年初から急落していた仮想通貨がここ2週間で急浮上しています。米国で確定申告が終了したことが転換点となったほか、プライバシーへの危機感や低調な株価も追い風になったようです。
ビットコイン買戻しに勢いが出た背景
年初からの急落で6000ドル台まで下落していたビットコインが9000ドル台まで回復していますが、急落と急騰の背景には米確定申告の影響があったと言われています。
まず金額的な影響を見ると、2016年の米1世帯当たりの平均税還付額は3000ドル弱(30万円強)だったと推計されています。
日本の場合、確定申告による還付金の多くは数万円であり、ざっくりとした平均値は4万円から8万円程度といわれていますので、税還付の影響といってもピンとこないかもしれませんが、米国の税還付は金額がひと桁違いますので相応のインパクトがあることがうかがえます。
次に日程を確認すると、米国での確定申告は1月下旬に始まり4月15日に終了します。今年の場合、暦の関係で最終期限は17日でしたが、システムがダウンした影響で18日まで延長されています。ただ、仮想通貨で得た利益を申告する際の煩雑さから、仮想通貨保有者の税申告はかなり後ずれしたようです。
相場を振り返ると、ビットコインは3月上旬の1万1000ドル台から4月上旬には7000ドルを割り込み、1カ月で約4割も下落しています。しかし、申告の期限が迫った4月中旬から値を戻すと、期限が終了した19日以降にさらに上値を伸ばし、一時9000ドル台に乗せています。4月上旬の安値からは約2週間で30%以上の急騰を演じたことになります。
米家計が2017年に仮想通貨から得た利益は920億ドル(約10兆円)、納税額は250億ドルと推定されています。利益が大きかった投資家が納税のために保有する仮想通貨の一部を売却したために、相場の急落を招いたのではないと考えられています。
また、IRS(日本の国税庁に相当)が公表している仮想通貨の計算方法がわかりにくかったことで、慎重な投資家は納税額を保守的(多目)に見積もり、仮想通貨を換金して手元の現金比率を高めたことも相場の下げに拍車をかけた可能性があるようです。
確定申告が済むと約1カ後に還付金が受け取れます。税還付によりまとまったお金が入るとその一部が投資に回されますので、仮想通貨に買い戻しが入っても不思議ではありません。
このような確定申告の流れを踏まえ、3月から4月にかけての仮想通貨の急落とその後の上昇は確定申告の終了が転換点になったと考えられているわけです。
プライバシーへの危機感が高まる
ところで、米国では3月23日、クラウド法、Clarifying Lawful Overseas Use of Data (CLOUD) Act、が成立しました。
同法により、オンライン上に保存されている個人情報を含むデータへの米政府によるアクセス権限が強化され、アクセスに必要な手続きも簡素化されています。
また、米政府は海外政府と協定を結ぶことで海外にあるサーバーのデータも収集できるようになり、その一方で海外政府も米企業に対してデータの提供を求めることができるようになりました。
米政府はクラウド法を「インターネットユーザーを保護するための法案」と位置づけていますが、各国政府はほぼ無制限に個人情報へのアクセスができるようになることから、個人のプライバシーの侵害につながるのではないかと強く警戒されています。
また、この法案の成立とほぼ時を同じくしてフェイスブックからの個人情報流出が明るみに出たことも、プライバシーへの危機感に拍車をかけたようです。
今回の情報流出ではフェイスブックは“タダ”ではないことが再確認されています。フェイスブックはドルや円での支払いがないという意味では無料で利用できるサービスですが、利用者はサービスの対価として個人情報を提供しています。
極端に言えば、フェイスブックはその個人情報を不正に利用することで、広告主である企業やその情報を政治的に利用したい外国政府を相手に莫大な利益を上げていた恐れがあるわけです。
クラウド法の成立で米政府と海外政府は、フェイスブックのみならず、グーグルやアップル、アマゾンなどが保有しているe-mailやチャットなども含む個人情報を本人への通知なしで手入れることが可能となります。しかし、この法案を“ビック・ブラザー”※と感じる人も少なからずおり、人権団体らは強い懸念を表明しています。
ビットコインの利便性は安全に、迅速に、低コストで送金できることにありますが、非中央集権型の無国籍通貨であり、秘匿性が高いという特徴もあることから、思想的には個人の自由やプライバシーの尊重に根差しているとも言われています。
したがって、フェイスブック問題やクラウド法の成立にビットコイナーたちが危機感を高めたことも相場の追い風になったのかもしれません。
※国民を厳しい監視下に置こうとする国や機関のこと(ジョージ・オーウェルの『1984』に登場する独裁者の名前から)
米景気の先行き不安で株安の受け皿に
また、仮想通貨は低調な株式市場の受け皿にもなっているようです。
1-3月期のS&P500は四半期ベースで2015年7-9月期以来のマイナスとなりました。仮想通貨を購入した人のほとんどは”お金儲け”が目的と言われていますので、投資家は値下がりしている株式市場から値上がりしている仮想通貨へと単純に資金を移動しているだけなのかもしれません。
低調な株価の背景には米景気の先行き不安があり、市場ではイールドカーブ(利回り曲線)のフラット化が警戒されています。過去の景気循環を振り返ると、2年債利回りが10年債利回りを上回るいわゆる“逆ザヤ”となることが景気後退のサインとなっており、現在は逆ザヤに向かってフラット化が進んでいるからです。
フラット化を促しているのは物価の上昇です。米消費者物価指数(CPI)は2%超で推移していますが、米政策金利は現在1.50~1.75%のレンジ内で推移しており、物価の伸びを下回っていることから、政策金利は今年から来年にかけて断続的に引き上げられる見通しとなっています。
また、原油価格の高騰もインフレ見通しを強めています。原油価格は、2017年1月から始まったOPECとロシアを含む主要産油国による協調減産により過剰在庫の解消が進んだことで、2014年11月以来、3年半ぶりの高値を回復しているからです。
しかし、原油価格の上昇は消費者から生産者への所得移転とも見なせますので、米消費者にとっては痛手となります。
インフレ圧力が強まってることも手伝って、米消費活動は年初から停滞しており、米経済成長見通しを押し下げています。たとえば、アトランタ連銀が公表してるGDPナウは4月17日現在で1-3月期のGDP成長率を2.0%と予測しており、民間のエコノミストの間では2%を下回る予想も少なくありません。
米利上げにより短期金利が上昇する中で、成長鈍化が警戒されて長期金利は短期金利ほどには上昇せず、長短金利差の縮小が続いています。
10年債と2年債の利回り格差は既に0.5%を下回っており、米利上げ継続を前提とすると逆ザヤ化も時間の問題なのではないかと懸念されているわけです。
LIMO編集部