2. 元が取れる期間に差がある原因
これまでの試算で、年金の元が取れる年齢に男性と女性で差があるとわかりました。この試算の前提で元を取れる期間に差が生じる原因となるのは、平均標準報酬額の差と考えられます。
厚生年金の給与からの保険料額は標準報酬月額によって決まります。注意すべきなのは、厚生年金保険料には国民年金保険料分も含まれている点です。
国民年金の受給額が決まる要因は加入期間だけであり、支払った保険料に関係なく国民年金額は決まります。そのため、平均標準報酬額によって差がつくのは厚生年金額のみです。
よって、平均標準報酬額が高い人(つまり収入の多い人)のほうが、年金の元を取るのに時間がかかります。
3. リタイアメントプランニングの注意点
公的年金は基本的には「払い損」にはならず、老後生活の支えになると考えられます。ただし、以下の2点には注意が必要です。
- 少子高齢化の進行による年金受給額の減少
- 長期的な物価上昇
公的年金制度の財政は、将来の人口に大きく影響を受けます。今後、少子化が加速すると、制度の存続のために給付水準が下がる可能性はあると考えておきましょう。
また、日本では長くデフレが続いていましたが、2022年以降、物価が上昇傾向にあります。物価が長期的に上昇すると、お金の価値が下がります。自分で老後資金を準備する場合、インフレに弱い預貯金だけでなく、投資を取り入れて資産の目減りを防ぎましょう。
4. 年金だけに頼らずに計画的に老後資金を準備しましょう
老齢年金は10年程度受け取れば元が取れるとわかりました。「払い損になるかもしれない」と考える人もいますが、一生涯受け取れる公的年金は老後の生活の大きな柱です。
ただし、公的年金だけで生活できる人は多くないと考えられます。早いうちにねんきん定期便などで見込み額を把握し、不足分を計画的に準備しましょう。
参考資料
- 厚生労働省 令和4年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 協会けんぽ「令和5年3月分からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)」
- 厚生労働省 令和3年「簡易生命表の概況」
- 総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国 2023年(令和5年)12月分」
松田 聡子