑問を呈しています。

ほかにも、

「早い時間に通勤してみたが、結局は混んでいる。混む時間が前倒しになっただけで意味がない」
「通勤時間を早めたからといって、退勤時間も早まるとは限らない」
「企業側の裁量で残業させられることも多いし、かえって労働強化や長時間労働の温床になるのでは」
「そもそもなぜオリンピックのために、私たちがわざわざ協力しなければいけないの? 国民に無理を強いなきゃ開催できないくらいなら、最初から自国開催なんて考えないでほしい」

など、数多くの批判的意見があります。

引くに引けない公約「満員電車ゼロ」

上記のように、数多くの批判的意見があるにもかかわらず、2年連続で「時差Biz」が行われているのには、小池百合子都知事が「満員電車ゼロ」を公約に掲げたことも理由の一つとして挙げられるでしょう。

ネット上では、

「一度掲げてしまった以上、公約を破ると自分の信用低下を招くから続けているんじゃないか」
「そういえば最近『2階建て電車』の話って聞かなくなったけど、あれどうなった?」

という意見も多く見られます。確かに2年前の都知事選前後で大きく取り上げられていた「2階建て電車」構想は、すっかり懐かしい部類の話になってしまいましたね……。

また、東京都内はもとより、武蔵小杉(川崎市)など都内への通勤沿線の人気地区では、再開発やタワーマンション建設がいまも行われています。CMや駅のポスターなど広告費も使って派手に「時差Biz」をアピールしているものの、今後もまだしばらく続くと予測される東京都や周辺人気タウンの人口増に、実際の鉄道会社側の対応が追いつくかどうかは疑問が残ります。「満員電車ゼロ」実現への道は非常に険しいものといえそうです。

鉄道会社側の本音

このような現状に対して、出社せずに自宅などで作業を行う「テレワーク」を推進することが一番の策だという意見をお持ちの方もいますが、ここにも一筋縄では行かない事情があります。

というのも、単に通勤時間帯が前後にずれるのはいいのですが、テレワークによって「電車の利用者数」自体が減ってしまうと、鉄道会社にとっては大打撃となってしまうからです。

社会インフラではありますが、鉄道会社も営利企業ですし、もちろん株主の目もあります。本音としては、諸手を挙げてテレワークを推進するわけにはいかないと考えるのが自然でしょう。

また、これまで「定時にオフィスに出勤してきた社員と直接、顔を突き合わせて指示を与え、業務態度を見る」のがマネジメントだと思っていた大半の企業には、「自宅やカフェなど、会社と離れた場所で仕事する社員の成果をいかに測り、意欲を引き出して成長させるか」というマネジメントのノウハウが不足しているのも実際のところです。

来年以降も「時差Biz」は続くか?

このように、2年目を迎えた「時差Biz」ですが、企業・都知事・鉄道会社と、それぞれの立場や思惑が複雑に絡み合いながら実施されているともいえるでしょう。

東京オリンピックといえば、築地市場の跡地を通って、新国立競技場など「都心部」と選手村のある「臨海部」を結ぶ計画だったオリンピック道路「環状2号線」も、築地から豊洲への市場移転の迷走によって、開幕までに当初計画通りに開通するのは絶望的になりました。そもそも3年目の2019年、そして4年目の2020年まで「時差Biz」が続いているかどうかという問題もありますが、果たして、このまま東京オリンピックを迎えて、本当に大丈夫なのでしょうか。

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