最近、新聞・ニュース等で話題になることが多い「フィンテック」ですが、全体像が見えていないと、どうもわかりにくいものです。話題になっていることが、そもそも何の話で、社会に、または自分にどれほどのインパクトがあるのか、という疑問もなかなか解消されません。
そこで今回は、まずフィンテックの全貌を探ってみたいと思います。
幅広いフィンテックのカバー領域
私が英国オックスフォード大学サイードビジネススクールのオックスフォード・フィンテック・プログラムで学んだことは、まず、フィンテックと言ってもその領域は幅広く、全貌を掴むのは難しいということです。
私自身、過去に日本とアジア新興諸国の金融の端くれで仕事をしてきましたが、分野で言うと、ニッチな領域(貸出、コーポレートファイナンスの中のSMEファイナンス、そのうち中堅・成長企業ファイナンス)に集中してきましたので、かなり偏りがあったかなと感じています。
また、現在のミャンマーのように、金融システム自体が未成熟な途上国でSME金融関連プロジェクトに従事していますと、フィンテックは遠い未来のことのように感じてしまい、あまり真剣に勉強もしていなかったと反省しています。
改めてオックスフォード大学の講座で学んだことをベースに、私なりに全体像を一覧表にしてみましたので、完璧なものではありませんが、ご参考までご覧ください。
この一覧表では、AIとビッグデータ(機械学習、予測分析)、仮想通貨(スマート契約、生体認証)、分散コンピューティング(DLT、ブロックチェーン)、モバイルアクセスとインターネット(API、電子財布、新決済プラットフォーム)という4つの「破壊的技術(disruptive technologies)」について、イノベーションが発生している金融の各事業領域に照らし合わせています。さらに各領域を、意思決定支援、預金、貸出、決済、リスク管理という軸で区分しています。
フィンテックの起業家、あるいは、投資家の皆さんにとっても、検討しているベンチャー事業がどのあたりに位置するものか、それを支える破壊的技術は何かなどを理解する際に便利かもしれません。また、それぞれのカテゴリーに既存プレーヤーを入れてみると、簡単な業界マップも描けます。
話題のビットコインとはそもそも何の話か
ところで、皆さんは「フィンテック」と聞いて、どんなイメージが思い浮かぶでしょうか。改めてそう言われると、人それぞれ自らの専門領域によって関心事が違うかもしれません。
たとえば、価値変動が激しいことが報道され、日本でも話題の「ビットコイン」。これは仮想通貨の一つですが、それを支える技術は「分散コンピューティング(distributed computing)」と言われるものです。
これはプログラムの個々の部分が同時並行的に複数のコンピュータ上で実行され、各々がネットワークを介して互いに通信を行いながら全体として処理が進行する計算手法のことです。そして2008年に仮想通貨ビットコインの基盤技術として登場したのが、「分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology; DLT)」と「ブロックチェーン」です。
この技術の話が私のような文系人間には難しいのですが、一般に、DLT は「多数の参加者が、帳簿間の不一致や二重譲渡などを避けながら同じ帳簿を共有する技術」を指し、ブロックチェーンはそのための技術の一つを指すことが多いようです。DLTの方が若干広い概念として使われることが多いわけです。
フィンテックは従来の金融イノベーションと何が違うのか
近年、世界の金融業界においてはIT化によって業務効率の向上、信用リスク管理の高度化などがなされてきましたが、このような金融イノベーションと比べ、今のフィンテックは何が違うのでしょう。
私の直感としては、フィンテックは「顧客目線」が起点となっていると感じています。破壊的技術によって新たな金融ビジネスモデルを創出するということが一つの特徴かと思います。
従来、金融イノベーションの世界では、既存の金融ビジネスの枠組みは基本的に変えず、金融機関側の都合で、その業務効率性を高めて利潤を最大化するということのみに着目していたのかもしれません。顧客目線が弱かったようにも感じます。
未来の大きなトレンドとは
さて、フィンテックの全貌を眺めながら、今、どんなイノベーションが起きているのか、キーワードを列挙すれば次のようなものでしょう。
そして、金融の未来にどんなトレンドが起きてくるのでしょうか。詳細は別途ご説明したいと思いますが、以下の4つのトレンドに整理することができます。
- 支店を通じたサービスから携帯電話を通じたサービスへの転換により金融取引の壁が低くなる
- ビッグデータ分析、AI、クラウドコンピューティングなどの技術インフラが広く活用可能となる
- 新たな通貨や信用システムの出現
- 金融サービスに対する顧客の態度や期待の変化
このような状況では、たとえば単純な財務指標分析のスキルを磨いても意味があるのか、もっと別のスキルが求められるようになるのではないか、ということが容易に想像できます。この点についても、追々お伝えできればと思います。
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大場 由幸