各地で講演をさせていただくなかで、「この地域は高齢化が進んでいて心配。やはり若い人が集まるように産業を誘致しなければ」とよく聞くことがあります。一方で、つみたてNISA等若年層向けの施策がスタートしていますが、投資の世界ではまだまだ「やっぱり高齢者が中心です」とも聞きます。
地方の金融機関にとって、高齢者とはどういった位置づけなのでしょうか。本当に高齢者が増えることは問題なのでしょうか。問題があるとすればどこにあるのでしょうか。
高齢者とは?
「ネガティブに見られている高齢者」と「資産運用の中核として見られている高齢者」では、「高齢」という定義にズレがありそうです。
一般に、高齢化率の計算には65歳以上人口の総人口に対する比率を使います。しかし、自民党のプロジェクトチームでは、65歳までを「完全現役」、70歳までを「ほぼ現役」と称するなど、65歳ではまだまだ現役だという考えが広まりつつあります。
また十分活動的な65-74歳の層は、個人金融資産の29%を保有していると推計され(フィデリティ退職・投資教育研究所推計)、金融機関にとっては大切な存在です。
ネガティブにとらえている場合の高齢者は、全てを一括りにして高齢者を議論しているようですし、資産運用の中核として認識している人は「退職者世代」として、特に65-74歳までの活動的で資産活用にも積極的な層ととらえているように思えます。
個人の投資に対する姿勢を年齢で分けて考えるのは適切でないものの、論点を明確にするためにあえて75歳を区分にして都道府県別に事態を整理してみたいと思います。ちなみに、日本証券業協会の「高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン」(2013年)では、高齢顧客の定義の目安として75歳とか、より慎重に勧誘する顧客を80歳以上とするなどの目安を公表しています。
何が問題なのか?
少子高齢化の影響で523の自治体が消滅すると報告して注目された、2014年の日本創生会議のレポート、通称「増田レポート」では、人口減少のプロセスを、①老齢人口増加と生産年齢/年少人口減少は2040年まで、②老齢人口微減と生産年齢/年少人口減少は2040-2060年、③老齢人口減少と生産年齢/年少人口減少は2060年以降、と分けています。
すなわち、2040年までとそれ以降では大きく事情が違うようです。高齢者が増える段階と高齢者さえ減っていく段階の違いです。
そこで国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」から65歳以上の人口動向を2040年までのデータで見てみると、都道府県別の将来人口は一律ではないことがわかります。
2040年の65歳人口比率、いわゆる高齢化率はほとんどの都道府県で35%以上になりますが、大きな違いは65-74歳人口の実数です。10%以上減少する都道府県がある一方で、増加する都道府県もあります。
これは資産運用というビジネスの視点から見ると、都道府県別にかなりばらつきがあるといえそうです。地方自治体にとっては、若者を呼び込むことも大切ですが、実は「高齢者誘致」も大切な視点かもしれません。
<<これまでの記事はこちらから>>
合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史