アジア地域内各国の成長見通しを国別に見ていく第4回目は、ドイモイと呼ばれる経済改革で高い経済成長を実現してきたベトナムを取り上げます。

ドイモイ政策で高い経済成長を実現

ベトナムは、1986年にドイモイと呼ばれる経済改革が始まりました。共産党の一党支配下にありながら、市場経済への移行、外資への市場開放を推し進めつつ、安価な労働力を背景に労働集約型の産業を前面に押し出して発展させることで、高い経済成長を実現してきました。

国際通商・貿易が、ベトナム経済にとって重要な鍵になることを早くから理解して、国として動いてきており、1995年にはASEAN(東南アジア諸国連合)に加盟、2007年にはWTO(世界貿易機関)にも加入しています。

そして2015 年に入ると、TPP(環太平洋経済連携協定)の合意、EUとのFTA(自由貿易協定)の合意、さらにAEC(ASEAN経済共同体)の発足と国際的な経済枠組みの合意形成が続き、国際的な経済連携策を強化しました。

TPPが発効すれば、ベトナムの国内総生産(GDP)は2030年までに2014年比で10%も押し上げられるとの試算もあったほどです。TPPは米トランプ政権の誕生により残念ながら頓挫してしまいました。しかし、こうした試算からも、国際通商・貿易の強化がベトナムには有利に働くことがわかります。

話を戻すと、AECの発足によりASEAN地域内での関税が引き下げられたことは、労働コストの安いベトナムにとって有利な状況がまた一つ加わったとと言えるでしょう。「チャイナプラス1」というテーマでは、ベトナムの名前が真っ先に挙がりますが、ベトナムは、中国の後ろ姿を追いかける形で経済発展してきました。

TPP発効が頓挫した影響は?

2016年4月に首相に選出されたグエン・スアン・フック氏は、経済成長を重視する姿勢を鮮明にしています。低いインフレ率を背景にした利下げと、新規上場および政府保有株放出などの規制緩和策を実行して、投資家心理は大幅に改善しています。

銀行や一部業種を除く上場銘柄の外国人保有比率も緩和されたことから、代表的な上場銘柄であるビナミルクをはじめとして、外国人投資比率の拡大が継続、株価も上昇しています。

世界銀行(WB)の最新の東アジア・太平洋地域の経済状況レポートでは、2017年のベトナムのGDP成長率は、前年比+0.1%上昇の+6.3%に達すると予想されています。これはベトナム政府の設定した2017年GDP成長率目標+6.7%を下回っています(2016年の実績も+6.7%)。

しかし、世界経済の成長率が3.0%台前半という現状にあって、6%台の成長率はやはり高い成長と評価すべきでしょう。物価も安定しており、2017年の消費者物価指数(CPI)上昇率は+4%と安定した推移が予想されています。

上述の通り、ベトナムはTPPの発効によって、外国からの直接投資や輸出の増加という恩恵を受け、これにより一段のGDPの成長加速を期待していたので、トランプ大統領による米国のTPP撤退表明は、ネガティブな材料でした。しかし、株式市場は大きな下落圧力を受けることなく上昇基調を維持しています。

また、米国から見た対ベトナムの貿易赤字額は大きなものではなく、仮に米国政権が保護主義的な通商政策を採ったとしても、ベトナムが受けるマイナスの影響は大きくならないとの見方も出てきています。

今後も分散投資先として有望視される

一方で、ベトナムは、ここ数年、ASEANの後発国であるミャンマーなどがベトナムと同様に、安価な労働力を武器に新たな生産拠点として脚光を浴びるようになったことで、国際競争に晒されることになりました。商都であるホーチミンでは、大変な建設ラッシュの様相ですが、インフラ整備も、まだまだ追いついているとはいえません。

今後は、アジアでの大競争時代を迎え、伸びしろを競うような状況でしょう。しかし、ベトナムはマクロ経済が安定しているほか、ビジネス環境も、ここ数年で著しく改善しています。海外直接投資(FDI)も増加基調を保っていることが示すとおり、投資先としての評価も定まってきており、長期的、安定的な成長が期待できるようになってきているといえるでしょう。

また、ベトナムの人口は9270万人(2016年)と多く、平均年齢も27歳と、まだまだ若いといえる国です。ベトナム政府は2020 年までに、一人当たりGDPを3,750ドルにするという目標を掲げています。一人当たりGDPが3,000ドルを超えると、家電製品などの耐久消費財や自動車などの消費市場が急成長するとも言われています。

さらに、ベトナムは2050年までに世界で最も高成長を遂げる経済大国となり、予測GDPの世界順位は第20位に上昇(PwC、調査レポート「2050年の世界」2017年2月)するとの予測まで出てきています。分散投資先の一つとして、注目すべきであることは疑いないでしょう。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一