2.2 悲劇2. ガンで亡くなり約700万円も損をした
想定より早く亡くなったため、繰下げして損をすることもあります。
モデルケースの70歳受給開始の夫がガンになり75歳でなくなった場合、年金は5年間しか受け取れません。
加給年金がないと仮定して、65歳受給と70歳受給の総受取金額を見ると次の通りです。
- 65歳受給:240万円×10年間=2400万円
- 70歳受給:341万円×5年間=1705万円
総受取金額を比較すると、繰下げによって約700万円も損をしたことになります。
75歳よりも早く亡くなると損失額はさらに大きくなります。
65歳受給と70歳受給の総受取金額が逆転するのは82歳前(加算がない場合)になるので、繰下げを検討するときの参考にしてください。
2.3 悲劇3. 収入が増えて所得税が3.5倍になった
老齢年金にも「雑所得」として税金がかかります。
所得金額の計算は、年金収入から「公的年金等控除額(65歳以上は110万円)」を差し引き年金所得を算出して計算します。
年金以外に収入がなければ、「基礎控除額(48万円)」と併せて158万円までは所得税がかかりません。
また、健康保険料などに対する社会保険料控除や配偶者控除(38万円、配偶者70歳以上なら48万円)、生命保険料控除などが適用されれば、非課税額はさらに高くなります。
65歳受給の年金額が240万円、70歳受給の年金額が341万円、公的年金等控除額と所得控除額の合計が200万円の場合、課税対象額は次の通りです。
- 65歳受給:240万円-200万円=40万円
- 70歳受給:341万円-200万円=141万円
税率はどちらも5%(+復興特別所得税)であるため、繰下げすると所得税は3.5倍になります。
また、所得が増えると住民税や健康保険料が高くなったり、医療費や介護費の自己負担割合が高くなることもあります。
いずれも1年限りのものではなく、年金を受給する限り毎年負担しなければなりません。
年金額が増えても、支出が増えると繰下げして損をしたと感じるケースもあるでしょう。
3. 繰下げ受給は慎重に
老後不安を解消するために、繰下げによって年金額を増やすことは効果的です。
ただし、繰下げによって年間約40万円の加給年金がもらえなかったり、税金などの負担が増えることもあります。
また、繰下げ受給は長生きしたら得をして、早死にしたら損をするという特徴があります。
繰下げ受給は、後で後悔することのないように、デメリットも理解した上で慎重に検討しましょう。
参考資料
西岡 秀泰