本記事の3つのポイント

  • トヨタ自動車が社内製造ライン向けに開発していたロボットを応用展開し、新事業の1つとして外販され始めている。分野は医療介護支援やコミュニケーションなどバラエティーに富んでいる
  • 12年に発表した「HSR」は研究開発用のプラットフォームロボットとしての展開が拡大。ロボットの世界競技会「ロボカップ2017」ではHSRが競技用の標準機として採用されたほか、20年開催予定のロボット国際大会「ワールドロボットサミット」(プレ大会は18年開催)でも競技用の標準機に採用されている
  • ロボット開発で重要な「統合力」は、もともとトヨタが自動車開発で長年培ってきたものであり、今後はロボット開発で得たものを自動車分野に生かしていくことも期待される

 

 トヨタ自動車といえば、国内企業でトップの売り上げを誇る世界有数の自動車メーカーというのは日本人なら誰でも知っていることだろう。だが、トヨタがロボット製品も手がけていることはあまり知られていない。しかも、その範囲はかなり広く、ここ数年で取り組みが活発化している。そこで本稿ではその内容について触れてみたい。

 トヨタグループにおけるロボットの歴史は、1970~80年代にかけて工場内で使用されるロボットの開発を実施したことが始まりだ。そして現在、溶接工程や塗装工程で多数の自社製ロボットが導入され、組立工程や運搬作業などでも活用されている。この製造現場向けロボットの技術に、自動車技術、電子技術、知能化技術を結集し、社会のニーズに応えることを目的とした「パートナーロボット プロジェクト」という取り組みが2000年に発足した。

 パートナーロボットは、「やさしさ」と「かしこさ」を兼ね備え、人のパートナーとして人をサポートすることをコンセプトにしており、05年1月には専属の「パートナーロボット開発部」が社内に発足。05年の愛知万博では、2足歩行型のヒューマノイドロボットなどが発表され、大きな注目を集めた。だが、それ以降も様々なロボット開発が実施されているものの、技術をアピールするものが多く、我々の目に触れるようなものは少なかった。

医療介護支援や会話型を製品化

 しかし、ここにきて事業化に至るロボット製品が複数出てきている。その1つが17年よりレンタル販売を開始した「ウェルウォーク WW-1000」だ。藤田保健衛生大学(愛知県豊明市)と共同開発した医療介護支援ロボットで、歩行練習やバランス練習といったリハビリをロボット技術でサポートするものである。

 そのほか、コミュニケーションパートナー「KIROBO mini(キロボミニ)」の販売も17年より行っている。座った姿勢で高さ10cmという手のひらサイズの会話型ロボットで、5歳児レベルのコミュニケーション能力を有している。専用アプリをインストールしたスマートフォンをBluetoothでつなぐことで会話や仕草を実現でき、人との会話を通じて出来事や好みを覚え、利用者に合わせてキロボミニも成長するというロボットだ。

高い会話機能を持つ「KIROBO mini」

 キロボミニはトヨタの一部車種とも連携でき、クルマから取得した情報に応じた会話も可能。また、トヨタホームのスマートハウスと連携し、スマートハウスから得られる情報に応じた会話もできる。

ヒューマノイド型なども発表

 開発面も活発になっている。その1つが12年に発表した「生活支援ロボット(HSR:Human Support Robot)」だ。介助犬をコンセプトに開発した小型ロボットで、タブレットを通して指示を出すと、手足の不自由な人のために自宅内の離れた場所に移動し、様子を確認したり、落ちたものを拾ったり、物を持ってくることができる。

 そして現在、HSRは、研究開発用のプラットフォームロボットとしての展開が拡大している。例えば、17年7月に名古屋で開催されたロボットの世界競技会「ロボカップ2017」ではHSRが競技用の標準機として採用された。そして20年に日本で開催されるロボット国際大会「ワールドロボットサミット」(プレ大会は18年開催)においても競技用の標準機に採用されている。

 そのほか17年11月に発表されたヒューマノイドロボット「T-HR3」も大きな注目を集めている。T-HR3は操縦者と連動して動くのが大きな特徴、つまりは遠隔操作でロボットに操縦者と同じ動きをさせることができるシステムだ。家庭や医療機関などでの活用を目指しており、将来的には、災害地、建設作業、宇宙などで活躍するロボットへの応用も視野に入れている。

ヒューマノイドロボット「T-HR3」

トヨタはロボット分野でも先頭に?

 医療介護支援、コミュニケーション、研究用プラットフォーム、遠隔操作型のヒューマノイドロボット――これだけ幅広いロボット開発を行っているのは、日本はもとより、世界でもトヨタだけであろう。

 では、そのトヨタがロボット開発を行っていくうえでの強みは何なのか。一言でいえば「統合する力」となるだろう。ロボット開発は、エレクトロニクス、メカトロニクス、ソフトウエアなど様々な部品や技術を融合し、1つの製品として作り上げていく力が要求される。そしてそれは自動車開発でも必要とされる要素だ。

 つまりトヨタは世界でトップクラスの「統合」に関する多くのノウハウを有しており、ロボット開発においてもその力が大きな武器となる。また、自動車開発において研究が活発化している自動運転車は「ロボットカー」と表現されることもあり、ロボット開発で培ったノウハウが自動車開発に活かされるようなケースも今後増えていくだろう。

 現在、日本経済は「自動車分野の1本足状態」といわれることも多く、次世代産業の育成が急務となっている。そのなかで政府は未来投資会議などにおいて、ロボットを成長戦略の1つに据えており、日本における「2本目の足」として育てようとしている。現在、1本目の足である自動車産業において日本の先頭を走っているのは、言うまでもなくトヨタであるが、今後「2本目の足」の先頭にもトヨタが立つのかもしれない。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島 哲志

まとめにかえて

 記事にもあるとおり、ロボット開発はエレクトロニクス、メカトロニクスなど様々な知見がトータルで要求される「総合力・統合力」が非常に重要です。ロボット産業が今後成長していくなかで、トヨタが事業としてどう拡大させていくのか、注目されるところです。ロボット開発に力を入れている自動車メーカーはトヨタだけではありません。ホンダなども以前から注力分野の1つと位置づけており、これまでも成果を大々的に発表してきました。自動車とロボットが今後どういった融合を果たしていくのか、次世代のモビリティー社会を考えるうえで重要なキーワードとなるかもしれません。

電子デバイス産業新聞