FXに限らず、「相場は『上がるか、下がるか、動かないか』しかない」などと言われることがあります。価格がこれから上がるのか下がるのかわかっていれば、大もうけできますが、なかなか難しいところです。と言っても、まったく予想できないわけではありません。まずは、為替レートがなぜ動くのかを理解しておきましょう。相場の先行きを予想する分析手法やツールもありますので紹介します。

目次
1. 為替レートはなぜ、上がったり下がったりするの?
 1.1 1973年までは、1ドル=360円の固定相場制だった
 1.2 「円高・円安」ってどういう意味?
 1.3 「価格」はあくまでもペアになっている通貨との関係
2. 為替レートが変動する要因はさまざま
 2.1 実需で動く
 2.2 ニュースや指標の発表で動く
 2.3 投機で動く
3. 為替相場の動きを予想する
 3.1 ファンダメンタル分析とテクニカル分析
 3.2 二者択一ではなく、ファンダメンタルとテクニカルの併用がポイント
 3.3 FXでは「勇み足」はリスクになりやすい
 3.4 将来の動きを予想するツールも登場
4. まとめ/自分なりの予想基準を持とう

1. 為替レートはなぜ、上がったり下がったりするの?

1.1 1973年までは、1ドル=360円の固定相場制だった

通貨の交換レート(為替レート)は刻々と変動します。大きなイベントが発生したようなときには、数秒間で数十pips以上も変動することもあります。

ところで、為替レートはなぜ動くのでしょうか。現在、米ドルや円、ユーロ、英ポンドなど多くの通貨が変動相場制になっています。変動相場制とは、通貨の交換レートを固定せず、市場の需給により自由に決める制度のことです。実は、変動相場制の歴史はそれほど長くありません。日本は1973年に変動相場制に移行しましたが、それまでは1ドル=360円に固定されていました。

第二次世界大戦後、米国の主導により、固定相場制が生まれました。金と米ドルの交換比率を金1オンス=35ドルと決めることで、ドルの信頼性を高め、基軸通貨とする狙いがありました。ところが、1950年代の朝鮮戦争、1960年代のベトナム戦争などで米国経済が弱体化するとともに、ドルを金に換えようとする人が増えました。1971年、当時のニクソン大統領は突然、金とドルの交換停止を発表しました。これを「ニクソン・ショック」と言います。ドルの価値は急落し、大きな混乱が起きました。固定レートの見直しなども行われましたが不安は解消せず、結局、1973年に変動相場制に移行しました。

1.2 「円高・円安」ってどういう意味?

新聞などで「株式市場では円安を好感し、輸出関連など主力銘柄が買われた」などと表現されることがあります。「円高・円安」とはどういう意味でしょうか。

まずFXでは通貨は必ず2つの通貨の「ペア」で取引されるのがポイントです。たとえば、日本で取引をする場合、通貨ペアは「米ドル/円」「ユーロ/円」「英ポンド/円」などと、日本円とのペアが一般的です。

米ドルを購入するには必ず相手となる(ペアになる)通貨が必要です。「米ドル/円」の場合、米ドルを買うとは「円を売って、米ドルを買う」ことです。逆に米ドルを売るとは「米ドルを売って、円を買う」ことです。日本の投資家が円建てでドルを買うのと、米国の投資家がドル建てで円を売るのは、実は同じ取引です(レートや手数料などはFX業者によって異なります)。

「円高」とは米ドルなど特定の通貨に対して円の価値が上がることを言い、「円安」とは逆に、特定の通貨に対して、円の価値が下がることを言います。たとえば、先月1ドル=100円だったものが今月に1ドル=120円になった場合、先月なら1ドルに交換するのに100円のお金を用意すればよかったのですが、今月は120円を用意しなければならなくなりました。円安になったからです。

製品を海外から輸入している企業にとっては、円安になると利益が減ります。逆に、輸出産業にとっては円安のほうがメリットがあります。たとえば、1ドルの製品を輸出する場合、1ドル=100円のレートなら100円の売上ですが、1ドル=120円(20円の円安・ドル高)のレートなら、120円の売上となります。為替レートの変動だけで2割も売上や利益が変わってしまうのです。日本では自動車など輸出産業が多いため、円安になると株価が上昇する傾向があります。

1.3 「価格」はあくまでもペアになっている通貨との関係

変動相場制では、為替レートは特定の通貨を「買いたい」という人が多ければその通貨の価格が上昇し、その通貨を「売りたい」という人が多ければ、その通貨の価格が下落します。

ただし、「価格」といってもあくまでもペアになっている通貨との関係です。日本では、「ユーロ/円」「英ポンド/円」「豪ドル/円」「NZ(ニュージーランド)ドル/円」などの通貨ペアが人気です。

たとえば「ユーロ/円」の場合、円を売ってユーロを買ったり、その逆だったりと思うかもしれませんが、実際にはやや複雑です。というのも、インターバンク市場では、ユーロと円を直接交換することはできないからです。インターバンク市場では米ドルを基軸通貨にして取引が行われています。このため、日本の投資家がユーロを購入するには、まず日本円を売って米ドルを購入し、その米ドルでユーロを購入するといったように、間に米ドルを挟んで取引を行います。このように、米ドル以外の取引では、間に米ドルを挟んで(クロスさせて)取引を行うことから、米ドル以外の通貨と日本円との通貨ペアを「クロス円」と呼びます。

と言っても、たとえばユーロを売買する際に、米ドルにいったん両替する必要はなく、ユーロ/円とされている通貨を売買するだけで、FX会社が自動的にレートを換算してくれます。

「クロス円」に対して、ユーロ/米ドル、英ポンド/米ドル、豪ドル/米ドル、NZドル/米ドルなどのように、通貨ペアの一方が米ドルのものを「ドルストレート」と呼びます。「クロス円」は「ドルストレート」に比べて値動きが複雑になります。

たとえば、ユーロ/米ドルが上昇していても、米ドル/円が下落していると、ユーロ/円はさほど動かないということもあります。逆に、ユーロ/米ドルはほとんど動いていなくても、米ドル/円が下落すると、ユーロ/円も下がります。

こういった点から、個々の通貨の需給やボラティリティ(価格変動の度合い)を判断するには、ドルストレートを参考にするのも一つの方法です。

2. 為替レートが変動する要因はさまざま

2.1 実需で動く

為替レートが変動する(通貨ペアの一方が買われて一方が売られる)のにはどのような要因があるのでしょうか。まずは以下のように「実需」すなわち、実際に米ドル(以下、ドル)や円などのお金が必要というケースです。

・貿易取引

日本企業が製品を輸出する場合、料金はドルで受け取ります。これを円に換える際にはドルが売られます。逆に輸入企業では支払のためにドルを用意しなければなりませんので、ドルを買います。日本企業は5日、10日、15日、20日、25日、30日と5の倍数の日(五・十日:ごとおび。ごとうび、ごとびとも言います)に決済(支払)を行うところが多いです。この日はドルが必要になるため、ドル高になりがちです。

・企業のグローバル活動

日本企業が海外進出を進めています。中には、海外売上高比率が国内よりも多いというところもあります。海外の子会社などからの利益送金(ドル建て)を円に換える場合にはドルが売られます。日本企業が海外の現地で生産設備などに投資を行ったり、さらにはM&A(合併・買収)を行ったりする際には巨額のドルが必要になり、ドルを調達することになります。

・海外投資家の日本への投資

海外の投資家が日本株や日本の国債に投資を行う場合には円建てになるため、ドルを売って円が買われます。逆にその決済の際には円が売られドルが買われます。

・金融機関、金融商品の運用会社

銀行などの金融機関は、自社の顧客の決済や外貨預金の販売などのためにドルが必要です。ファンド(投資信託)やREIT(不動産投資信託)など金融商品の運用会社は、国内外の株式や債券、不動産などの資産の買い付けや売却などをひんぱんに行っています。海外の資産を購入するにはドルが必要です。一方で、国内の投資家に配当金の支払いなどを行う場合には円が必要になります。

2.2 ニュースや指標の発表で動く

為替レートは実需以外でも、さまざまな要因によって変動します。一口で言えば経済的・政治的に「安心できる国」の通貨は買われ、そうでない国の通貨は売られます。

かつて、アフリカのジンバブエでは独裁政権による経済政策の失敗から、年間5000億%ものハイパーインフレに陥りました。通貨の価値もそれだけ下がることになります。このような通貨を持ち続けているとまさに「紙くず」になります。

このような極端な例でなくても、過去にはアジア通貨危機やアルゼンチンのデフォルト(債務不履行)による通貨の大幅な切り下げなども起こりました(それぞれ、現在とは通貨制度は異なります)。近年では、ギリシャがデフォルトに陥るのではないかと懸念されたことからユーロ安となりましたが、欧州連合(EU)や国際通貨金(IMF)が支援を打ち出したことから、その後落ち着きを取り戻しました。

「安心できる国」と見なされるには、まず経済的要因では、国内総生産(GDP)の伸びや貿易収支、雇用(失業率、雇用者数)などがあります。海外からの資金(投資)の伸びなどもあります。政治的要因としてはまず政策金利です。金利の高い国の通貨は低い国の通貨よりも高くなる傾向があります。日本のように長期政権で安定している国の通貨は買われる傾向があります。戦争やテロ、災害などが起きると、その国の通貨が下落します。こういった理由から、これらを伝えるニュースや経済指標の発表などがあると為替レートが大きく動く場合もあります。特に、日米欧の政策金利や、米国で毎月発表される雇用統計は注目されます。

2.3 投機で動く

さて、為替レートが変動する要因はさまざまとして、「(1)/実需で動く」「(2)/ニュースや指標の発表で動く」と紹介してきました。確かに、金利が高い通貨を保有しているほうが、金利の低い通貨よりは利回りの点では有利です。ところが、実際の値動きは複雑です。たとえば米株が上昇すると米ドルも買われる傾向がありますが、金利が上がりすぎると成長へのブレーキになるため、金利が上昇しないとわかると株価が上がることもあります。

また、日本円は世界でも低金利の部類に入りますが、「有事の円」と呼ばれるように、地政学的なリスクが高まると円が買われる傾向があります。経済的・政治的に「安心できる国」と見られているためです。

毎月発表される米雇用統計(失業率・非農業部門雇用者数)は、世界中の投資家が注目する重要な指標です。失業率が下がって、雇用者数が増えていれば米経済が好調であることを示すためドルが買われます。ところが、雇用者数が増えていても、当初の予想よりも低いと、ドルが売られる場合があります。また、雇用者数が減っていても「それほど悪くない」と判断される場合もあります。

こういった点から言えるのは、さまざまな数値はその増減もさることながら、「それを見て世界中の投資家がどう考えるか」が大切だということです。FXに限らず、相場は「美人コンテストの結果を当てるようなもの」とも言われます。自分が美人だと思う人を選ぶのではなく、審査員や会場にいる人が誰を選ぶかを当てることが大切というわけです。

雇用統計の数値が悪かったといっても(しかも数値は前月のものです)、欧州や日本の投資家が保有している資産にただちに影響が出るわけではありません。それでも、ときには公表後わずか数秒で数十銭~1円以上もレートが動くのは「世界中の人がこの結果を見て、ドルを売ってくるだろう」という投機的な思惑からです。

米国の要人などが「強いドルが望ましい」などと語るのは、実際に介入しなくても、それを聞いた投資家が「介入があるかもしれない」と考えたり、さらには「介入があるかもしれないと考える人が増えるかもしれない」という思惑で動くことを期待するためです。

ヘッジファンドなども中長期的には国と国とのパワーバランスなども見ているかもしれませんが、短期的には「数分後(時には数秒後)に上がるか下がるか」と考えて、自社の利益が出るように売買を繰り返しています。マネーゲームと言えばマネーゲームですが、実需だけでなく投機的な動きがあるために、日本の個人投資家も収益を獲得できるチャンスがあるわけです。

3. 為替相場の動きを予想する

3.1 ファンダメンタル分析とテクニカル分析

為替相場の動きを予想することは簡単ではありませんが、いくつかの手法もあります。大きくファンダメンタル分析(ファンダメンタルズ分析とも)と、テクニカル分析です。

ファンダメンタル分析とは、前述したように、経済的要因、政治的要因を考慮して相場を予想する分析手法です。たとえば、「米国で利上げが行われるならばドルが買われるだろう」と判断するわけです。ただし、ここで自分だけの独りよがりの考えになるのは危険です。自分の独りよがりではなく、「この結果を世界の投資家はどう考えるか」を予想することが大切です。

ファンダメンタル分析に対してテクニカル分析は、主に価格(レート)に着目し、過去の価格の動きから将来の価格を予想する分析手法です。

ファンダメンタル分析の特長は、価格が変動している理由を把握しやすいことです。たとえば、米国の要人が「ドル安は米国の輸出企業にとって望ましい」と発言したことをきっかけにドルが売られているとすれば、他の要人からそれを否定するような発言がない限り、しばらくはドル売りが続くのではないかと予想できます。

一方でテクニカル分析は主に価格のチャートを利用して分析します。チャート上には要人の発言などは記載されません。こういった点から「価格(チャート)はすべての材料を織り込んでいる」とも言われます。

これについて「テクニカル分析はあくまでも過去のデータに過ぎず、将来は予想できない」と語る人もいます。一面正しいですが、そうとも言えない部分もあります。というのも、チャートには、多くの投資家が過去にどのあたりから買ったか(売ったか)というデータが示されているからです。たとえば、25日移動平均線は25日間の投資家の購入価格の平均を表しています。価格が25日移動平均線を下回ると、平均的な投資家は損益分岐点を割り込み赤字になります。そこで、放っておいては損が増えるだけなので、25日移動平均線を割り込むと、損切りや投げ売りをする投資家が増えます。

また、日足や週足の下値付近ように商いが積み上がっているところはなかなか簡単に突破できません。むしろ押し目買いの好機になります。ファンダメンタル分析だけだと「なぜここで下げ止まるのか」と悩むところですが、テクニカル分析でチャートを見ると、「そのあたりがここ数日の日足の下限(下値サポート)だった」ということもあります。

3.2 二者択一ではなく、ファンダメンタルとテクニカルの併用がポイント

ファンダメンタル分析にもテクニカル分析にも、それぞれ得意不得意があります。「ファンダメンタルかテクニカル分析か」と、二者択一ではなく、両者を併用するほうがいいでしょう。

一般的に、為替相場はファンダメンタルの材料で動き始めます。逆に言えば、重要な指標の発表など材料がない日はあまり動きません。ただし、どこまで上がるか(下がるか)はテクニカル分析が参考になります。上値サポート付近まで上げてそこを突破するのか、あるいは上値を押さえられるのかと見て判断するのです。

3.3 FXでは「勇み足」はリスクになりやすい

ファンダメンタル分析でもテクニカル分析でも、「こう動くに違いない」という見込みで注文を出すのは避けたいところです。たとえば「今月の米雇用統計の結果は予想より悪いに違いない、だから、あらかじめ米ドルの売りでエントリーしておこう」と構えていたとします。実際に結果が悪く、米ドルの売りになれば大きな利益が見込めます。しかし、前述したように、結果が悪くてもドルがそれほど売られない場合もあります。また、むしろ「それほど悪くない」とドルが買われることもあります。

テクニカルでも「価格が移動平均線に近づいてきた。このペースなら、1時間後には移動平均線を割り込むだろう」と、売りでエントリーする人がいるかもしれません。これも、実際に割り込めば、ストップロスを巻き込んで下落し大きなリターンが得られるかもしれません。しかし、移動平均線では押し目買いを狙っている投資家も多く、もみ合ったり反転したりします。

いずれにしても、FXでは「勇み足」はリスクになりやすいため、まずは動きを見極めてから、流れに付いていくというのも一つの方法です。

ちなみに、雇用統計など重要な指標の発表にあたり、「どちらになるかわからないので両建て」にする人がいるかもしれません。同一通貨ペアについて「買い」と「売り」のポジションを同時に保有することを「両建て(りょうだて)」と言います。利食いポイントを遠く、損切りポイントを近くに置いておけば、一見、レートの変動リスクを抑え、リターンを得るチャンスが多いように感じるかもしれません。ところが、値動きが激しい場合などは、短時間のうちに価格が上下に振れ、両方のポジションが損切りに引っかかることがあるなど、なかなか初心者には使いこなすのが難しい手法です。慣れるまでは、「買い」または「売り」のどちらか一方でエントリーするほうがいいでしょう。

3.4 将来の動きを予想するツールも登場

コンピュータやインターネットの発達により、便利なツールも登場しています。いくつかを紹介しましょう。いずれも、過去のチャートの形を参考に将来の値動きを予測するという点では似ています。「百発百中」とは行かないかもしれませんが、参考にはなりそうです。

将来を予測する機能を早くから提供しているのが、FXプライム by GMOです。同社ならではのツールとして好評なのがチャート分析ツール「ぱっと見テクニカル」です。「ぱっと見テクニカル」には「形状比較分析」という機能があります。これは、最大約12年分(ローソク足3000本分)の過去チャートの中から、現在のチャートと形状が似ている時期を瞬時に探し出し、「過去の値動き」を参考にして「将来の値動き」を予測するというものです。

同様のサービスを他のFX会社でも提供しています。名称は異なりますが、一部のFX会社は外部の金融システム会社の同じソリューションを相手先ブランドによる生産(OEM)で利用しているようです。

相場予想ツールを提供している主なFX会社

  • FXトレード・フィナンシャル「FXTF未来チャート」
  • FXプライム by GMO「ぱっと見テクニカル」
  • 外為どっとコム「ぴたんこテクニカル」
  • JFX「未来予測チャート」
  • ジャパンネット銀行「テクニカるナビ」
  • セントラル短資FX「みらいチャート」
  • ひまわり証券「さきどりテクニカル」
  • ヒロセ通商「さきよみLIONチャート」

4.  まとめ/自分なりの予想基準を持とう

FXを予想するための手法やツールについて紹介しました。ここで大切なのは、突発的なニュースや価格の変動に振り回されるのではなく、「どういう状態になったらエントリーする」といった自分なりの基準を持つことです。「わからないときは休む」というのも一つの方法です。ぜひ勝ちパターンを身に付け、予想の精度を高めてください。

 

上山 光一