「IoTによる技術革新は加速度的に進んでいる。中国ファーウェイの予測によれば、2025年に23兆ドル(約2400兆円)の巨大市場が誕生するという。400億個に及ぶ個人用のスマート端末が登場し、210億以上ものスマートホームが誕生するのだ。この流れをキャッチしない限り、新時代に乗り遅れることは確実だ」

 こう語るのは、京都に本拠を構えるテクサー(TECHSOR)の代表取締役社長、朱強氏である。朱氏は、中国上海で生まれ大阪大学で情報工学を学び、奈良先端科学技術大学院大学では論理合成の分野に突き進んだ。卒業後は富士通研究所で7年間にわたり勤務するが、ここではCAD、システムLSIの設計などに関わった。その後アメリカにも留学し、ケイデンスなどの勤務を経て、2016年10月にベンチャー起業したのである。

データ生成量は25年に10倍の180ゼタバイト

 「IoTはモノや人からデータを収集し、データを分析・処理してその結果を現実の世界にフィードバックする。その一連のプロセスで新たな社会やビジネスを切り開こうとしている。この革命ともいうべき現象に対し、貢献できる技術を作り上げ提供していきたい」(同)

 ちなみに前記のIoT新市場23兆ドルの内訳であるが、一番大きいのが製造業で6.4兆ドル、ついでICT(情報通信技術)5兆ドル、コンサルティング3兆ドル、民生サービス2.9兆ドル、金融業1.7兆ドル、小売業1.5兆ドルとなっている。当然のことながらクラウドの利用最大化と人工知能のフル活用が必要であり、データ量は何と2016年段階の8ゼタバイトから2025年には10倍の180ゼタバイトにまでなるという。

中核3事業でIoTに貢献

 そうした時代に対応し、テクサーは中核3事業を打ち出している。①IoT長距離通信事業(ZETA)規格を用いたIoT向けの通信インフラLPWAシステムの提供 ②IoT近距離通信事業(インドア・ナビゲーション応用システムの提供) ③スマート・センサーエッジシステム関連事業の3つだ。

 「インドアナビゲーションシステムはGPSより高精度であり、GPSを使えない商業施設、地下街、病院、工場、駐車場などでも威力を発揮する。独自のアルゴリズムによって誤差1m程度の高精度の測位を実現している。LPWAネットワークにより広い範囲でデータ収集が可能であり、Wi-Fi方式の5分の1の低コストでシステム導入可能なのだ。すでに京都三条会商店街に導入されており、スマホを用いて国内外からの観光客や京都市内のお客様に、商店街の最新情報を多言語で提供している」(同)

 なお同社は上海のスマートシティ展開にも力を入れている。チャイナタワー中心に中国最大のノンライセンスLPWAネットワークサービスを展開しているのだ。ビルメンテナンスにおいて圧倒的なコストダウンがされることが大きな特徴になっている。ビルの中に電流センサー、人感センサー、ドアセンサー、水位センサー、漏水センサー、温湿度センサー、照度センサー、振動センサーなど、ありとあらゆるセンサーを取り付けて新たなIoTプラットフォームでスマートビルを形成し、すべてのコストダウン及びエネルギーの削減を実現していくのだ。

 「テクサーの展示会データ解析システムもここに来て多くの注目を集め始めている。従来の展示会の参加者情報は展示会が終わってから様々な集計を行っていた。しかし、このシステムを用いることにより、各ブースにいつ何人の参加者が来訪していたか、来訪者がどのブースに何分間滞在していたか、どのような経路で移動したか、などの詳細情報をリアルタイムで収集できる。電源は不要であり、設置・撤去は容易であり、圧倒的な低コストを実現している。今後の展示会ビジネスには必須のものになるだろう」(同)

3年後に40億円の売上目標

 テクサーはZETAのLPWAネットワークを採用しているが、他のLPWANの規格と比較して多くの優れた特徴を備えている。それは①超狭帯域による多チャンネルでの通信が可能 ②Meshネットワークによる広域での分散アクセスが可能 ③双方向での低消費電力通信が可能――などである。IoT向きの通信インフラとして最適な技術であり、安心安全の見守りシステムとして使えるのだ。

 前記の上海のあるビルには600個のセンサーを付け、モーターなどにエッジのコンピューティングによる故障検出も実現している。北京のベンツの工場にもZETAを使い、ロボットのデータを湿度センサー、振動センサーなどを使い正確に検出する。エッジコンピューティング時代にあっては判断そのものをセンサー側が行うことが重要なのだ。そしてまたZETAの特徴はバッテリー寿命が長いことであり、電池で5~10年間持たせることができる低消費電力も達成している。

 「私は日本および日本人が大好きであり、それゆえにこの日本からマーケティングを構築し、世界に発信しようと思っている。3年後の売上目標は40億円であり、2021年にマザーズ上場を果たしたいと切に願っている。先ごろ凸版印刷、九州電力などと提携し、本格的なビジネス構築の体制が整ってきた。我々の目の前にあるのは、まさに新たな産業革命とも言うべきIoTであるが、テクサーにはZETAという次世代の通信規格があり、独自のセンサー技術、エッジシステムがあり、これが世界の多くの人たちに貢献できると思っている」(朱社長)

(泉谷渉)

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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
 30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉