皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。

極めて暑い日が続き、私は半袖のシャツを着始めました。まだ、体が慣れてないせいか、特にネクタイをして外出すると、本当に暑さを感じる1週間でした。

本コラムは、前回(その1)の続きですが、本来予定していた2つの米国株価指数の話に加え、市場の注目材料である貿易、知財問題についても、お話できればと考えます。

  • 前回のコラムでは、どちらも米国株式の指数であるにもかかわらず、ダウ・ジョーンズ工業株価平均(以下、ダウ指数)は横ばいの動きのように見える一方で、Russell2000インデックス(以下、ラッセル2000)の値動きは、このところ高値更新を続けていることを説明した。
  • 加えて、(ラッセル2000と比較して)時価総額が大きい企業から構成されるダウ指数は、貿易戦争などのマクロ的な問題の影響を受けやすいという考え方があるように感じるが、2017年と2018年合計の騰落率は、両指数とも約+25%であり、2018年のラッセル2000は、単に2017年の出遅れを取り戻しているだけにも見えることも説明した。
  • 貿易問題などが懸念されている状況ではあるが、現状の米国企業の利益は極めて好調であり、2018年のダウ指数の(1株当りの)利益の伸びは2割近くに達している。そして、ラッセル2000の同利益の伸びは4割近くに達しており、この数字からは、ラッセル2000の好調推移は当然のことのように思える(なお、利益の伸びには減税効果を含む、図表1ご参照)。
  • 貿易問題などに油断は禁物であるが、最終的には、株価の決定要素としては利益の推移が一番重要であると私は考えている。


今週に入ってから、ダウ指数もラッセル2000も調整色を強めています(それでも、昨年末との比較では、(ダウ指数と比較して)ラッセル2000が好調なことには変化はありません)。そして、この動きは、貿易や知財問題を巡る米中の対立が激化することを反映した動きであるとの解説を、しばしば目にされることと考えます。

たしかに、大きな経済規模を持つ米国と中国が対立し、互いに関税を掛け合うことや、企業買収などを妨げる資本規制などを行うことは、経済成長、及び企業収益の鈍化に繋がる可能性があります。そして、この問題が、「①いつ、どのような着地点を見出すのか」、あるいは「②対立はこれからも先鋭化を続けるのか」については、トランプ大統領の判断しだいという側面があり、今後の方向性を予測することは容易ではありません。

このような状況の中、今回の問題を巡る市場の反応として私が違和感を感じる部分としては、株式市場が株安と(ある意味素直に)反応しているにもかかわらず、為替市場ではドル安が進んでいないことです(例:執筆時点の米ドル/円は110円台後半を維持しています)。

もし、株式市場の動きを重要視すれば、「①為替市場が貿易や知財問題の影響を十分に織り込んでいない(米貿易赤字縮小には米国の輸出が活性化されるドル安が有利、また資本規制は中国企業による米国企業の買収を妨げるため、中国元売り、米国ドル買いのニーズを減少させ、ドル安要因と捉えることもできます)」と考えることができるでしょう。

一方で、為替市場の動きを重要視すれば、「②株式市場の動きは、四半期決算を前にして、米国企業の自社株買いが不活性化していることなど他の要因も受けたものだ」と理解できるかもしれません。

話を本題であるダウ指数とラッセル2000の動きに戻すと、「ダウ指数は大型株なので、貿易、知財問題の影響を受けやすい」という解説と比較して、2018年のラッセル2000の好調は、「EPSの変化(利益の伸び)が4割近くと極めて大きいこと」を反映していると理解するほうが、私には素直な解釈のように感じます(EPS:1株当たり利益 (Earnings Per Share) ) 。

貿易や知財問題の行方には油断はできませんが、もし、米中間選挙の前に、「タフな交渉であったが、米国に有利な形で問題は終息した」とトランプ大統領が米国民にアピールしたいのであれば、利益の伸びが株価を押し上げる可能性にも目配りしたいと考えます。

図表1:2つの株価指数の特徴(前回コラム (その1) の図表再掲)

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成
2018年の騰落率は6月21日現在。EPSの変化は、ブルームバーグのBEst予想EPS(1GY)データをもとに、2017年は2016年末と2017年末を比較、2018年は2017年末と2018年6月21日を比較したもの。PERはブルームバーグの予想PER(2018年6月21日現在)


(2018年6月29日 13:30頃執筆)

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柏原 延行