洗濯機のなかでグルグル回る怒りと糸クズと発明のヒント

3億円の特許料を得たと言われる、洗濯機の糸クズ取り。発明に至るエピソードは有名です。ある雑誌で「元をたどれば、夫婦ゲンカ」だったという記事を見つけました。

発明者は、ごく普通の主婦。夫を送り出しあと、洗濯機を回しながら、夫の靴下にからみついた糸クズをひとつひとつ手で取り除きはじめました。取り除いても、取り除いても、糸クズは尽きることがありません。

頭のなかにあるのは、出かける前の夫婦ゲンカです。

「あんな夫のために、どうして私がこんなことをしていなきゃいけないのよ!」

おさまらない怒りの感情を鎮めようとしたのか、靴下を投げつけ、洗濯機のところに行きました。グルグル回る洗濯機を見ているうちに、あることに気づきました。

糸クズは、回転する水流の中心部にたまっていたのです。1カ所にたまっている糸クズさえ取り除くことができれば、もう(嫌な夫のために?)靴下の糸クズ取りをしなくていい!

多少、想像をまじえて記しましたが、どこにでもあるほのぼのとした夫婦もようが読みとれます。

発明は、女性がイラッとしたときに生まれやすい

洗濯機の糸クズ取りが特許を得たのは、1968年です。発売2年後には松下電器(現パナソニック)が洗濯機に1個ずつ取り付けることになり、月に15万個を売り上げることになりました。その後も売れ続け、得た特許料は3億円に上るそうです。

発明学会によれば、「発明は女性が優勢で、しかもイラッとしたときに生まれる傾向があります」とのことです。夫婦ゲンカにかぎらず、日常的でくり返し起こる嫌な出来事に出合い、それを解決しようというときが、発明のチャンスということになりそうです。

日常生活、とりわけ家事は今でも女性の担う部分が大きいので、「嫌な」出来事に出合う機会も女性のほうが多いだろうことは想像できます。発明が女性に有利なもう一つの理由は、細やかな気遣いができる分、「嫌な」ことにも気づきやすいのもあるかもしれません。

いずれにしても「嫌な」出来事は、チャンス。「嫌だ、嫌だ」と言って逃げてしまうのは、発明のチャンスをみすみす見逃していることになりかねません。

フリーサイズの落とし蓋、初恋ダイエットスリッパ……

女性が発明し、ビジネス的にもヒットした商品はほかにもたくさんあります。

まずは、フリーサイズの落とし蓋。沸騰した鍋のなかで煮物が動いて形がくずれるのを防ぐために、従来から落とし蓋が使用されています。ところが鍋のサイズに合わせて、落とし蓋も複数そろえなければなりません。

また、落とし蓋にはつまみがあるので、きれいに重ねて収納するのは難しく、その分、スペースが広く必要になります。むりやり重ねても、すぐにバラバラになってしまいます。

そんな”イラッ”を解消するために、「大きな蓋を小さくたためないか」と考えた結果、扇子のように折り畳める落とし蓋の発明につながったそうです。800万枚売れ、特許料6000万円超といわれています。

次に、初恋ダイエットスリッパ。家事と介護のストレスから増えた体重を減らしたいと思っても、スポーツに興じる時間はありません。筋肉をきたえるために、つま先立ちで家事をしましたが、長時間は無理でした。思考錯誤の末たどり着いたのが、かかと部分のないスリッパだったそうです。自ら起業し、55億円を売り上げたようです。

さらに煮汁を捨てずにアクがとれる「アク取りお玉」。ご飯を炊きながら蒸し料理ができる「炊飯蒸籠」。乗換、トイレなどへの最短車両情報を提供する「地下鉄乗り換えマップ」……どこかで使った、見かけた作品が続々と出てきます。夫婦ゲンカがあったかどうは別にして、いずれもイラッとする出来事がきっかけになって発明につながっているようです。

今ある物を、ちょっとだけ使いやすく便利にしていく

発明といえば、青色発光ダイオードやフロッピーディスクなど、知識的にも発想的にも突出したものを思い浮かべます。

国内外を問わず特許や発明に関する機関が口をそろえて言うのは、「ものすごい発明は、むしろ例外。我々が求めるのは、今あるものをちょっとだけ使いやすくしたもの」のようです。バンドエイドを想像すればわかりやすいのではないでしょうか。

ものすごい高収入をめざしていたら、発明(での成功)は一生涯できないってことですね。

間宮 書子