ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの研究者による、滋味深い与太話のような…
書店に並ぶのは〈非凡な人〉が〈平凡な人〉に向かって書いた本しかない!?
〈凡人〉を自負する著者の森川慎也氏は、書店には一流の著者「非凡な人」が平凡な人に向かって書いた本しかないという事実に気がつき、「凡人による凡人のための本を自分で書こう」と決めた。そう本書を書き上げた経緯について、記しています。
そして、自身の経験に基づき「凡人として生きる術を身につけるには、文学を読むのが一番いい」ときっぱり言い切り、「四十代以上の読者」に向けて、「凡人として生きるための知恵を文学から学び、読者のみなさんに健やかに軽やかに生活してもらうことを願って書いた」といいます。
その森川氏は、英国の作家カズオ・イシグロを研究対象としており、本書の中でも〈非凡〉な作家として第二章を丸々使ってその「面白さ」を紹介してくれます。
カズオ・イシグロは、1989年に『日の名残り』で英国最高峰のブッカー賞を、2017年にノーベル文学賞を受賞した世界文学作家のひとりです。
森川氏は、「今さら彼のことを非凡などというのは滑稽かもしれない」と前置きしつつ、「これまで三十年間読んできた英文学の作家の中で一番面白いと思う作家」「彼は非凡な主人公を凡人に格下げするのが上手い」とも評しています。
これらはほんの一部の抜粋で、本文では絶妙な語り口でカズオ・イシグロについて紹介されており、カズオ・イシグロ好きの方に読んでいただきたい内容となっています。
「凡人」を駆使した〈目次〉は、眺めるだけでも楽しいです
また、本書は目次を眺めると、「私という「ブレない凡人」」「凡人の不幸―非凡な著作を読んでも非凡になれない」「凡人に分かる人生の無意味さこそ文学の入り口」など、「凡人」を駆使した見出しが並んでいます。
ずっと眺めているだけで、与太話といいますか、滋味深いおしゃべりといいますか、とにかくちょっと面白いので、画像で目次をご紹介しますね。じっくりご覧ください。
六章構成になっている本書ですが、著者自身のまえがきの表現を引きつつ紹介するとおよそ以下のとおりです。
- 一章:〈凡人〉を自負する著者の自己紹介
- ニ章:冒頭で紹介したノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの面白さについて
- 三章:著者による面白かった本/面白くなかった本の「読書感想文」
- 四章:文学の授業が退屈にならざるを得ない理由、また凡人の読者が「文学をどう読めばいいのか」について
- 五章:著者曰く「センチメンタルなエッセイ」
- 六章:凡人流「誇大妄想的評論」である文化論・文学論
〈凡人〉として生きるための知恵を文学から学ぶために、本書は冒頭から読むのがおすすめ
最後に、本書の導入となる〈まえがき〉の一部を紹介します。
よく本のまえがきで、「好きな章から読んでください」的な文言を見ることがありますよね。
著者の森川氏は「あれは本音ではないと私は考えている」とし、この本は「平凡な読者は前から読むことをおすすめしたい。」「面倒くさい著者だなと思われてもしかたないが、凡人の著者とはそういうものである。」と書いています。
そんな面倒くささを愛でながら読み進めたくなる、〈凡人〉を自負する著者による〈凡人〉のための一冊でした。
『40歳から凡人として生きるための文学入門』書誌情報と著者プロフィール
- 著者:森川慎也
- 版元:幻戯書房
- 判型:四六判
- 定価:本体2400円+税(税込2640円)
- 刊行年月:2024年3月
- ISBN:978-4-86488-295-8