相撲界に再び不祥事、横綱・日馬富士の暴行問題が発覚
またしても相撲会に不祥事が発生しました。横綱の日馬富士が場所前の巡業中(鳥取県)に、幕内の貴ノ岩に暴行を加え大けがをさせたことが明らかになりました。
各種報道によると、日馬富士はビール瓶で貴ノ岩を殴打した後、さらに素手で数十発の殴打を繰り返したようです。暴行を受けた貴ノ岩は、頭蓋骨骨折等の重傷を負って入院、現在開催されている九州場所を休場しています。
今回の暴行は、モンゴル出身力士の食事会(飲み会?)で起きたようです。その後、貴ノ岩の師匠である貴乃花親方は鳥取警察署に被害届を提出しており、今後は刑事事件として扱われる可能性が高くなってきました。
仮に傷害事件で立件されると、日馬富士の引退だけでは済まないでしょう。なお、日馬富士は九州場所の3日目から休場となりました。
目立つ相撲界の不祥事、直近10年間の主な不祥事一覧
今回の暴力沙汰を含め、近年は相撲界の不祥事が目立ちます。
- 2007~2008年:複数の相撲部屋における力士(主に弟弟子)への暴力事件(力士死亡を受けて刑事事件に。当該部屋の親方が解雇処分)
- 2008~2009年:大麻所持・吸引に関する問題(外国人力士など4力士が解雇、所属部屋の師匠が降格・役職辞任)
- 2010年:横綱・朝青龍の暴行事件(一般人に対する暴力行為、発覚後に引退。所属部屋の師匠が降格処分)
- 2010年:一連の野球賭博に関わる事件(大関・琴光喜やその師匠など多くの力士や親方が解雇。謹慎処分を受けた力士も多数。なお、名古屋場所のテレビ中継、優勝表彰式などが中止)
- 2011年:一連の八百長問題(多数の力士に引退勧告、多数の師匠・親方に処分。春場所や福祉相撲など数々の興業が中止に追い込まれる)
実は相撲界の不祥事は数え上げたらきりがない
ここに掲げたほかにも、暴力団との交際、拳銃の不法所持、力士の自動車運転による交通事故、カメラマンなど報道陣に対する暴力行為、複数の相撲部屋による多額申告漏れ(相撲協会含む)、無気力相撲問題など、数え上げたらきりがないくらいの不祥事がありました。
また、不祥事と言っていいのかわかりませんが、力士の女性問題なども少なくなかったと記憶します。そして、そのほとんどが週刊誌記事によって発覚しています。
2011年の八百長問題以降は不祥事がなくなっていたが・・・
しかし、2011年に起きた一連の八百長事件で大きな批判を受け、さらに、相撲興業の中止などを強いられたことを最後に、目立った不祥事は起きていなかったように思われます。
これは、日本相撲協会を始め、相撲界全体が不祥事撲滅に取り組み、広く国民から愛される相撲、支持される相撲へと舵を切ったことが主因だったと考えられます。
それだけに、今回の日馬富士による暴行問題は、相撲界だけでなく、相撲を応援する多くの人にとって大きなショックとなっているはずです。
公益法人の日本相撲協会は税制上の優遇措置を享受
相撲界の不祥事に世間から厳しい批判が出るのは、国技である相撲に対する期待の表れであるのと同時に、大相撲を取り仕切る日本相撲協会が「公益財団法人」であることも一因でしょう。
なお、2013年までは財団法人でしたが、2014年の公益法人制度改革により現在のように変わりました。ただ、後述する税制上の優遇措置に大きな変化はないと見られます。
公益財団法人とは、営利を目的としない一般財団法人のうち、非常に厳しい審査を経て“公益性”が認められた法人を言います。最大の特徴は、大きな税制上の優遇措置を受けられることです。特に、公益を目的とする事業は非課税となっています。
公益財団法人となった2014年以降、支払法人税はほぼゼロ
実際に、日本相撲協会の収支報告書を見てみましょう。なお、日本相撲協会は12月決算です。
以下、左から決算年度、1)税引前当期一般正味財産増減額、2)法人税等
2014年度:1)▲8億2,960万円、2)232,400円
2015年度:1)2億1,270万円、2)151,400円
2016年度:1)6億3,897万円、2)151,400円
「税引前当期一般正味財産増減額」とは、一般事業会社の税引前当期純利益に相当します。これを見ると、2015~2016年度は結構な利益にもかかわらず、ほとんど法人税を支払っていません。
ただ、公益財団法人として認可され、公益法人会計基準の指針が適用された2014年度に▲8億円強の赤字となっており、さらに、それ以前も赤字が続いていました。
そのため、税務上の繰越損失によって、2015~2016年は支払法人税がゼロになっている可能性もありますが、特殊な会計基準もあり、正確には分かりません。
相撲事業は非課税、国庫補助金や寄付金収入も非課税
ただ、日本相撲協会が手掛ける事業のうち、少なくとも、主力の相撲事業は非課税になっていることは間違いありません。また、国庫補助金や寄付金収入なども非課税になっており、やはり、税制上の優遇措置は非常に大きくなっています。
こうした状況を勘案すると、国民の税金が間接的に投じられていることは事実と考えられます。
税金の使途に対する国民の目線は厳しい
既にご存じの通り、一般国民に課せられる税金は、間接税を含めて年々負担が重くなっています。経営危機に陥った企業を公的資金(=税金)で救済することに激しい批判があるように、税金の使途に対する国民の視線には厳しいものがあります。
この傾向は、バブル経済期以前には見られなかった傾向です。税金の使途という意味では、相撲界の不祥事に対しても同じと見ていいでしょう。
今回の日馬富士による暴行問題は、それが傷害事件としての立件有無にかかわらず、日本相撲協会は国民に対して謝罪・説明する義務があると考えられます。今後の推移を注視するとともに、日本相撲協会の毅然とした対応を望みたいと思います。
葛西 裕一