2023年3月31日、政府は少子化対策の「たたき台」である「こども・子育て政策の強化について(試案)」を公表しました。対策の1つ「経済的支援の強化」として、所得制限の撤廃などを謳った児童手当の拡充策があります。
児童手当は2022年10月から所得制限が設定されましたが、反対する声もありました。
今回は、現行の児童手当の制度と政府の拡充策の試案のポイント、大学進学の費用の現状を解説します。
児童手当の現状。支給額や所得制限とは
児童手当は、中学生までの子どもを育てている世帯に手当金が支給される制度です。子どもの年齢ごとに支給される金額(月額)は以下のとおりです。
- 3歳未満: 1万5000円
- 3歳以上小学校就学前:1万円(第3子以降は1万5000円)
- 中学生:1万円
児童手当には所得制限があり、上限は扶養親族の人数と生計維持者の収入によって変わります。
たとえば扶養親族3人の4人家族の場合、以下のような金額となります。
- 所得制限限度額:736万円(収入額の目安960万円)
- 所得上限限度額:972万円(収入額の目安1200万円)
所得制限限度額と所得上限限度額の関係は、所得が「制限限度額以上 上限限度額未満」の場合、特例給付5000円となります。
2023年10月からは所得が「上限限度額以上」の場合、児童手当が支給されなくなりました。上記のケースでは所得が736万円以上972万円未満の場合、児童手当は特例給付の5000円となります。972万円以上で支給されなくなるわけです。
所得制限の判定は世帯合算ではなく、夫婦のうち所得の高いほうの金額で行われます。
つまり、夫婦のいずれかの所得が972万円以上であれば児童手当は支給されませんが、夫婦それぞれの所得が950万円ずつであれば支給されることになります。
児童手当の拡充策たたき台の3つのポイント
今回の試案による児童手当の拡充策の3つのポイントを解説します。
1.所得制限の撤廃
先述のとおり、児童手当には所得制限が設けられており、一定以上の高所得世帯には支給されません。試案ではこの所得制限を撤廃するとされています。
たとえば夫の所得が1000万円で子ども2人の専業主婦世帯では、所得制限のために児童手当が受け取れません。だからといって教育費の支出に余裕があるかといえば、そうでないケースも多いのではないでしょうか。
2010年に子ども手当(現在の児童手当)が拡充された際に、15歳未満の年少扶養親族についての扶養控除が廃止になりました。子ども手当には所得制限は設けられませんでした。
しかし、扶養控除は所得の高い人ほど有利なため、子ども手当によって損をした人もいるでしょう。
そうした経緯を踏まえると、児童手当の所得制限は高所得者にさらなる損失を与える不公平な改正といえます。よって、所得制限の撤廃は妥当なものと考えられます。
2.支給期間を高校卒業までに延長
現行の児童手当の支給期間は15歳の誕生日後の3月31日までですが、今回の試案では「高校卒業まで延長」とされています。仮に高等学校等就学支援金制度が現行のままであれば、高校生のいる世帯にとって非常に大きな助けとなるでしょう。
経済的な問題で進学を断念するケースも少なくなるのではないでしょうか。
3.支給額の見直し(多子世帯へ増額)
現行制度では3歳以上小学校就学前の第3子以降は支給額が増額されています。今回の試案では「多子世帯が減少傾向にあることや経済的負担感が多子になるほど強いこと」を踏まえ、支給額を見直すとしています。
具体的な内容は決まっていませんが、支給額の増額が実施されると期待できるでしょう。子ども1人と2人の養育および教育にかかるお金には大きな差があります。高所得者であっても、多くの子どもを育てるのは容易ではありません。
多子世帯への優遇は、少子化対策として有効と考えられます。所得制限などは設けず、思い切った給付をしてもよいのではないでしょうか。
大学進学費用を最新データから紹介
少子化の原因の1つに、教育費がかかりすぎることが挙げられます。子どもを大学に進学させるにはどの程度のお金がかかるのか、目安となるデータを紹介します。
入学金などの入学費用
国の教育ローンを取り扱う日本政策金融公庫のデータによる、国公立・私立別の大学の入学費用(受験料や入学金など)は以下のとおりです。
授業料以外の入学金等でも、私立大学では100万円近い費用がかかります。どの進学先でも一般的には複数の大学を受験するため、受験費用は30万円前後かかることがわかります。
授業料などの在学費用
国公立・私立別の大学の在学費用(授業料や通学費など)は以下のとおりです。
在学費用を合計すると国公立でも4年間で400万円以上、私立文系で約600万円、私立理系で約730万円と莫大な費用がかかることが確認できました。
入学費用とあわせた全額を入学までに準備するのは難しいかもしれません。目安として子ども1人あたり500万円程度の教育資金の準備を目標にするのが現実的ではないでしょうか。
そのためには児童手当の拡充に大いに期待したいところです。
少子化は時間との闘い
今回の試案は関係閣僚会議で議論され、2023年6月には改革の基本方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)が示されることになっています。
少子化に歯止めをかけるには、出産可能な年齢の女性が減少しないうちに行わなければなりません。
「これからの6~7年がラストチャンス」との岸田首相の考えからも、時間との闘いであるとの危機意識が感じられます。
日本の未来を左右する、非常に重要な政策であることは間違いないでしょう。
参考資料
- 子ども家庭庁「こども・子育て政策の強化について(試案)」
- 内閣府「児童手当制度のご案内」
- 財務省「扶養控除の見直しについて(22年度改正)」
- 日本政策金融公庫「令和3年度『教育費負担の実態調査結果』」
- 自民党「こども・子育て政策について岸田内閣総理大臣記者会見(全文)」
松田 聡子