世界では不動産業界にもフィンテックの波が押し寄せ、「Proptech」「Property Technology」「Real Estate Tech」などと言われます。
街の不動産屋さんといえば、昔ながらの地元密着型の小規模事業者が思い浮かびますが、そうした業態も将来は変貌を遂げていくのでしょう。今回は、「Proptech」(不動産テック)の潮流を整理したいと思います。
「Proptech(不動産テック)」とは
「Proptech」(不動産テック)とは、用地の取得・開発、分譲・賃貸、資金調達、取引(集客・相談・媒介・内覧・交渉・重説・契約・引渡・登記・アフター)などの不動産関連業務に際し、インターネット・スマートフォン、ビッグデータ・IoT、AI、SNS、バーチャルリアリティなどの破壊的技術によって効率化や新たな価値を生み出すビジネスやサービスのことです。
これが出現した背景として、不動産業界が抱える諸課題があるかと思います。つまり、不動産取引の不透明性といった業界特有の問題、情報の電子化の遅れなどです。
不動産テックはどう進化しているのか
1980年代中頃、パソコンの普及に伴い不動産業界にコンピュータが持ち込まれました。いわゆるProptech 1.0です。その後、1990年代中頃のドットコムブームを経てオンライン取引市場に進化しました。
次に、現在進行中のProptech 2.0では、住居用不動産中心にデータが整備され、公的な情報をフル活用できるようになりました。
そして、Proptech 3.0は不動産業界の将来トレンドです。ここでキーワードとなるのは、革新的技術(eコマース、バーチャルリアリティなど)、人口動態変化、グローバリゼーションです。
オンライン不動産会社の出現
既存の不動産会社に対して、世界各国でオンライン不動産会社が出現しています。その代表例が、英国最大手の「Purplebricks」 と米国の「Redfin」 です。
また最近、欧米では住宅ローンのオンライン仲介サービスが広まっています。たとえば、米国の「Roostify」や「Blend」 、英国の「Trussle」です。
さらに、不動産投資に関する助言、管理、売買支援を行うオンライン企業も出現しています。たとえば、米国の「Cadre」 は大型商業不動産のオンライン仲介プラットフォームを提供しており、2016年のフォーブスFintech 50に選ばれた会社です。また、米国「PeerStreet」は商業不動産にフォーカスした不動産投資オンラインプラットフォームです。
日本での「不動産テック」の広がり
もちろん日本でも不動産テックが広まりつつあります。特に、不動産業務の効率化、不動産価格の可視化・査定、取引マッチング、不動産クラウドファンディング、シェアリングといった領域においてフィンテック技術が活用されているようです。
海外では、よくフィンテックやProptechの業界マップ(「カオスマップ」と呼ばれる)を見かけますが、日本のマップが見当たらないのでネット検索しましたら、「REAL EATATE tech カオスマップ」(リマールエステート社、QUANTUM社、川戸温志氏による作成)という業界マップがありました。ご興味があればご覧ください。
不動産業界の未来の姿
不動産業界の未来の大きな潮流としては、まず第1に、分散型台帳技術(DLT)の浸透により不動産の所有権登録やその移転情報の処理が自動化・高速化するものと思われます。すでに米国「Propy」 では、不動産所有権の移転に関する情報処理にブロックチェーン技術を活用しています。
第2に、バーチャル・リアリティの技術が駆使される可能性が高いと思います。すでに米国「Floored」では、3次元バーチャルリアリティ技術を駆使して不動産物件案内ができるようになっています。
第3に、AIを活用したサービスがさらに広まりそうです。すでにドイツ「Leverton」は、AIを駆使して不動産レンタルに関する書類を分析・管理しています。
将来、日本の不動産業界においても、地方の人口減少、農村部の高齢化、都市部への人口集中、若者のライフスタイルの変化(デフレ経済下の所得低迷による節約志向、シェアリングエコノミー、家は賃貸派など)等々、環境変化に対応して顧客ニーズを汲み取ったきめ細かいサービスが必要になってきそうです。
そこでは、人手不足の中、上記のような技術を駆使して業務を自動化することは避けられないでしょう。結果として、否応なくProptech(不動産テック)なるものが浸透していくのかもしれません。
大場 由幸