二人以上世帯の貯蓄について世代ごとの状況をシリーズでお伝えしている「年齢別平均貯蓄」。今回は60歳代の貯蓄についてです。60歳代といえば、多くの方は「定年退職」も迎え、まさに「老後」という人も多いでしょう。もっとも定年退職後も仕事が見つかり、引き続き現役という方もいらっしゃるのは事実です。とはいえ、多くの方が50歳代では老後に向けた貯蓄を強く意識し始め、実行し、その結果が60歳代という世帯も多いことでしょう。

ちなみに「貯蓄」と「貯金」は似ているようで異なります。「貯蓄」には投資が含まれます。では60歳代の世帯はどくらいの貯蓄があるのでしょうか。今回は総務省のデータをもとに貯蓄高や負債高の平均値の過去10年のデータを遡り、その特徴を振り返っていきます。

60歳代の貯蓄高はいくらあるのか

総務省は2018年5月に「家計調査報告」[貯蓄・負債編]平成29年(2017年)平均結果の概要として調査結果を発表しています。同調査では、二人以上の世帯に関して世帯主の年齢階級別貯蓄や負債現在高を公表しています。

データを俯瞰する際には、平均値、中央値だけではなく、分散や標準偏差なども知りたいところです。ただ、今回の世代別の貯蓄及び負債現在高については平均値のデータとなっています。今後の私たちの老後準備のためにも、詳細データの開示については総務省の今後の積極的なデータ開示に期待したいところです。

さて、2017年は60歳代(60~69歳)の貯蓄現在高は2382万円となっています。この2382万円という水準は過去10年を振り返ってみると、ピークである2014年2484万円よりは下がってはいますが、10年前の2288万円と比較すると増えています。過去10年で大きな変化をしてはいませんが「比較的安定した水準」といえるでしょう。2009年に2202万円と2200万円台をつけているものの、その後は2300から2400万円のレンジで推移しています。

また、過去10年の60歳代の貯蓄現在高推移は以下の通りです。

  • 2008年:2288万円
  • 2009年:2202万円
  • 2010年:2314万円
  • 2011年:2363万円
  • 2012年:2249万円
  • 2013年:2385万円
  • 2014年:2484万円
  • 2015年:2402万円
  • 2016年:2312万円
  • 2017年:2382万円

60歳代の負債はやや減少

貯蓄現在高をここまで見てきましたが、続いて負債現在高も見ておきましょう。

負債現在高は今回は60歳代とあって、40歳未満、40歳代、50歳代と比べるとその水準が大きく切り下がっています。60歳代にもなると住宅ローンも返済し終わっている方が多いのが背景でしょうか。40歳未満で負債現在高が2017年に1123万円、40歳代が1055万円、50歳代が617万円という水準と比較すると60歳代の205万円はかなり低く見えます。60歳代の負債現在高を見ると負債を多く抱えずして老後に突入していく姿が見えます。

2017年の205万円は10年前の2008年の217万円よりも若干下がっています。とはいえ、2015年には196万円と200万円をきった水準から2016年には220万円とやや増加し、2017年は引き続き200万円台となっています。

過去10年の60歳代の負債現在高は以下の通りです。

  • 2008年:217万円
  • 2009年:201万円
  • 2010年:221万円
  • 2011年:226万円
  • 2012年:197万円
  • 2013年:204万円
  • 2014年:213万円
  • 2015年:196万円
  • 2016年:220万円
  • 2017年:205万円

まとめにかえて

60歳代の貯蓄現在高は「比較的安定した水準」と触れましたが、平均寿命が伸びていること、またそれに伴う医療や介護問題、加えて年金の支払開始時期の延長議論などの自分たちではコントロールしきれない要因を考えると、過去10年で貯蓄現在高はもっと伸ばしておきたかったというのが60歳代の考えではないでしょうか。総務省の定義では「貯蓄」には有価証券投資なども含んでいます。インフレの可能性も考えればデフレ下で現金などで保有していれば正解であった資産運用が必ずしもそうではなくなる環境が近づいているのかもしれません。

【ご参考】総務省のデータ使用上の注意点

同調査でいう「貯蓄」とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計を言います。いわゆる「貯金」、「預金」だけではないことに注意が必要です。表現としてはどちらかというと「金融資産」という方が近いかもしれません。また、同調査の貯蓄は世帯全体の貯蓄であり、また、個人営業世帯などの貯蓄には家計用のほか事業用も含めるとされています。したがって、個人事業主においてはそれに関係する資産も含まれるという点にも留意する必要があります。

参考記事:

青山 諭志