一連の暴行事件で揺れる中、大相撲1月場所が始まる

1月14日から大相撲1月場所(初場所)が始まりました。初日から横綱・稀勢の里が敗れるなど波乱含みの幕開けです。

昨年の11月場所(九州場所)で起きた横綱(当時)日馬富士の暴行事件による一連の動向は既にご存じかと思われます。日馬富士の引退や相撲協会幹部の処罰などが行われましたが、今回の暴行事件が完全に解決したと考える人は少ないのではないでしょうか。

筆者は「早ければ、来年1月場所には4横綱でない可能性もあります」と懸念しましたが(『17年ぶりの4横綱時代は看板倒れ、終焉は意外に近いのか』)、不祥事による引退という形での4横綱時代の終焉は残念の一言に尽きます。

大相撲人気に水を差したくないという協会側の意図

今回の事件の根本的な原因がどこにあるのか、見る人によって様々な意見があるでしょう。しかし、多くの人が相撲界全体、ひいては日本相撲協会の“常識”に対して首を傾げざるを得なかったのではないでしょうか。

日本相撲協会による一連の対応を見ていると、現在の相撲人気に水を差したくないという意図を感じた人が多かったと思われます。また、相撲ファンの中にも、同じような考えを持った人もいたでしょう。確かに、“空前の相撲人気”と報じるメディアも少なくないのが実情です。

ところで、その現在の大相撲人気とは、それほど特筆すべきものなのでしょうか?

正確な観客動員数は一切公表されない大相撲

大相撲人気を検証する有効な手段の1つが、年間6場所での観客動員数(入場者数)でしょう。ところが、日本相撲協会のホームページを見ても、観客数に関する情報は一切公表されていません。また、協会が毎年公表する事業報告書や決算報告書を見ても、具体的な記述を見ることができない状況です。

他のプロスポーツと比較することが適切かどうかわかりませんが、プロ野球やJリーグが観客数を全試合公表しているのとは大きな差があります。

大相撲は本当に多くの観客が集まっているのでしょうか。

毎日「満員御礼」の垂れ幕は下りているが…

こう書くと、“毎日のように「満員御礼」の垂れ幕が下りているじゃないか”と思われるかもしれません。実際、昨年2017年は90日間(=6場所×15日間)全て「満員御礼」となっており、これは21年ぶりとのことです。

21年前と言えば、大相撲は若貴ブームに沸いていた頃で、とりわけ、横綱・貴乃花が年間4場所優勝した全盛期でもありました。その当時の記録に並んだのですから、大相撲の観客動員数が絶好調と見られるのは当然かもしれません。

「満員御礼」の判断基準が緩やかになってきた?

しかし、ここで重要なことは、「満員御礼」とはいわゆる“立ち見客も出るような超満員”とは異なることです。このような超満員は「満員札止め」と言いますが、そのような垂れ幕は用意されていません。

そこで、この「満員御礼」の定義を探ってみると、ある“一定数(一定割合)”以上の集客が達成された時となっています。しかし、日本相撲協会では、その一定割合の定義が明確に定まっていないことが既に明らかとなっています。

「満員御礼」を出す一定割合の基準に関して、現在ではおよそ75%~80%程度と見られているようです。一昔前の基準、具体的には21年前の若貴ブームの頃は90%~95%だったという報道もありますが、その判断基準はいつの間にか緩くなってきたと考えていいでしょう。

もし、本当に「満員御礼」の基準が75%程度ならば、協会と一般社会の常識にズレがあると思う人も少なくないはずです。

テレビ中継で映し出される空席が目立つシーン

「満員御礼」の垂れ幕が下りていても、本当にそうなのか疑問が残ることも少なくありません。大相撲のテレビ中継を見ていると、休日は別として、平日のマス席(注1)に空席が目立つシーンが映し出されます。どう贔屓目に見ても、超満員からはかけ離れています。

注1:会場の中段以降に設置される4人用に区切られたボックス席。座布団も4枚付いているが、4人だと足を投げ出せないので窮屈な感じがする。

正確な観客数を公表することから改革を始めてはどうか

“そんなバカな...前売りチケットは即座に完売だし、当日券もほとんどない!”と訝る人も多いでしょう。

しかし、こうしたスポーツの人気イベントでは、前売り券が完売にもかかわらず実際は空席が出てしまうケースは珍しくありません。少し前になりますが、2002年のサッカーW杯日韓大会では大きな社会問題となりました。また、2014年のブラジル大会もそうでした。

大相撲の場合、各部屋の後援会やいわゆる“タニマチ”と呼ばれる方々が大量に仕入れたにもかかわらず、捌き切れないことは決して珍しくないのです。

近年の大相撲は、今回の暴行事件以外でも不祥事が相次いでいます。その度に改革が叫ばれていますが、まずは、正確な観客動員数を公表することが第一歩ではないでしょうか。

葛西 裕一