世界制覇を目論む国内デバイス各社

 今やクルマの世界は未来形として人工知能を積み込み、いつでもどこでも誰とでもつながるコネクテッドカーが嘱望されている。そしてその流れは、人類の夢であった完全自動走行運転にもつながるのだ。またEVや燃料電池に代表されるようなエコカーが主役になってくるのは間違いのないところだ。

 こうした状況下で世界制覇を目論んでいるのが、日本の電子デバイス産業各社である。自動走行もレベル4までいけば、人間の眼にあたる半導体のCMOSイメージセンサー(CIS)が多く搭載される。この分野でぶっちぎり52%のシェアを持つのがソニーなのだ。そしてまた、EVが飛躍的発展を遂げれば主役の一角に座るのが、そこに搭載されるリチウムイオン電池である。この車載向けの分野で世界シェア40%を握り、これまたぶっちぎっているのがパナソニックなのだ。

 大きな変革の時代を迎え、かつて世界を牛耳る家電の盟主であったソニーとパナソニックが、車載向け電子デバイスにおいて揃い踏みで世界制覇というのは快挙であり、感慨深いものがある。両社の技術レベルは圧倒的に高く、量産のための設備投資も最先行しているだけに、次世代自動車の進展によって大きな追い風が吹くことになる。

クルマ1台あたりのコンデンサー搭載数は5倍に拡大

 半導体や電池ばかりではない。「車載向けの電子部品は、もしかしたら日本の独壇場になるかもしれない」――電子デバイス産業新聞で取材を担当する記者はそう語る。車載向けモーターでめちゃめちゃ強い日本電産はIoT対応のインテリジェントモーターを開発し、世界の先頭を切っている。ガソリン車からEVに移ればクルマ1台あたりのコンデンサーは従来比5倍の1万個に達する。こうなれば村田製作所、TDK、太陽誘電などは我が世の春を迎えることになる。

 それ以外でも日本ケミコン、ニチコンなども飛躍するだろう。コンデンサーという分野は、積層セラミックタイプにせよ、アルミ電解タイプにせよ、日本勢の天下であり、今後もこの流れは変わらない。そしてまた、現状においてプリント回路の世界チャンピオンである日本メクトロンの車載向けフレキシブル基板も一大飛躍の時を迎える。

 IoTに対応しエコに注力するというキーワードで戦う日本の電子デバイス産業の強さは半端ではない。このほかにも車載向けマイコンの分野においては、日本のルネサス エレクトロニクスが圧倒的に強い。車載情報向けシステムLSIについても、なんとルネサスは世界シェア47%を持ち、疾走している。車載コンピューティングといわれる「R-Car H3」は、車載情報分野の世界的な標準プラットフォームになる可能性が強まっているのだ。ちなみに、トヨタ自動車は20年に実用化を目指す自動運転車にルネサスのシステムLSIとマイコンの採用を決めている。デンソーもまた、ルネサスを採用することを内定した。

 EVやPHVなどのエコカー移行により、SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体が一気に伸びてくる。この分野の世界チャンピオンはドイツのインフィニオンであるが、日本のロームはこれをぶちのめして、世界チャンピオンのベルトを巻こうと息まいている。なんと18年度のロームの半導体設備投資は700億円であり、このうち600億円を投入し浜松と滋賀に巨大なSiCラインを設けるのだ。

 SiCパワー半導体の領域は三菱電機、富士電機、東芝など錚々たるメンバーが控えており、世界で戦う役者には事欠かない。元来が日本人は徹底的な省エネに強いわけであり、電力を節約するという技においては、類を見ないほど優れている。省エネカーの時代になれば、ニッポンの出番が来たといえるのだろう。

東芝も画像処理プロセッサーでシェア拡大狙う

 一時期は哀れな老舗企業として、世間の痛罵を浴びていたのが東芝である。しかして、黄金の技ともいうべきフラッシュメモリーで同社はV字回復のサイクルに入った。17年度の営業利益は6000億円近くとなり、債務超過分を一掃してしまうほどの勢いなのだ。惨めなピエロから昇竜と化した東芝は、車載分野においても凄まじい技を持っている。

 それが画像認識プロセッサーの「Visconti」シリーズであり、デンソーのカメラシステムに採用されるなど、この市場で大きくシェアを伸ばしてきている。もともと、東芝は画像処理LSIについては世界最強と言われており、REGZAで使っているLSIはソニー、サムスンなどの世界中のテレビで標準的に使われている。

 Viscontiの特徴は、クルマに搭載されているセンシングカメラから入力された映像を画像処理したあとに車両、モノ、ヒト、顔、手などの動きを検出し、この結果を出力するプロセッサーであり、自動運転には欠かせないものだ。この技術をベースに東芝は、デンソーと組んで次世代画像認識向け人工知能の開発にひた走ることになる。

 スマホ、パソコン、タブレットなどITの世界ではかなり遅れをとった日本企業であるが、次世代自動車向けに磨いた技が、いよいよ世界ステージのど真ん中に出て行くことになる。これが日本経済に与えるインパクトは限りなく巨大なものになるだろう。

(泉谷渉)

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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
 30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉