独立や開業を考える際、「個人事業主」から始めてみようと考える人もいるでしょう。しかし、個人事業主についてよく知らないまま始めてしまうと、思わぬ苦労をしてしまうことも多いので注意が必要です。そこで、この記事では個人事業主のことを詳しく解説します!また、個人事業主として知っておくべき経費や税金についても確認していきましょう。
目次
1. 個人事業主とは?法人との違いやメリット・デメリットについて
2. 個人事業主の経費はどこまでOK?領収書の保管はいつまで?
3. 確定申告とは?個人事業主の確定申告方法
4. 個人事業主の税金の種類と所得控除
5. 個人事業主の消費税とは?計算方法や還付について
6. 個人事業主に社会保険はある?
7. 個人事業主の節税にはどんな方法がある?
8. おわりに
個人事業主とは?法人との違いやメリット・デメリットについて
個人事業主とは、簡単にいうと「個人で事業を営む人」のことです。仕事をして利益を得るという目的の面では、株式会社などの形態を取る営利法人と同じですが、個人事業主と法人の違いはどこにあるのでしょうか。
個人事業主の定義が「個人で営む事業」なのに対し、法人の定義は「権利・義務の資格を与えられ法律上人格を認められている集団」になります。つまり、個人事業主は「法人を設立しないで事業を営む個人」ということになります。
個人事業主のメリットは、開業の手続きが簡単という点でしょう。所轄の税務署に開業届を提出するだけで始めることができます。個人なので、株主や出資者を募ることもありませんし、経費として仕事に必要な交通費、通信費、資料代などの費用を計上できるなどのメリットがあります。
デメリットは、確定申告で青色申告をする場合、複雑な複式簿記を使った記帳が必要になることです。日頃からきちんと記録する習慣がないと確定申告で苦労することになるので、書類の管理が苦手な人にはデメリットになるでしょう。
ですが、仕組さえ分かれば会計ソフトや確定申告ソフトを使えば簡単に行うこともできるので、慣れてしまえば問題はありません。
個人事業主の経費はどこまでOK?領収書の保管はいつまで?
経費とは事業を行う上で必要な費用のことです。事業を営んでいく上で、経費の計上は節税対策になるためとても重要になりますが、プライベートな支出とはきちんと分けなくてはなりません。
しかし、個人事業主という性質上、どこまでが経費なのか区別が付かなくなる場合もあるのではないでしょうか。経費にできる範囲としては、仕事に関係するかしないかがポイントになります。たとえば、仕事中のコーヒーやお茶代は経費になります。それが自宅であっても出張先であっても、仕事中であれば変わりはありません。
さらに線引きが難しくなるのが飲食代です。友達との食事や飲み会なども経費にしてしまいたいところですが、プライベートの場合は経費にはできません。しかし、仕事に関する件で友人と飲食した場合など、業務に関係することであれば経費として計上することができる可能性が高くなります(明確に業務と切り分けられないケースでは認められない場合もあるので注意が必要です)。また、自宅で仕事をしている場合は、作業スペースの面積を按分計算して家賃や光熱費の一部を経費にすることも可能です。
経費を計上するうえで重要になるのが、支払いの証明になる領収書の保管です。白色申告をする場合でも5年間の保存期間が定められていますので、経費の抜け漏れをなくすためにも、領収書は必ず捨てずに取っておくようにしましょう。
税務調査などで領収書の提出を求められる場合があることを考えると、速やかに対応するためにも、経費の管理は必要になります。簡単な保管方法として、ファイルなどで日付が分かるように整理しておくといいでしょう。また、領収書に何の経費として支払ったものかを具体的に記載しておくと、税務署でチェックされてもスムーズに答えることができます。
確定申告とは?個人事業主の確定申告方法
確定申告とは1年間に得た所得から納税額を計算し、税金を支払うための手続きのことです。納めるべき税金を支払わないと延滞税などが発生してしまうため、毎年きちんと申告する必要があります。個人事業主の場合は、事業で得た所得を計算し確定申告を行います。この所得というのは、収入金額から経費を引いた金額になります。いつも仕事が好調で利益があればいいのですが、そうでない場合もあるでしょう。そこで、所得金額がない場合も申告が必要なのか、疑問になる人も多いのではないでしょうか。
所得が38万円以下の場合は確定申告の必要がないとされています。38万円という金額は、基礎控除の金額です。所得から基礎控除38万円が引かれるので所得が38万円以下になった場合、課税額がゼロになるため申告の必要がなくなります。売上は多いが経費も多く、売上から経費を差し引いた金額(所得)が38万以下になるような場合もそれに当てはまります。万が一税務調査が入った時のために、領収書など経費の詳細はきちんと分かるように保管しておきましょう。また、個人事業主の確定申告方法には「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。
何も申請しなければ自動的に白色申告になりますが、節税のメリットが大きいのは青色申告です。青色申告では、赤字を繰り越すことができます。節税だけでなく年収によって金額が計算される国民健康保険料なども絡んできますので、所得にかかわらず毎年確定申告をするほうがよりメリットを受けやすいといえます。
確定申告に必要な書類は、白色申告は「収支内訳書」と「確定申告書B」、青色申告は「青色申告決算書」と「確定申告書B」を提出するようになります。提出方法は2つあり、管轄の税務署へ提出する方法とe-Taxを使ったインターネットでの確定申告です。期限については土日に重ならなければ、毎年3月15日までと定められています。
個人事業主の税金の種類と所得控除
個人事業主が納める税金は、所得税、消費税、住民税、個人事業税の4種類になります。これらの税金は確定申告をきちんと行っていれば、別途申請する必要はありません。個人事業主が支払う税金で金額が大きいのが所得税です。計算方法としては、1年間収入から経費を差し引いた所得から所得控除を差し引き、課税所得額を算出します。そして、課税所得金額に所得税の税率を適用して所得税額を算出します。さらに、公平に税を負担するために超過累進税率が適用され所得税が算出されます。
超過累進税率とは、195万以下は税率5%、195万円を超え330万以下は税率10%、330万を超え695万以下は税率20%というように段階的に税率が高くなる仕組みのことです。たとえば、年間収入から経費や控除額を差し引き算出された課税所得金額が300万の場合、195万円×税率5%=9万7,500円、105万円×税率10%=10万5,000円になり、合計金額の20万2,500円が所得税額となります。
前述したように、収入から経費と所得控除を差し引いた金額が課税所得金額になるわけですが、控除額が多いほど節税できることにお気づきでしょうか。所得控除には様々なものがあり、納税者全員に適用される基礎控除(38万)を始め、災害や盗難など損害を受けた場合の雑損控除や医療費を一定以上支払った場合の医療費控除、配偶者がいる場合の配偶者控除、扶養家族がいる場合の扶養控除などがあります。余計な税金を支払わなくて済むよう、自分に当てはまるものをしっかりとチェックすることが大切です。
個人事業主の消費税とは?計算方法や還付について
個人事業主は事業を営み収入を得るにあたり、消費者からもらった消費税を申告して納める必要があります。しかし、すべての個人事業主が消費税を納める必要があるわけでもありません。一定の条件の下、消費税の申告が免除される場合もあります。「小規模事業者に係る納税義務の免除」という制度があり、それを利用すると基準期間の課税売上が1,000万円以下の事業主は納税が免除されます。
基準期間については、個人事業主の場合、前々年の課税売上額で当年度の納税義務が判断されます。ですが、注意する点もあり、前々年の課税売上額が1,000万円以下だとしても、前年の1月1日から6ヶ月間の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間において課税事業者になってしまいます。
消費税納付額の計算方法については、消費税は売上額を受け取った時に含まれているだけではなく、経費や仕入で支払っている消費税もあります。そのため納税するのは、受取った消費税だけでなく、そこから支払った消費税を差し引く形になります。その場合の算出方法は、受取った消費税 − 支払った消費税 = 消費税納付額になります。
しかし、いつも受取った消費税が多いとは限りません。支払った消費税の方が多いこともあるでしょう。その場合、差額分は戻ってくるのでしょうか。原則として、消費税が還付されるのは課税事業者だけです。つまり、免税事業者の場合は、還付してもらうことができません。消費税を還付してもらうには課税事業者になる必要があり、所轄税務署に消費税課税事業者選択届出書を提出する必要があります。
個人事業主に社会保険はある?
個人事業主はサラリーマンのように社会保険に加入することができるのでしょうか。個人事業主の場合、企業に雇用されているサラリーマンと同じ厚生年金や健康保険などの社会保険に加入することはできません。
個人事業主の場合は、国民年金と国民健康保険に加入します。40歳以上なら介護保険への加入も必要です。サラリーマンの場合、会社が半額負担してくれますが、個人事業主の保険料は全額本人負担になります。仕事が順調ならば問題ありませんが、個人事業主になっても思うように利益が上がらず、社会保険料の負担が重くなることもあるでしょう。
そんな時、配偶者が会社員なら扶養に入ることができます。通常扶養に入るには、年収130万未満、被保険者の2分の1未満という条件がありますが、個人事業主の場合は収入から必要経費を差し引いた金額が基準になります。
従業員がいた場合はどうでしょう。個人事業主に社会保険の加入義務はありませんが、従業員が5人以上になれば、社会保険に加入する義務が生じます。社会保険は労働者に対しての義務であり、事業主自身のことではありません。事業主の社会保険は、どんなに従業員が多くても自己負担での国民年金や国民健康保険のままになります。
個人事業主の節税にはどんな方法がある?
個人事業主にとって税金の負担は大きく、少しでも節税したいと考える人が多いです。節税方法の基本としては、「青色申告をする」「経費のモレをなくす」この2つが重要になりますが、他にも節税方法がいくつかあるのでご紹介します。
まず一つ目は、所得税控除の対象になる小規模企業共済への加入です。小規模企業共済とは廃業や退職時のために積み立てる制度で、掛け金が全額所得控除になります。事業資金の借入れもでき、メリットが多いです。
二つ目はiDeCo(個人型確定拠出年金)への加入です。iDeCoは私的年金のひとつで、公的年金に加えて給付を受けることができます。60歳まで掛金を引き出すことができませんが、小規模企業共済と同じで全額所得控除になります。
三つ目は、経営セーフティ共済への加入です。経営セーフティ共済とは取引先の倒産に備えるためのもので、事業資金を借入れることができます。個人事業主の場合、この掛金は必要経費として計上することができます。
また、節税対策としてよく知られているのが車や不動産の購入ですが、これらはやり方によっては税務調査の対象となり、トラブルの原因にもなってしまいますので注意が必要です。
たとえば、100%経費で購入した仕事用の車をプライベートで使っている場合などは、税務署からの問い合わせにきちんと答えられるようにするためにも、車の減価償却や仕事で使用する場合の費用をしっかりと計算し、把握しておく必要があります。
不動産については、節税対策として購入するにはリスクが高くなります。そもそも不動産は金額が大きいため、減価償却や修繕費などの経費も高くなりますが、それをまかなうほどの家賃収入などがなければ、負担になる物件を抱えているだけになってしまいます。節税といいながら、プライベートで使用する車を購入したり、無理して不動産を購入するのはメリットを得にくいと思っていいでしょう。
おわりに
個人事業主について知ることができたでしょうか。個人事業主はサラリーマンとは違い売上や経費の管理、確定申告まで全て自分でやらなくてはなりません。しかし、自分の考えで仕事ができるなどのメリットもたくさんあります。独立や開業を考えているなら、個人事業主を始めてみてはいかがでしょうか。
LIMO編集部