今も後を絶たない企業の不祥事
近年、上場会社のコーポレートガバナンス(企業統治)の重要性が叫ばれる中、企業側も社外取締役の導入、監査役の増加、企業内コンプライアンス遵守の徹底などに尽力しています。
しかし、残念ながら、企業の不祥事(スキャンダル)は後を絶たないのが実情です。不祥事が発覚した企業は、株式市場で株価下落という“洗礼”を受けた後、業績の大幅悪化等を経て、経営陣の刷新を含む抜本的な改革に踏み出すパターンが多いようです。
その一方で、不祥事が契機となって、株式市場からの退出を余儀なくされる企業も少なくありません。
大量の個人情報流出事件を起こしたベネッセホールディングス
この数年を振り返ってみると、企業の存続そのものを揺るがした深刻な不祥事がいくつかありました。そうした不祥事企業はその後どうなっているのか、少なからず気になるところです。
そこで、不祥事企業のその後を、業績や株価の動きで検証してみることにしましょう。第1回目は2014年に大量の個人情報流出事件を起こしたベネッセホールディングス(9783)を取り上げます。
通信添削教育の草分け的存在の「進研ゼミ」
ベネッセホールディングスの傘下にあるベネッセコーポレーション(以下「ベネッセ」)は、「進研ゼミ」や「こどもちゃれんじ」を運営する通信教育の最大手です。特に、進研ゼミは小中高生向けの通信添削教育としては草分け的な存在であり、その昔、受験勉強の一環として添削答案の作成に励んだ人もいらっしゃるでしょう。
1990年代後半以降、少子化の影響などにより進研ゼミの会員数も漸減傾向にありましたが、その高いクオリティが評価され、最大の収益事業として展開されてきました。
2014年に発覚した大量の個人情報流出事件とは?
2014年7月、そのベネッセで大量の個人情報流出が発覚しました。当初、会社側が発表した情報漏えい件数は約780万件でしたが、その時点で最大2,070万件に増加する可能性に言及していました。
ところが、最終的には、個人情報流出件数は約3,504万件、人数にすると約4,858万人分という、他に類を見ない大量の個人情報流出事件に発展したのです。
500円の金券で対処しようとした会社側の姿勢に批判も
この情報流出は、ベネッセの子会社に勤務していたシステムエンジニア(当時39歳)による単独犯行と判明し、犯人は逮捕・起訴されました。しかし、組織的な関与はなかったとはいえ、ベネッセの情報管理のずさんさは否めず、被害状況の発表も後手に回りました。
また、会社側は、情報漏えいが確認された顧客全員に対して、お詫びの手紙と500円分の金券(電子図書カードなど)を送付したのですが、その事務的なスタンスと、わずか500円の金券で対処しようとした考え方に対して大きな批判が集まりました。
漏えいした情報は進研ゼミやこどもちゃれんじなど、子供に関するものが多かったため、保護者(両親など)も非常にナーバスになっていたと見られます。
進研ゼミの会員数が激減、業績も大幅悪化に
この個人情報流出事件を境に、収益の柱である進研ゼミの会員数が、事件発覚前(2014年4月末)の365万人から、1年間で▲94万人減の271万人へと激減しました。その後も会員数は減り続け、さらに1年後の2016年4月には243万人まで落ち込んでいます。深刻な状況と言えましょう。
主力事業がこのような状況ですから、業績悪化は避けられません。特に、事件の影響が本格的に出た2016年3月期は、営業利益が対前期比▲62%減の大幅減益となり、最終損益も2期連続の大幅赤字に陥りました。
ちなみに、営業利益は事件発覚前の2014年3月期が358億円、それから2年後の2016年3月期は109億円、先日発表された2017年3月期は77億円でした。3年間で約5分の1になったことになりますが、情報漏えい事件の影響が最大の理由であることは間違いありません。
株価は2年間で事件発覚前の約半値に下落
この不祥事に端を発した業績悪化により、株価も下落の一途を辿りました。特に、2016年3月期業績の大幅下方修正発表後の2016年5月9日は、前日比▲20%下落の暴落となり、株式市場で“ベネッセショック”と言われたほどです。
なお、事件発覚前に4,500円程度だった株価は、それから約2年後の2016年6月には2,295円(ザラバ)まで下落しています。ザックリ言えば、株価が約半値になったということです。
こうした状況を踏まえ、2016年6月には代表取締役会長兼社長の退任など経営陣を刷新し、失った顧客信頼の回復を目指す新たな取り組みを始めて、今日に至っています。さて、その後、株価はどうなったのでしょうか?
ふと気が付くと、株価は事件前の水準近くまで回復
ベネッセHDの株価は前述した2016年6~7月をボトムに順調に回復しています。今年6月27日には年初来高値4,290円を付けるなど、ほぼ事件前の水準に回帰しました。特に、2017年3月期決算を発表した5月9日以降は、株価が一段高いステージに上がったという状況にあります。
これは、終わった2017年3月期業績をボトムに、会社側が掲げた2018年3月期からの収益回復シナリオを好感しているのに他なりません。会社予想によれば、2018年3月期業績は営業利益142億円(対前期比+85%増)、最終利益55億円(同+55%増)となっています。
まれに見る不祥事を経ての“大きな変化”に対する期待か
もちろん、会社計画通りに進捗したとしても、利益レベルは事件前の半分以下となり、まだ回復の途上にあります。しかしながら、社会的信頼を一気に失う不祥事を経て会社が生まれ変わろうとする大きな「変化」に対して、投資家が期待していると見ていいのではないでしょうか。
こうした株式市場の期待に応えることができるのか、今後の行方を見守っていく必要がありそうです。
LIMO編集部