天国から地獄! 一晩で紙屑同然になったETN投資

なぜ冗談のようなことが起きたのか、今回の教訓は?

ETF(上場投資信託)は個人投資家の需要が高い金融商品

近年、上場投資信託(ETF)は裾野の広い市場規模となりました。ETFとは、特定の指数(日経平均株価など株価指数、原油など商品価格等々)に連動する運用成果を目指した投資信託で、その名の通り、取引所に上場しているものを指します。

その特徴としては、1)連動することを目指す特定指数の種類が豊富、2)ブル型とベア型がある、3)上場株式と同じように売買ができるなどが挙げられます。

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たとえば、特定指数を日経平均株価としたETFでは、日経平均レバレッジ上場投信(1570)がブル型、日経ダブルインバース上場投信(1357)がベア型として代表的なETFであり、個人投資家にも一際人気の高い(=売買が多い)ETFとなっています。

ETFに似たETN(指標連動証券)への需要も高まりつつある

ETFと似たような商品にETN(指標連動証券)があります。

ETNは特定の“指標”(ETFは指数)に連動する運用成果を目指した商品ですが、投資信託ではありません。この他にも厳密には様々な違いがあるのですが、上場しているETNは、投資家から見ればETFと全く同じように売買することができます。

そのため、このETNも個人投資家の間で人気が高まってきた商品の1つです。

「S&P500 VIXインバースETN」が実質▲96%安で強制早期償還に!

さて、前置きが長くなりましたが、今から少し前の2月6日(火)、このETNで“大事件”が発生しました。

米国株の上昇を背景に高値圏が続いていた「S&P500 VIXインバースETN」(2049)が、一連の米国株暴落により、運用元の野村證券(注1)から前日(5日)の終値比▲96%安の価格で強制償還されることが発表され、上場廃止も決定しました(既に19日付で上場廃止)。

注1:実際にETNを運用していたのは野村證券の欧州子会社

厳密に言うと少し異なるのですが、たった1日で▲96%下落した挙句に、いきなり上場廃止になったと考えていいでしょう。こんな冗談のようなことが本当に起きたのです。

一晩で紙屑同然に! 冗談のような悪夢が本当に起きた

今回の事象を本当にザックリ言うと、1月中旬に1株40,000円以上した金融商品(ETN)が、約3週間後に紙屑同然になったということです。

これはもう“暴落”という生やさしい表現ですむ話ではありません。

実際には2月7日に基準価格1,144円が償還価格として設定されたため、投資資金を全額失うわけではありませんが、ハッキリ言って“焼け石に水”、二束三文とも言えないレベルでしょう。

参考までに、「S&P500 VIXインバースETN」の価格(終値)の推移を掲載します。年明け以降の毎週末の終値、および、2月からは毎日の終値です。

  • 1月  5日(金):39,600円
  • 1月12日(金):40,100円
  • 1月19日(金):38,200円
  • 1月26日(金):36,500円
  • 2月  1日(木):34,300円
  • 2月  2日(金):34,900円
  • 2月  5日(月):29,400円
  • 2月  6日(火):値が付かず(注2)
  • 2月  7日(水):  1,146円

注2:運用元の野村證券が強制早期償還を発表し、それに伴う基準価格1,144円が設定されました。

一連の米国株暴落で、ETNの連動対象指標が“超”暴落に

このETNの連動対象指標は「S&P500 VIX短期先物インバース日次指数」というものでした。非常に複雑な指標なのですが、簡単に言うと“米国株が平穏に値上がりすると上昇する指数”です。

図表1にあるように、米国株が上昇し続けた今年1月まで、この連動対象指数も上昇したため、その間に多少の山谷はありましたが、このETN価格もほぼ一本調子で上昇し続けたことがわかります。しかし、米国株が下落するとこの指数も下落し、ETN価格も下がる仕組みになっていました。

図表1:S&P500 VIX短期先物インバース日次指数の過去2年間の推移

ところが、米国株は2月2日(金)にNYダウが▲666ドル安の大幅下落となった後、翌営業日の5日(月)は同じくNYダウが一時▲1,500ドル超安となる記録的な急落となりました(いずれも米国現地時間)。

当然、対象指標である「S&P500 VIX短期先物インバース日次指数」も大幅下落となり、翌6日(火)の東京市場で当該ETN価格が暴落となったのです。

「早期償還条項」が即刻実施されて“ゲームオーバー”

もう1つ重要なことは、このETN(S&P500 VIXインバースETN)には、「早期償還条項」という特約に似た条件が付いていたことです。それは、対象連動指数が前日終値を▲20%以上下回った場合は早期償還となる内容です。

ただ、実際には、この対象指数が1日で▲20%以上下落することは“まずあり得ない”と思われていたようです。

ところが、米国時間の5日(月)に一時▲90%近い下落となり、この「早期償還条項」が即刻適用されてしまいました。

恐らく、このETNを購入した多くの個人投資家は、“一体何が起きたのか?”と狐に包まれたまま、投資資金を(ほぼ全額)失っていったのでしょう。

ETFやETNへの投資は、商品説明書をよく読んでから判断を

このようにETFやETNでは、連動対象指数(指標)によっては、今回のような“まさか?” “えっ、冗談でしょ?”というような急激な価格変動が起こり得ます。特に、ETNでその傾向が強いようです。そして早期償還条項が適用されて、いきなり「ゲームオーバー」になることがあり得るのです。

“大丈夫、そんなこと起きるわけないよ”と高をくくっていたことが、今回は実際に起きたのです。

なお、ETFでも稀に繰上償還が起きる場合があり得ます。

証券投資の原則は「自己責任」

ETFやETNに投資する時は、その商品説明書をよく読んで判断することが必要です。ただ単に“上がりそうだ、儲かりそうだ” “チャートの形が良い”だけでなく、今回のような早期償還条項が付いているのか、連動指数は乱高下しやすいのか等をよく把握しておきましょう。

ましてや、“証券会社から勧められた”だけで投資するのは危険です。100%安全な金融商品はありません。最後は「自己責任」であることをお忘れなく。

葛西 裕一

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国立大学卒業後、国内・外資系の金融機関にて23年勤務後に独立。証券アナリストなどの職務を経験し、ファイナンシャルプランナー関連等の金融系資格を多数保有。専門は株式投資、貴金属投資、年金、相続、不動産。