規制業種である金融業界で金融機関に勤務する社員の年収が高くなるのには、そのビジネスモデルにも秘密があります。
たとえば銀行であれば、預金を預かり、その預金を貸出や運用をします。そのなかで貸出に伴うリスクをとりつつではありますが、金利を受け取ることができます。最近では投資信託の販売手数料なども収益源の一つです。
銀行業で利益を計上するためには、預金を獲得すること、貸出先の開拓や高い金利の取れる貸出先でリスクを管理しながら貸出残高を増やすことが必要です。低金利下で運用は難しい環境ですが、低い金利で資金を調達し貸出や運用で利鞘や投資リターンを追求するという原則は変わりません。
一時のような不良債権処理に追われるような状況では、銀行全体の収益が悪化してしまいますが、リスク管理が適切に行われているという前提であれば利益を得ることができます。
貸出業務では、場合によっては担当者1人で大きな資金の貸付もできます。貸付金額に応じて担当者を絶対に増やしていかなければならないというわけではありません。労働集約的な産業ではない、ともいえます。
これは生命保険会社の資産運用の現場にも同じことが言えます。何兆、何十兆円という資金を株式、債券、不動産、貸出、オルタナティブ資産を運用する部門で行いますが、金額が多くなったからといって、必ずしもそれに応じて人員を増やさなくてはならないというわけではありません。
このように金融機関は運用する資産があり、適切に投資機会を見出し、リスク管理をすることができれば、一人当たりの利益をしっかりと出すことができます。、金融機関の従業員の年収が高い理由には、ビジネスモデルが関係しているといえるでしょう。
台頭するFinTech。テクノロジーの進歩が将来を脅かす?
こうして見てくると、規制業種であり稼げるビジネスモデルがうまく回っている限り、将来も安泰であるように思えます。しかし、それほど世の中は簡単ではありません。その影にあるのが急速に進むテクノロジーの進歩です。
金融業界と最も関係性が深いのはFinTech(フィンテック)と呼ばれるテクノロジーです。FinTechの進歩により、今後は金融機関の業務も機械化、自動化、AI化が進んでいきます。もちろんこれによって人材が不要になるなどということはないでしょう。金融機関にとっても、顧客をしっかりと抱えており、投資機会の目利きができ、リスク管理ができる人材の付加価値は非常に高いといえます。ただし、このような環境の変化の中では、金融機関に勤務しているというだけで今後も高収入が得られるかは未知数です。
まとめにかえて
いかがでしたでしょうか。金融機関に勤務する人が高収入である理由を探るとすれば、規制業種であり、必ずしも労働集約的要素を必要としないビジネスモデルだという点にヒントがありそうです。
また、ICT業界のようにある日突然新しい企業が新しい技術で自分たちの事業に参入してくるといったことがないのは、金融機関経営者にとっては「これまで」は良かったといえるのではないでしょうか。ただし先にも述べた通り、FinTechの進展は金融機関を取り巻く環境を大きく変えてしまう可能性があります。ただしFinTechが進んでも、プライベートバンキングや投資銀行業務のように「個」の力が評価される仕事は残るでしょう。
30歳手前で年収1,000万円――この若さでその年収であればサラリーマンの中でもかなり珍しい存在だといえます。しかしそれは「今」の環境下であって、「未来」もそうだとは限りません。したがって、将来にわたって安定的に稼げるかどうかといえば、個人に帰属する強いスキルを持っているかどうかがカギになります。もしなければ高い年収を手にしているかは分かりません。それが今、そしてこれからの金融業界の現実なのです。
LIMO編集部