コインチェック問題で関係者を驚かせたのは、同社が460億円もの補償を、事件発覚後1か月半あまりで実施したことです。「仮想通貨事業者はそんなに儲かるのか」と驚いた人も多いのではないでしょうか。
その理由は、仮想通貨ならではの不透明性にあります。たとえば、価格形成のプロセスです。仮想通貨事業者を「取引所」と呼ぶことがありますが、証券取引所などとは大きく異なります。
東京証券取引所などでは、売り手と買い手がそれぞれ価格を提示し、そのバランスにより値段が決まります。証券会社はその仲介手数料を得ます。ところが、仮想通貨の場合、仲介だけでなく自己勘定での売買を行っている業者がほとんどです。
大きな特長は、この場合の価格は業者が自分の思惑で決めることができることです。通貨によっては、利益となるスプレッド(売値と買値の差)を5~10%の高額に設定している例もあります。
さらに、業者が自己勘定で売買を行う場合、マリーと呼ばれる相殺取引を行うことができます。たとえば、投資家Aさんがある仮想通貨1単位を買い注文し、投資家Bさんが同じ仮想通貨1単位を売り注文した場合、仮想通貨事業者はこれらを相殺することができます。
つまり、実際に仮想通貨を動かさなくても(手元に仮想通貨がなくても)、手数料だけを簡単に得ることができるのです。
これらのカラクリにより、コインチェックは月間で数千億円もの売買を自己勘定で行っており、数百億円もの利益を得ていたと言われます。むろん、その源泉のほとんどは個人投資家の資金です。
今後は業者の淘汰や再編がさらに進む可能性も
自己勘定やマリー取引は違法ではありませんが、問題はそれらが開示されておらず、ブラックボックスになっていることです。多くの投資家が安心して取引できるようになるには透明性が必須になります。
コインチェック事件をきっかけに、金融庁がみなし事業者に立ち入り検査を行い、一部のみなし事業者に行政処分を行いました。みなし事業者の中には仮想通貨交換業からの撤退を決めたところもあります。コインチェックはマネックスグループの完全子会社になることで存続の道を維持しました。
仮想通貨市場の健全化を進めるためには、業者の淘汰や再編もまだ続きそうです。ただし規制を強化し参入障壁が高くなりすぎると、せっかく日本がリードしている仮想通貨市場でのポジションを失うことにもなりかねません。
現在、世界では国によって仮想通貨に対する対応もまちまちです。市場の発展途上期ならではの難しい局面にさしかかっていると言えるでしょう。
上山 光一