2018年1月18日にコミュニケーションアプリ「LINE」を運営するLINE株式会社と次世代投資サービス「FOLIO(フォリオ)」を展開する株式会社FOLIOが資本業務提携の締結を発表した。また、FOLIOは同時に、LINEのほかゴールドマン・サックス、電通ベンチャーズ、三井物産、SMBCベンチャーキャピタル、DCM Ventures、Draper Nexus Venturesを引受先とした第三者割当増資により、総額約70億円の資金調達を行っている。
今回は、サービスの本格的展開はこれからというベンチャー企業のFOLIOに対して、なぜLINEが資本業務提携に至ったのかを考えてみたい。
LINEとFOLIOが組んだ衝撃
LINEはもはや多くを語るまでもないが、国内月間利用者数が7,100万人を超えるなど、国民的サービスともいえるコミュニケーションアプリである。今回の提携を通じて、今後LINE内でFOLIOのサービスが使えるようになるという。
FOLIOは多くの人が注目する「テーマ」を切り口として、関連する株式に投資をするというユニークな投資サービスだ。FOLIOが扱うテーマには「ドローン」や「ガールズトレンド」といった、株式市場だけではなく幅広い層が興味を持つテーマが取り揃えられている。
では、日本の個人投資家は一体どのような人たちなのであろうか。日本証券業協会が2015年9月に発表した「個人投資家の証券投資に関する意識調査」によれば、有価証券に投資をしている個人投資家の過半数(全体の56%)は60歳以上のシニア層。50歳代も含めるとその比率は74%にまで及ぶ。こうした数字を見る限り、資産運用は”若者向け”とは言えないであろう。
投資経験の少ない若い世代の多くが利用するLINEと、自分にとって親近感や興味のあるテーマに投資ができるFOLIO。この組み合わせが、これまで投資が身近でなかった人でも投資を始めるきっかけになるというのは多くが期待するところである。
LINEがFOLIOと組んだ3つの理由を考える
では、LINEはなぜサービスとしてスタートしたばかりのFOLIOを選んだのであろうか。その理由を考えてみよう。
その1:これまでのネット証券にはない洗練されたUI
既存のネット証券とFOLIOのUI(ユーザーインターフェース)を比較してみるとわかりやすいのだが、FOLIOのUIは株式投資というよりも、まるでネットショッピングをしているかのような見た目と使い勝手の印象だ。自分が興味のあるテーマを手軽に探し出すことができ、そのテーマに関しての情報やデータを簡単に見出すことが可能だ。
LINEのUIも十分に使いやすいと感じるが、FOLIOのUIも同様だ。今回の提携でLINEのサービスにFOLIOが加わっても、違和感なく溶け込んでいくイメージが持てる。すでに多くのユーザーを抱えているLINEからみれば、デザインやUX(ユーザーエクスペリエンス、使い勝手)の世界観で同じベクトルを持つFOLIOとは取り組みやすかったと言えるのではないか。
その2:投資未経験・初心者層へのリーチで新たな収益源に
LINEの出澤剛CEOは、今回のFOLIOとの提携において「オンライン証券は、『LINE』のスマートポータル戦略においても今後重要な役割を果たすものになると考えております」とコメントしている。
コミュニケーションツールとして既に国民のインフラともなったLINEの次なる展開は、多くが注目するところである。海外に目を向ければ、AliPayやWeChat Payのようにコミュニケーションアプリに決済や資産運用機能が備わったサービスも多い。
LINEが今後、株式市場などからさらに評価されるためには、これまでのタッチポイント(接点)の規模を活用して収益源を拡大していけるかどうかがポイントになるであろう。その観点から金融事業の取り組みは欠かせない。
先述のように、日本の個人投資家層を見ると、LINEユーザーにはまだ証券投資を経験していない、あるいは十分にそうしたサービスを利用できていない層が多く含まれるという仮説を立てることができる。LINEが今後そうした層に資産運用サービスを提供できるのであれば、今後の事業機会は大きいと見ることができよう。
その3:先端フィンテックの活用
LINEのスマートポータル戦略においてオンライン証券の存在が重要だということは先に見た通りではあるが、LINEの金融戦略を今回の資産運用領域だけと考えるのは物足りなさが残る。
FOLIOは今回、研究機関「FUN」の設立も発表しているが、同社は社内に言語解析や機械学習(マシンラーニング)、データサイエンス、分散型台帳技術(ブロックチェーン)といった領域の優秀な専門家を多数抱えている。
LINEとFOLIOの提携が今後どのように発展するかは未知数だが、LINEはFOLIOと組むことで金融領域の最先端の技術にも取り組む余地を残している。LINEの海外における競合サービスの展開次第では、FOLIOのこうしたテクノロジーやリソースが必要となるシーンもあるのではないだろうか。
まとめ
LINEとFOLIOという一見お互いのサービスの距離が遠そうな両社ではあるが、これまで使い勝手の良いユニバーサルなサービスを提供できていなかった層に向けて、テクノロジーの活用により証券投資から将来的には金融サービスというフレームワークでも新たな展開が期待できそうだ。
LIMO編集部