日本の個人投資家が今後の資産形成を考える際に、避けて通れないキーワードが3つあります。それが「国際分散投資」、「長期投資」、「積立」です。今回はその中から国際分散投資について考えてみたいと思います。
日本株は循環株、米国株は成長株。日本人としてどちらに投資する?
分散投資とは、単一銘柄だけに投資するのではなく、産業が異なる複数銘柄に投資したり、単一資産に投資をするのではなく、様々な資産に分散することを意味します。
ただ、国内資産、たとえば円資産だけに投資をしているケースでは、複数の銘柄に投資したとしても、資産運用としては必ずしも成功するとは言えません。
日本株に限ってみると、バブル経済崩壊以降現在まで、日本株はいわゆる「循環株」です。景気の変動に応じて株価は上昇と下落を繰り返しています。
一方、米国株は株価の上下はあるものの、ITバブル崩壊、サブプライムローンバブル、リーマンショックなども乗り越えながら株価を拡大させてきた「成長株」と言えます。
このように、同じ株式でもどの地域の株式に投資をするかで投資リターンの結果は大きく異なります。日本株になじみがあるとはいえ、しっかりと資産形成をしたいのであれば米国株に投資した方がリターンが高くなることもあります。
そこで今回は国際分散投資への理解を深めるために、HSBC グローバル・アセット・マネジメントのマイケ・ブリーベニヒット氏と、日本の富裕層顧客を中心に抱えて欧米大手金融機関に長く勤務してきたプライベートバンカーに話を伺いました。
国際分散投資の勘所
ブリーベニヒット氏は、同社のシニア プロダクト スペシャリストとしてマルチ・アセット運用部に所属し、HSBCワールド・セレクション(愛称:ゆめラップ)の運用にも携わっています。
HSBCワールド・セレクションはいわゆるバランス型ファンドで、国内外株式(含む新興国株式)、債券(先進国国債および社債等)、不動産関連証券などに投資をし、ポートフォリオが組まれています。
ただ、資産運用の初心者がバランス型ファンドを選ぶといっても、数多くあるものからどのように選ぶかは難しいのが現実ではないでしょうか。
「投資家ご自身の投資経験やリスク・プロファイル(リスク特性)に応じて3つのコースを選べるようにしてあります」(HSBCブリーベニヒット氏)
実際、HSBCワールド・セレクションには「安定コース」、「安定成長コース」、「成長コース」の3つが用意され、それぞれリスク資産の配分が異なっています。
リスク資産配分が異なることでポートフォリオのボラティリティが変わり、運用によってパフォーマンスが変わってきます。
高いリターンを狙いたい投資家は高いボラティリティのファンドに投資をすることになりますが、その場合ボラティリティが低いポートフォリオと比較してより大きな資産価格の下落に直面することもあります。
しかし、長期で運用することが目的で、株価などが一時的に下落しても世界経済は長期的には成長し続けると見ている投資家は、より高いボラティリティのファンドを選ぶことも可能でしょう。
グローバルに事業展開する金融機関にできること
では、数多くあるバランス型ファンドの中で、HSBCワールド・セレクションはどのような特徴があるのでしょうか。
「当社内製のインデックスファンドやETFを主体にポートフォリオに組み入れることで低コストの運用ができています」(HSBCブリーベニヒット氏)
確かに、内製のファンドやETFで競合のバランスファンドよりも低いコストで運用ができるとすれば、それはグローバルで事業展開をする総合金融機関としての強みと言えるでしょう。
HSBCワールド・セレクションはゆうちょ銀行で取り扱われており、純資産総額は「安定コース」や「安定成長コース」ではそれぞれ120億円を超えるなど(2017年7月26日現在)、認知度を少しずつ上げてきています。
海外富裕層のバランス型ファンドの扱い方
欧米のプライベートバンクが世界の富裕層に提案する基本はバランス型ポートフォリオです。
では、バランス型ファンドという金融商品を個人投資家はどのように受け止め、活用すればよいのでしょうか。
長らく欧米大手金融機関に勤務してきたプライベートバンカーA氏は、富裕層が拡大している中国のプライベートバンキングで起きた現象を次のように語ります。
「中国の富裕層は、もともと個別株取引が非常に好きでした。バランス型ポートフォリオを提案しても受け入れてくれる感じではありませんでしたが、リーマンショック以降その状況は大きく変わりました。国際分散投資されたポートフォリオで、長期に安定的に運用したいというお客様が増えてきています」
では、バランス型ファンドの付加価値はどこにあるのでしょうか。A氏は続けます。
「バランス型ポートフォリオは、資産価格の値動きが小さいので一見退屈に見えます。ただ、私たちが工夫しているポイントは、社内外のグローバルネットワークから収集した情報やデータをもとに資産配分を決定し、マーケットの変化に機動的に対応できること。また、通常ではアクセスしにくい、たとえば外国人が容易には投資できない株式や債券などを金融商品として組成し、ポートフォリオに含ませることができます。グローバルで事業展開をする金融機関ならではのサービスと言えます」
おわりに
A氏の勤務するプライベートバンクは、自由に運用できる資産が少なくとも数億円程度なければ口座が作れません。そのため、国際分散投資は以前は一部の富裕層だけが享受できる金融商品だったと言えるでしょう。
ただ現在では、金融機関によってはインデックスファンドやETFが開発され普及することによって、一般の個人投資家でも直接購入することができる投資信託が提供されるようになりました。
毎日値動きを気にしたくない、でも資産形成を始めたいという人には、国際分散投資され、毎月積み立てることができるバランス型ファンドは取り組みやすい金融商品かもしれません。
LIMO編集部