自民、公明両党が2018年度の与党税制改正大綱を決定

自民、公明両党は2017年12月14日、2018年度の与党税制改正大綱を決定しました。「税制改正大綱」とは、翌年度以降、増税や減税などの税制をどう変えるべきかをまとめたもので、毎年12月中旬に発表されます。

この大綱をもとに翌年度の予算案が決定されます。さらに、政府の閣議決定を経て、税制関連法案が年明けの通常国会に提出されて成立すると、実際に増税や減税が行われます。

与党税制改正大綱と呼ばれるように、税制改正の案をまとめているのは与党(自民党と公明党)です。具体的には、自民党の中に自民党税制調査会、公明党に公明党税制調査会があり、両税制調査会が議論して翌年以降の増減税などをまとめます。

実は、税制調査会には与党のものとは別に、政府のものもあります。内閣総理大臣の諮問機関の政府税制調査会です。政府税制調査会の委員は学者や経済人などの有識者です。一方、与党の税制調査会の委員は国会議員です。

自民党政権下では、政府税制調査会(政府税調)と自民党税制調査会(自民税調)が併存しています。ただし、実権は自民税調が握っています。

旧民主党政権では、政府と与党の税制調査会を一元化し、政府税制調査会だけとしました。ただし、委員は政治家のみでした。また、2011年の野田内閣では民主党税制調査会が復活しました。その後、自民党の政権復帰に伴い、2013年には政府税制調査会が復活しています。

「税は自民税調の聖域」と呼ばれるほどの強い実権を握る

「税は政治が決める」というのが自民税調の基本的な考え方です。

背景には、税制改正のためには、政治家や産業界、財務省などの省庁との利害の調整が不可欠という点があります。こちらを立てればあちらが立たずという中で、ときには政治力で反発を抑え込むことも必要だからです。

このため、自民税調にはベテランの幹部で構成される「インナー」と呼ばれる非公式の幹部会があり、決定権を握っていました。「いました」と過去形で書いたのは、その存在感が薄れつつあるからです。

かつての自民税調は、「税調のドン」と呼ばれた山中貞則元通産相をはじめ、財務官僚らをしのぐ税の知識を持ち当選回数の多い長老議員をインナーにそろえた専門家集団でした。

「税は自民税調の聖域」と言われ、歴代の首相もおいそれと口出しできないほどでした。しかし、ベテラン議員の引退などにともない、世代交代も進んでいます。

首相官邸が自民税調に切り込み、影響力を発揮

現在の自民税調会長は宮沢洋一氏です。旧大蔵省出身、元経済産業相で政策通として知られ、自身もインナーの幹部メンバーだったこともあります。

現在のインナーは、宮沢氏のほか、前会長の野田毅最高顧問、額賀福志郎小委員長、細田博之前総務会長、甘利明元経済財政相、後藤茂之衆院議員、石原伸晃元経財相、塩崎恭久元厚生労働相の8人です。

石原氏、塩崎氏は先の衆院選後、インナーに加わったばかりです。特筆すべきは、両氏ともに安倍晋三首相に近いことです。かつての「聖域」に首相官邸が切り込んできているのです。

今回の税制改正大綱でも官邸の意向が反映された形になっています。たとえば、年収850万円を超える会社員や公務員らの所得税増税について、自民税調の当初案では増税対象は年収800万円超でしたが、公明党の批判を受けた官邸がこれに配慮して覆したと見られています。

27年ぶりの新税となる観光促進税(出国税)の創設や法人税減税についても官邸主導で進んできたものです。たばこ税の増税も党のたばこ議員連盟で会長を務める野田氏の反対を塩崎氏らが説得したと思われます。

今回すべての税制改正が実現すると差し引きで2800億円の増税となる見込みです。ただし、そのうちたばこ税の増税額が2400億円を占めます。高所得者の所得税も含め、「取りやすいところから取る」という印象は否めません。

年金や医療、介護などの社会保障給付費は、2017年度で120兆円、25年度には150兆円に膨らむと予想されています。150兆円とすると1日あたり約4100億円です。

社会保障給付費は税と社会保険料などを財源とし、税負担は約40%です。それでも、2800億円の増税を行っても焼け石に水というほどの大きな額です。

安倍政権は、2015年10月に予定された消費税率10%への引き上げを二度にわたって延期しています。抜本的な改革なくして、目先の安易な税収確保だけを続けていては負担が膨らむばかりです。社会保障制度のあり方なども含めて、未来を見据えた議論と決断が求められています。

上山 光一