2023年2月4日に行われた、マネックス証券株式会社主催の「マネックス・アクティビスト・フォーラム2023」ビデオ講演②の内容を書き起こしでお伝えします。
基調講演
ビデオ講演①
パネルディスカッション第1部
パネルディスカッション第2部

スピーカー:オアシス・マネジメント・カンパニー・リミテッド 最高投資責任者 セス・H・フィッシャー 氏

議決権行使の重要性

セス・H・フィッシャー氏:みなさま、こんにちは。オアシス・マネジメントのセス・フィッシャーでございます。本日は、講演の機会をいただきありがとうございます。マネックスグループの存在に感謝します。私はマネックスグループの株主であり、そのことに誇りを持っています。

私たちは幸運だと思いませんか? マネックスグループという会社が身近に存在することで、投資を行いやすい環境が作られています。このようなすばらしいイベントを含めて、あらゆる金融商品へ投資できるようにしてくれています。また、安価なコストで投資できるようにしてくれたり、投資について深く考える機会を与えてくれたりしてます。

本日は、みなさまが持つ株主の力や、当社が日本で行っている活動として、会社を改善して投資を向上させ、未来の社会をより良くするために、ともにできることについてお話しします。

ご存じのとおり、みなさまは株主として非常に大きな力を持っています。株主が持つ力とは、株主名簿や取締役会議事録の写しを請求したり、議決権を行使したりする権利のことです。株主は企業の方向性を決める手助けができますし、私たちはこれを積極的に行っています。

また、多くの日本企業の長期的かつ主要な株主として、非公開で企業へのエンゲージメントを行い、必要があればエンゲージメントの内容を公開し、さらに公開キャンペーンを実施しています。みなさまも私たちと同じように、株主の権利を行使されることを提案したいと思います。

日本の株式の16.6パーセントは個人投資家が保有しています。ガバナンスやリターンを向上させるために経営陣が変わる必要がある一方で、現状に甘んじた経営陣に変わる意志がない場合、投資家が形勢を変えるのに十分な比率です。

個人投資家の数は増え続けていますが、個人投資家による議決権行使率は低いままですので、この数をさらに増やす必要があります。とても重要なことですので、ぜひ議決権を行使してください。

2022年の株主提案は168件と、かつてないほど増えています。そして、経営陣に対する反対票も多くなっており、経営陣はそれに耳を傾けています。たとえ提案が可決されなかったとしても、多くの場合、会社は政策を変更し、リターンやステークホルダーへの対応を改善させています。

実際に、2022年は3件の株主提案が可決されました。なお、こちらには会社提案への反対を推奨した私たちの提案は含まれていません。みなさまは、日本企業を改善させる力を持っていますので、その力を活用してください。

フジテックの事例

フジテックの事例をご紹介します。私たちはこの会社の筆頭株主で、深くエンゲージしています。私たちの活動をご理解いただける良い例だと思いますので、まずは私たちの考えについて少しご説明します。

この事例では非常に悪いガバナンスを改善しようと試みています。最終的に、ガバナンスが劇的に改善され、ステークホルダーや株主に恩恵をもたらす好事例となることを願っています。

まず、2018年にフジテックへのエンゲージメントを開始しました。2020年には、会社に対し、自己株式の消却や買収防衛策の廃止、バランスシートの改善を求める最初の株主提案を行いました。すると、内部告発の連絡が数多く届いたため、2020年7月に経営陣に対して、懸念事項を直接伝えました。

この時、会社や独立取締役は問題に対処することなく、それらを隠蔽する行動をとりました。そのため、この問題を他の株主へ伝えるために公開キャンペーンを実施し、最終的に当時の社長である内山氏の退任を求め、株主の65パーセント以上が内山氏の再任に反対票を投じました。

しかし、フジテックには本当の意味での独立取締役がいなかったため、株主の勝利とはならず、株主総会後、取締役会は内山氏を会長に任命しました。そこで、現在の社外取締役全員を交代させ、会社の経営を抜本的に改善する、本当の意味で独立した社外取締役を選任するよう、現在キャンペーンを実施しています。

2月24日には臨時株主総会を開催するよう請求しており、今回このお話ができたのは非常に良いタイミングだったと思います。

これまでの経緯

これまでの経緯についてご説明します。2022年に不正に関する最初の調査結果を公表しました。日本企業の株主としてこれまで見たことのない多くの問題を明らかにしています。他の会社で同様の問題が存在しないことを願っています。

調査結果は、当時の社長であった内山氏の受託者責任や善管注意義務の違反を示しており、これらの行為を許していた社外取締役も債務を果たすことに失敗しています。

創業者の息子である内山氏は、いわゆる小国の王子のような存在です。最近、投資家向けレターで世襲企業にまつわる多くの問題点について触れましたが、このような会社では指名委員会が機能することはありません。

なぜなら、従業員や株主をはじめとしたすべてのステークホルダーは最高の経営者を求めており、父親が創業者であっただけの人物を経営者に据えたいわけではないからです。

内山氏は会社を私的なものだと思っているようですが、株式を公開した時点で、すべての株主を平等に扱うという責任を負っています。しかし、その責任をまったく果たしていません。

過去の関連当事者取引

過去に行われた関連当事者取引の一覧です。このような取引はまだ存在するはずです。例えば、フジテックが所有する超高級マンションのドムス元麻布104号室は426平方メートルもの広さで、資産価値は7億2,500万円以上と推定されていますが、フジテックは、この物件を所有している理由について説明内容を変更し続けています。

当初、内山氏がこの物件に住んでいることを私たちが把握していると知らなかったため、この物件はトップ間の営業活動強化のために使用していると説明していました。マンションについてのみ質問したため、トップ間の営業活動が目的だと回答していました。

そこで「それは、おかしいですね。内山社長の奥さまが住んでいると登録されているようです」と指摘すると、もともとトップ間の営業活動の強化を目的にしていたところ、その後は役員の社宅などで利用していたと説明内容が変わりました。このように変更したのは、税務上の違反となることを回避するためです。

もし1,000万円以上の取引があった場合、開示する義務がありますが、開示された事実はありません。2013年9月にドムス元麻布は内山氏の妻の住所として正式に登録されており、類似の物件に基づいた想定価格は7.3億円に上ることが示されています。

このように、フジテックは虚偽の説明をしており、それだけでなく、自分たちに都合の良いように主張を変え続けています。そもそも、ドムス元麻布の管理会社はセールス目的でこの物件を利用することを認めていません。

しかし、取締役会はこのことにも問題を感じていないようです。相場より安い家賃を設定し、問題を隠すために2回の査定額の平均値でこの物件を売却しました。

利益を最大化する責任

会社には利益を最大化する責任があります。非常に低い査定額の中値で内山家に関係する会社に売却するのではなく、第三者に売却して利益を得るべきでした。さらに、当時は元麻布エリアのビル価格が50パーセントから80パーセント上昇していたにもかかわらず、使用された査定額は、数パーセントしか上がっていないという理不尽な前提となっていました。

このような行為は誤りです。その後、物件について大規模災害に備えた緊急避難場所として設立したと、再び説明内容を変更しました。これは非常におかしな説明です。大規模災害に備えるのであれば、本社から徒歩圏内にある古いビルではなく、耐震性の高い物件を選ぶのが普通で、これは非常に重大な問題です。しかしフジテックは、少なくとも物件売却価格3.7億円が会社に支払われているため問題ないとしています。

この他にも、非常に多くの関連当事者取引を行っています。莫大な資金を内山家関連の法人に貸しつけたり、内山家から物件を借りて賃料を支払ったり、近くに線路が追加される直前に、その物件を内山家に売却したりしています。さらに説明されていない賃貸関係の物件があったため、この件について質問すると、物件数が50件から5件に減少しました。

また、非公開の関連当事者取引が存在しています。内山氏自身が購入したジム施設において投資損失が出た段階で、それを補填するかのようにフジテックがこの物件を高値で買い取り、その後すぐに施設が閉鎖されました。

このようなひどい例は他にもあります。内山家と密接な関係を持つ税務アドバイザーの報酬を会社が支払ったり、内山氏個人宅の庭の手入れをするために、社員を私的に利用したりしていたことがわかっています。

私たちは、内山氏の社長再任に反対するキャンペーンを実施し、株主の65パーセント以上が再任に反対しました。しかし先ほどお話ししたとおり、株主総会の直後、社外取締役が参加していた取締役会で内山氏の会長就任が決議されました。これはとんでもないことです。取締役会は果たすべき最も重要な2つの責務をまっとうすることに失敗しました。

取締役会は、経営陣が会社から資産を奪わないように監視し、株主の意見に耳を傾けなければなりません。どちらの責務も果たされなかったため臨時の株主総会の招集を請求し、現場の社内取締役は変更せずに、社外取締役のみ全員の解任と、真の意味で独立している社外取締役を新たに選任することを提案しています。

現在の社外取締役はあらゆる面で、明らかに責務をまっとうしていません。これは、利益率の観点からみた私たちの評価です。そして、当社が提案する社外取締役候補のほうがはるかに優れています。候補者のうちの2名はエレベーター業界出身の専門家で、2名はファイナンス、2名はコーポレートガバナンスを専門としています。このような人材が社外取締役として選ばれるべきです。

社外取締役候補者

候補者をご紹介します。浅見明彦氏はゴールドマンサックス、バークレイズ証券出身です。クラーク・グラニンジャー氏はあおぞら銀行、新生銀行の役員でした。海野薫氏は弁護士で、現在DLA Piperのパートナーを務めています。

ライアン・ウィルソン氏は、長くカナダのエレベーター業界に従事され、嶋田亜子氏はカリフォルニアのウシオ電機の法務部門でトップを務めています。トーステン・ゲスナー氏はThyssenKruppのCEOを務め、エレベーター業界に深く携わってきました。

これが、私たちの考える本当の意味でのスキルマトリックスです。ガバナンスと独立性の観点で、現在の社外取締役全員は求められるスキルを持っておらず、エレベーター業界でのビジネスや技術分野、リスクマネジメントの経験もありません。

しかし候補者は、これらのスキルをほとんどすべて持っています。私たちやその他の関係者からの独立性を保ち、実際のビジネス経験もあり、グローバルで多様性に富んでいます。ファイナンスの経験も豊富です。以上が、現在フジテックと意見を激しく対立させている内容です。

現在の取締役は関連当事者取引の監視や、独立した調査委員会の設置に2回にわたり失敗しています。1回目の失敗は、利害関係がある会社の弁護士が所属する西村あさひ法律事務所に調査を依頼したことです。

2回目の失敗は、設立された第三者委員会が実際のところ独立性を欠いていたことです。委員長を務めた小林氏は東洋ゴム工業(現在・TOYO TIRES)の不祥事における第三者委員会で大きな失敗をした人物です。

調査委員会を正しく設置できなかったことは非常に残念で、これらが現在の社外取締役全員が交代するべき理由の1つです。小林氏は調査を可能な限り狭い範囲に絞り、フジテックのケースでも当社が指摘した問題のみを調査対象としています。調査開始からすでに半年が経過していますが、まだ結論が出ておらず、これは大きな失敗です。

また現在フジテックは、社外取締役候補者全員に対して個人攻撃をしています。過去数ヶ月間、候補者の減給を行いました。過去にコンサルタントの実績があるため、将来的にフジテックと利益が相反するかもしれないという内容ですが、候補者たちがそのようなことをするはずがないことは明白です。さらに、他の候補に対しても経験が不足していると主張しています。

これらの指摘すべてがダブルスタンダードです。フジテックの取締役になる以前に、現職の取締役の多くが取締役や実際のビジネスの経験がなかったり、より長期間の減給を受けた人物がいたりします。これらが意見が対立しているポイントです。

コーポレートガバナンスの専門家である当社の提案候補者2名に対しては、日本の弁護士資格を有していないことを理由に攻撃しています。しかし、もともと取締役は日本の法律関係についてアドバイスを行うことは許されておらず、会社は第三者の法律の専門家を雇う必要があります。

自分たちの候補者に対してのみ好意的に解釈する一方で、私たちの候補者に対してのみ厳しく追求しており、これはダブルスタンダードでしかありません。この点でも失敗を重ねています。

私たちは取締役に対して十分に高い報酬を支払うべきだと考えています。そうすることで、最高の経営陣を得ることができるためです。同じく、経済産業省にも提言していますが、インセンティブ報酬を付与したからといって、独立性が損なわれ監督が疎かになる恐れは低いです。

そのことを踏まえると、社外取締役へのインセンティブ付与の観点から、経済産業省だけでなくフジテックの現在の社外取締役へも、自社株報酬や業績連動報酬を付与する選択肢を含めて検討することが有効と考えられます。

社外取締役の報酬は固定給です。ただ座っているだけの人と、勉強して提案する人に同じ報酬が支払われています。社外取締役はただ座ってお茶を飲んでいるだけではいけないという点で、私たちと同じ考えを持っています。

しかし、フジテックは私たちの提案に対して激しく反論し、「主要なステークホルダーはこの提案に賛同していない」としています。これもおかしな指摘です。フジテックの資料では三井住友トラストや野村アセットの行使基準の一部のみを引用し、全体を引用していません。

両社ともエンゲージメントなどを通じて必要性が確認でき、ガバナンス的に問題がない場合は、私たちの提案に賛成するとしています。

フジテックの現在の社外取締役は、一連のコーポレートガバナンス違反の状況を長期間放置し、内山氏を説明責任を負わない会長職へ昇格させることで、株主の最も基本的な権利である議決権と取締役へ責任を追及する権利を著しく侵害する行為に加担しました。

また、フジテックの現在の社外取締役は日本取引所グループ、経済産業省、コーポレートガバナンス・コードが定める独立社外取締役のガイドラインに従っていません。みなさまには、フジテックの現取締役再任に反対票を投じ、真に独立した社外取締役候補者に賛成票を投じることを推奨します。

近日中にプレスリリースで、取締役候補者をご紹介するウェビナーをご案内するため、ぜひ参加して私たちや候補者たちの意見を聞いてください。当社の考えはすべて「フジテックを守るために」というWebサイトで公開しています。

みなさんは自身で変化を起こすことができますし、現在の日本で最も興味深く、重要なコーポレートガバナンスをめぐる争いに力を貸すことができます。

独立社外取締役の説明責任

独立取締役がどのような説明責任を負うかが争点です。日本において、コーポレートガバナンスや独立取締役の設置は非常に大きな進歩を遂げてきましたが、その進歩は、形式ではなく、中身や実態が伴った場合に初めて重要となり、機能して効果を発揮します。

フジテックのケースは、形式のみで中身が伴っていません。最高水準のコーポレートガバナンスを達成したと主張していますが、明らかに失敗しています。チェックボックスはチェックしたと言っていますが、チェックすることが重要ではなく、重視するのは中身であり、実態です。フジテックの臨時総会では、当社の取締役候補者に賛成票を投じていただくよう、全株主に求めたいと思います。

本日はお時間をいただき、ありがとうございました。日本の会社をより良いものにするために、みなさまが議決権を行使し、行動することを願っています。松本さま、マネックスのみなさま、このような場を設けてくださったことに感謝しています。ありがとうございました。

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