銀行から100万円借りて機械(減価償却は10万円ずつ10年間)を買った会社が、「債務超過になりました。今後も毎年1万円の赤字の見込みで、回復の可能性はありません」と連絡してきたとします。銀行としては、「すぐに返せ」と言うと、借り手が機械をスクラップ業者に二束三文で売却することになり、銀行の回収額は非常に少なくなってしまうでしょう。

しかし、回収を待てば、毎年1万円の赤字を出し続けても、銀行は毎年9万円(10年間で90万円)回収できるのです。決算は赤字でも、キャッシュフローは黒字だからです。それなら、返済を待つインセンティブがありますね。

減価償却は、利益は下押しするがキャッシュには無関係(初心者向け解説)

減価償却というのは、厳密ではありませんが、「機械を使うと磨り減って価値が減るから、その分は費用に計上しよう」といったものです。100万円の機械が10年で使えなくなるなら、毎年10万円分だけ機械がすり減ると考えるのです。

材料費5万円、人件費6万円で作った製品を20万円で販売している会社だとすると、収入が20万円に対し、費用は材料費と人件費と減価償却で合計21万円ですから、毎年1万円の赤字となります。機械が壊れる10年後には会社は解散します。

さて、毎年の現金の出入りを考えてみましょう。収入が20万円、材料の仕入れ代金が5万円、給料支払が6万円ですから、9万円の収入超過です。そうです。減価償却は、損益を計算する際には費用ですが、機械代金はすり減る時に払うのではなく、買った時に既に払ってしまっているので、毎年の支払いにはならないのです。

そこで、毎年手元に残る9万円を銀行に返済することができるのです。10年間で90万円です。銀行は、それを狙って「機械が壊れるまで返済は待ってあげるから、社員の雇用の心配は要らないよ」と優しく声をかけるのです(笑)。

大企業の場合には、銀行間の駆け引きも重要に

もっとも、債務超過の借り手を生かしておくのは銀行として管理が大変なので、中小企業の場合は清算してしまう場合も多いようです。そこで延命されるのは大企業ということになりますが、大企業の場合には複数の銀行からの負債があるので、別の面で面倒なことが起こります。

メインバンクとしては、「全部の銀行が返済を待つことで、借り手の倒産が免れるのだから、90万円(億円?)を平等に分け合おう」と呼びかけますが、非メイン行は「自分は貸出を直ちに全額回収する。それによって借り手が資金不足に陥って倒産しそうになったら、メインバンクが追加融資をすればよい」と言い張るのです。これを「メイン寄せ」と呼びます。

これは、非メイン行にとって、賭けです。メインバンクが追加融資に応じれば、自分は無傷で全額を回収できますが、メインバンクが追加融資に応じずに借り手が倒産すれば、「あの銀行に潰された」という悪評が立ち、他の借り手たちが一斉に逃げる(借入を返済して、他行からの借入に振り替える)でしょう。そんなことになったら銀行にとって大損害です。

一方で、メインバンクにとっても追加融資に応じるか否かは難しい選択です。多くの非メイン行のうちの一つが返済を要求してきた場合、借り手からメインバンクに追加融資の依頼が来ますが、これを受けてしまうと、他の非メイン行からも一斉に返済の要請が来るかもしれません。しかし、要請を断って借り手が倒産してしまえば、「あのメインバンクは冷たい」という悪評が立つでしょう。

そこで、メインバンクと非メイン行の間では、様々な駆け引きが行われることになるのですが、業界内の事情ですので、本稿では詳細は記さないことにしましょう(笑)。

なお、本稿は、拙著『経済暴論』の内容の一部をご紹介したものです。

<<これまでの記事はこちらから>>

塚崎 公義